1-2 仙人に頼めばなんでも解決できるだろう、説。
手持ちの唯一の財産である林檎ひとつで、今日の宿を見つける。
主がやろうとしているのは、所謂、物々交換というやつだ。
お互いが欲しいものを渡すことで交渉が成立し、自分たちにとって大したものでなくとも、相手にとっては必要なものであることが条件になる。
だがしかし、この"ただの林檎"を、今すぐに欲しいと思う者がはたしているだろうか。ふたりの不安をよそに、
「じゃあこの林檎は、この中で一番運の良い
「はあ····で、その辺りの屋台でも買える、何の変哲もないただの林檎を、一体誰が欲しがるというんです?」
それは、と
「道士様!いや、仙人様!どうか私にその林檎を譲ってはくれませんか?」
白い道袍の上に若草色の衣を纏う彼は、見た目は若いが、その中性的で美しい容貌もあり、道士というよりそれを修めた仙人に見えなくもない。道士だとしても、有名な門派の師や
「どうされたのですか?」
すかさず
「はい、実は、私の息子が数日前から原因不明の病に罹りまして、医者ではどうにも解決できず、祈祷師に頼んでみてもらったのです。そうしたら、その病は私の商売で損をした者がかけた、呪いのせいだと言われまして、」
「それでどうして林檎なんだ?」
怪訝そうに
彼がこういった反応をされるのはいつものことで、他のふたりが人当たりが良さそうな顔をしている為、常に不機嫌そうな顔をしている彼は、より恐ろしく見えるのだろう。
「は、はい。その者が言うには、仙人様が手に持っているものならば、なんでも良いと。しかし仙人様などそうそう現れるわけもなく、途方に暮れていたところだったのです」
「そうだったんですか。もしよかったら、この仙人様から息子さんを診てもらうというのはどうです?その祈祷師さんの考えが本当かどうか、確かめる意味でも」
「え?いいのですか!?」
(
そう心の中で訴える
とりあえず林檎は男に渡し、三人は彼の後ろを付いて行く。
どうやらこの辺りでも指折りの商家のようで、使用人や商売のために雇われた者たちも大勢いた。
広い庭には商売の品が入っているのだろう、大小様々な箱が並べられており、男の話から、装飾品や布を扱う行商だということがわかった。
通された客間も、三人くらいなら十分な広さで、ひと通りの家具も揃っているようだった。
「今日の宿は、とりあえずなんとかなったかな。息子さんがその祈祷師の言うように本当に呪われていたら、成功報酬も貰えるかもね」
逆にただの病であれば、自分たちにはどうすることもできない。
「
「さあね、どうかな?僕は何も知らないよ」
惚けているのか、やはり確信犯なのか、どちらなのかわからない言い回しで、
「そういえば、あのひとが言っていたもうひとりの道士様って、どんなひとかな?」
ここまでの道のりで、男は息子が病に倒れた後に邸を訪ねてきたという、道士の存在を明かしてくれた。祈祷師に呪われているせいだと言われたすぐ後に現れたので、少し疑いつつも、この邸に置いていたらしい。
もし何か企みがあれば、近くに置いておいた方が良いと思ってのことだそうだ。商売の見極めが得意な商人特有の、勘みたいなものがあるのだろう。道士が言うには、邸全体になにか悪い気が流れているとのこと。
その悪い気の原因を確かめるため、運が良ければ息子の病の原因を見つけるためにも、という理由で滞在しているそうだ。
確かに少し胡散臭い気もする。
「いいですか、その道士がどの程度の力の持ち主かによって、俺たちが
「僕は大丈夫だけどね」
「私もまあ、大丈夫でしょうね」
ふたりは"なんてことはない"という顔で、ひとり要らぬ心配をしている
「まあ、僕たちが
それは本心からで、
そんな中、こつこつと扉を叩く乾いた音と、中年の男の声が部屋に響く。
開かれた扉の先には、この邸の主である男と、その横にもうひとり、白い
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