第24話 文化祭
リリベラは黒いメイド服を着て、給仕ではなくお茶会を開催していた。
黒いメイド服はクラシカルなロングタイプで、リリベラの肌を覆い隠していたが、体に沿うようなスレンダーラインな為、リリベラの完璧な曲線美をさらに美しく見せていた。
リリベラが歩く度に、男子生徒から感嘆の声が上がり、視線がリリベラを後追いする。
「リリを見ている奴の目玉を潰したい……」
「おい、物騒なことは言うなよ」
招待券を手にしたランドルフが、執事服(高級仕立て)を着たクリフォードにつぶやいていた。
リリベラとランドルフが係に入る時間の優先チケット(リリベラのサイン付き)で入場したランドルフは、リリベラに群がる貴族子弟を忌々しそうに睨みつける。
さっきまでクリフォードの周りにも貴族子女が群がっていたのだが、ランドルフに話があるからと、クリフォードは逃れてきていたのだ。
「お嬢様のメイド服姿、尊い……」
「ビビアン!……君のその格好は?」
いつの間にかクリフォードとランドルフの後ろに来ていたビビアンは、ランドルフと同様に優先チケットを手にしていた。ただ、その格好が見慣れないというか、クリフォードからしたら見たことのない衣装と化粧でギョッとしてしまった。
「もしかして……ビビアンのクラスはお化け屋敷か?」
「当たりです、ランドルフ様」
「お化け?その格好が?」
ビビアンが着ているのは白装束がわりの白いシンプルなドレスを着て、頭には三角の天冠をつけ、さらには白塗りの化粧に口元には血糊まで施していた。
まさに、日本のお化けの装いなのだが、この世界にゴースト(半透明の魔力思念体)という存在はあっても、ヒュードロロ的な日本風お化けは存在しない。
ちなみに、ゴーストは恐怖の対象ではない。結局は人間の魔力が思念として残っただけなので、生きていた時以上の魔法を使えもしないし、より高い魔力をぶつければ霧散してしまう存在だからだ。
「そうです!お化け屋敷というのは、体育館に迷路を作り、こういう格好をしたキャストが隠れていて、入ってきたお客様を驚かすという物です」
「なるほど、確かにそんな格好でいきなり現れたらびっくりするかもな」
「ぜひ、後でいらっしゃってください。ランドルフ様は、お嬢様と一緒に。特別にスペシャル最恐でおもてなししますよ」
ビビアンはチケットを二人に手渡す。ちなみに、チケットはペアチケットになっており、男女ペアがおすすめですと但し書きが書いてあった。
「行く。絶対にリリベラと一緒に回る」
「僕は驚かされるよりも、ビビアンと回りたいんだけど」
「私は迷路を知り尽くしてますから。お嬢様以外の婚約者候補の方をお誘いになったらどうでしょう」
クリフォードの気持ちは全く通じていないようだ。ビビアンはシレッとクリフォードにダメージを与える一言を発する。
「あら、知らないふりをすれば良いんじゃないかしら?ビビ、もしクリフが腰を抜かしたら面子にかかわるでしょう。あなたなら、情けないクリフもスルーできるだろうから、一緒に入ってあげなさいよ」
なんとか貴族子弟達の輪から脱出してきたリリベラが、ビビアンの腕を取って言った。
「お嬢様の豊満なお胸が私の腕に!ご馳走さまでございます!」
「ビビ、まだお茶もしてないわよね。ご馳走さまは、食事の後に言うことですわ」
「食事……は、残っていなさそうですね」
通常は普通に喫茶店なんだが、リリベラとクリフォードが入る回だけは、立食で飲み物も自分で取りに行くビュッフェ形式にしてあった。予想よりも多くの客が入ってしまった為、飲み物も食べ物も完売してしまったのだ。
「そうね。今から仕入れても間に合わないだろうし、午前はこれで修了かしら。チケットも今日の分はすでに売り切れらしいわ」
「大盛況だね」
「そうね、クラスメイトじゃないと、なかなかクリフと話せたりしないから、みんなこの機会に顔を売りたいのよ」
同じように、リリベラ目当ての男子が多いなど考えてもいないリリベラは、この混雑の原因を全てクリフォードのせいだと思っている。
「自覚がないって怖いな」
「ランドルフ様に同感です」
「そろそろお茶会の修了の時間だ。みんなで文化祭回るだろ?」
