1-13 凶報
かつての神童は見る影もないと老師たちは口々に囁き、
第七皇子に仕えていれば、将来安泰と思われていただけにがっかりしている者も多いだろう。だが、自ら仕える主を選ぶことなど赦されていないので、従者たちは諦めつつ、ならばこのまま平穏無事に過ごせればいいと思うようになっていた。
「
呆れた顔で、庭にしゃがんで何かしている
後ろ姿も細身だが骨格が昔よりしっかりしてきたのがわかる。少年に成長した
「あ、
「ああ、人界から貰って来た、蕾しか付いてない苗でしたっけ?結局何の苗だったんですか?」
魔界は陽が当たらないのに、なぜ人界の植物が育つのか。
思えば、この庭は人界に咲く花ばかりで、しかも年中咲いている。季節があるわけでもないので、本来春しか咲かない花々も普通に咲いているのだ。
この前三人で訪れた時人界は秋だったので、今の頃は冬だろう。
「わかんないけど、綺麗だからいいんじゃない?」
満面の笑みを浮かべ、白い花を見下ろしている
いつもなら定期的にやってくるのだが、珍しくその期間がいつもの倍は開いていた。
「早く
「あの方なら、一緒に喜んでくれるでしょうね」
「
そんな中、慌ただしく武官のひとりが遠くからこちらに向かって叫んでいた。近くに行くまでの時間も惜しかったのだろう。肩で息をしながら青い顔でやって来ると、改めて拱手礼をし、その場に片膝を付いて頭を下げた。
「どうした、そんなに慌てて」
その様子が尋常でないことに気付き、
「は、はい、実は······、」
ちらっと
「第五皇子様が······第四皇子様に、」
第四皇子、という名が出た時点で、良い知らせではないことがわかった。最近の第四皇子の行動は、目に余るものがあったからだ。第四皇子、
彼は幼い頃に一度、そして二年前にも、自分に仕えていた従者たちを皆殺しにした前科がある。大王はそれに対して特に罰を与えることはなかったが、さすがに理由は訊ねたそうだ。
「なんで~?なんでだっけ?ああ、えっと、あの時は確か····。みんなして俺の事怯えた眼で見てくるから、可哀想だから殺した?」
皇子たちやその母、高位の魔族たちが大勢集められた席で、そのような発言をした
「可哀想?お前にそんな感情があるとは、驚きだ」
「えぇ~?酷いなぁ。俺だって弱い者は可哀相って思うよ?それとも、殺さずに俺の魔力を高めるための、贄奴隷にでもすればよかった?」
贄奴隷。魔族は自分以外の魔族を奴隷にし、その力を搾取して魔力を高めることができる。やり方は様々あるが、少しずつ搾取するなら相手と交わるのが一般的。一気に取り込むなら、相手の魔力を息絶えるまで喰らい尽くして得る方法がある。
一方的な搾取のため、奪われすぎれば後者のように死に絶えるのがオチだ。ただ前者に関しては、奪われる側に尊厳などない。身も心も捧げている崇拝者であれば、喜んで受け入れるだろうが。
「じゃあ、今度からはそうする~」
「誰もそうしろなどとは、言っていないが?」
もはや会話をしても無意味と思ったのだろう。大王はさっさと第四皇子を下がらせる。
だからこそこの時に限らず、
言葉を詰まらせたまま、やはり
「僕に気を遣わなくてもいい。兄上たちがどうしたの?」
「第五皇子様が、亡くなりました。まだ確かな話ではないのですが、第四皇子様が第五皇子様を贄奴隷にして、この数ヶ月自室に監禁していたそうで······数日前に、第五皇子様は自ら命を絶ったと、」
躊躇うように最後まで伝えた武官の頬に、汗がつたう。その事実は信じがたいもので、報告している間も、自分自身信じられないという表情が浮かんでいた。
それ以上に、
「······
「······大王様は、それに対してなんと?」
「さすがに、今回は第四皇子様を幽閉しろとのご命令が······すでに地下牢に繋がれているそうです。第五皇子様の御遺体は、
「わかった······お前は下がって、新しい情報が入ったら教えてくれ」
わかりました、と武官は頷き立ち上がると、その場から去って行った。ふたり、残された庭先で、
「どういうこと····?なんで
その言葉に、思わず
絶対に違うとは言い切れなかった。けれども、嘘でも、そんなことはないと言ってあげたかった。言ってあげたかったが、言えなかった。
「······地下牢に行く。
「それは無理です。おそらく、誰も面会できないようにしてあるはず。そんなことより、あなたにはやるべきことがあるでしょう?」
そ、と腕の中の
ぎゅっと握りしめられた上衣から伝わってくる、感情。それは、
今、その赤い瞳がどんな色を湛えているかなど、知りたくもない。だからこそ、本来すべきことを
「
大好きなひとの笑顔が、いつまでも頭から離れなかった。
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