クリフォードの筆頭婚約者候補としては、他の候補者を牽制する意味でも、クリフォードと文化祭を回って仲が良いところをアピールしなければならない。しかし、ランドルフと回る約束をしたし、ランドルフと二人っきりで回りたい!というのがリリベラの本心だ。
「そうですわね……」
リリベラがチラリとランドルフに目をやり、困りましたわとへニャリと眉を下げる。リリベラ推しの
「お嬢様、お化け屋敷に入った後、私がクリフォード様とうまいことはぐれますから」
ビビアンはリリベラに内緒話のようにこっそり言ったが、もちろん男性陣には丸聞こえである。そして、男性二人は内心ガッツポーズを取ったのだった。
お茶会は終了し、リリベラはクリフォードの腕に手を添え、仲良さげな様子を演出しながら校内を巡り、ビビアンのクラスの催しであるお化け屋敷へと向かった。
第二体育館入口には、一年三組お化け屋敷と、おどろおどろしい看板がかかっていた。
「とりあえず、四人で入りましょうか」
「そうね。二人よりも四人の方が怖くないかもしれないわ」
「私は迷路の正解を知ってますから一番後ろからついていきます。万が一キャストがクリフォード様に手を出してはいけないので、クリフォード様は私の前を。ランドルフ様は先頭でお願いします」
もっともな理由をつけたふりをして、ビビアンはランドルフの後ろに私を配置して、真っ暗な体育館に四人で入った。
「はぐれると迷路で分断されますんで、一列で制服をつかんで進みましょうか」
「真っ暗過ぎないか?」
「お化け屋敷ですから」
「凄いな。暗闇ってだけで、恐怖心は煽られるんだね」
体育館のあらゆる場所で悲鳴が上がり、それは甲高い女性の物だけでなく、野太い男性の悲鳴まで混ざっている。よほど怖いのか、ドタバタ走り回る音や、「来るなーっ!」という叫び声まで。
「戦○迷宮並みだな」
「旋律?なんだい、それ?」
「異国のお化け屋敷ですよ。あそこまで長くはないですけど、迷路に迷わなければ十分くらい。迷えばいつまでも彷徨うことになりますね」
ビビアンの得意気な声は聞こえるが、全く周りが見えない。しばらく手探りで歩いていると、多少は暗闇に目がなれたが、人の判別ができる程ではないし、一メートル先に誰かが潜んでいてもわからなそうだ。
ドキドキしながらランドルフの背中をつかんで歩いていると、横道から悲鳴を上げながら走ってきたグループと衝突した。
「ウワーッ!」
「キャーッ!」
誰かにぶつかられてリリベラは、ランドルフから手を離して転んでしまう。
「なに?何事ですか?お嬢様、お嬢様は?」
ペンライトの明かりが付き、ビビアンの顔が暗闇に浮かび上がる。
「「「ギャーッ!!」」」
女子生徒の叫び声が上がり、リリベラは誰かの手に引かれて立ち上がると、その手に引かれるまま走り出した。
暗闇の中を闇雲に走り回り、悲鳴がかなり遠ざかったところで、リリベラの手を引いていた人物が立ち止まった。
「……」
いきなり抱きしめられて、ランドルフかと思い抱き締め返そうかとしたら……。
「イテテテテッ……って、なんだよリリベラちゃんかよ」
至近距離で顔が見え、自分を抱き締めているのがスチュワートだと理解する。
「なんであなたが?!」
しかも、痛いと顔を顰めているようだが、スチュワートの手はしっかりとリリベラの腰を抱き寄せているではないか。
「まさか、ペンダントが……」
リリベラは慌てて詰め襟のボタンを外して胸元を確認する。ランドルフから貰ったペンダントはしっかりと胸元にあった。
「ヒュー。リリベラちゃん、積極的だな。そんなに俺にオッパイ見せつけたいわけ?」
「ち、違いますわよ!あなた、魔道具は発動していませんの?!」
「いや、発動してるよ。ほら、魔力半減の魔道具、増やしたんだよね。それでもかなりビリビリきてるぜ。知らないで触ったら悲鳴を上げるレベルで。わかってれば、なんとかなるな。恋に堕ちた衝撃?ビリっときたとか言うじゃん」
スチュワートは、両耳についたオキニスのピアスを見せてきた。
「離してください」
「ええ?こんなに抱き心地がいいに?」
グッと抱き寄せられ、嫌悪感でリリベラは吐きそうになる。
「マアッ!こんなところで逢引なんて、なんて破廉恥な!!」
いきなりペンライトの明かりを向けられて、キンキン甲高い声が響き渡った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます