第29話 事件の核心
第一から第十二まである騎士団は、ラーハ内にそれぞれ拠点となる駐屯地が存在している。
中でもクラウディアが騎士団長を務める第四騎士団の駐屯地は、便利屋がある商業地区と居住地区の間にあるため最も人々に認識されている騎士団でもある。
実際、人々と騎士団のわだかまりを減らす目的でそこに真面目な第四騎士団が配置されたのだとクラウディアは以前にレーヴに漏らしていた。
実際はその他にも高度なやり取りが行われていたのであろうとレーヴは予測しているが、真実を確かめる気は無かった。
「で? 何で第四騎士団駐屯地に向かわないといけないのよ」
黙って目的に向かうレーヴにアーシャが少しイラついたように質問する。
その様子を見てライアンが落ち着かせようと言葉をかける。
「アーシャ殿、レーヴ殿にも考えがあっての事でしょう」
「分かっているわよそんな事は! けど一言説明があってもいいでしょう!」
「アーシャ様、落ち着いてください」
イヴにそう言われ、自分が知らない内に大声を出していた事に気づきアーシャは気まずさを感じ顔を伏せる。
「……ゴメン」
「いや、アーシャの言葉は正しい。少し考え事をしててな、まとまるまで発言を控えていた」
アーシャの発言に対し、レーヴは気にしていないようにそう返すと説明をしだす。
「三人共、さっきのマイストスの話を覚えているか?」
「ええもちろん。第四騎士団についても触れていましたな」
「クラウディア様が何かしら関係している。そう考えていますか、レーヴ」
ライアンとイヴの言葉に静かに頷き、レーヴは足を緩める事無く進む。
「タイミングから考えても、第四騎士団がこの事件の解決に動いているのは間違いない。ただそうなると疑問が出てくる」
「疑問?」
アーシャが思わずそう問いかけると、レーヴは周囲に防音の魔法を張りながら答える。
「どう考えても第四騎士団、いやクラウディアは隠密活動に向いてない。現に動いている事が周囲にバレているからな」
「確かに。国はこの事を隠していたはず、矛盾を感じますな」
「その通りだライアン。何故この状況でクラウディアを動かすのか、そこに理論があるとすれば可能性は絞れる」
「国は既に目星を付けているのでしょうか?」
イヴのこの疑問に対し、レーヴは小さく頷く。
「恐らくはな、第四騎士団を動かす事で犯人たちにプレッシャーをかけている。そう考えれば納得はできる」
「目星が付いているなら総力で探せばいいんじゃないの?」
「そんな事をすれば恐らく逃げるか、証拠を隠滅するだろうな。だからこそ本気で探している事を犯人たちに強調するためのクラウディアなんだろうな」
ここでいう隠滅する証拠が、誘拐した者も含まれている事は言わなくても全員に伝わっていた。
アーシャは必死に自分を落ち着かせながら、レーヴにさらに質問する。
「……それが可能性の一つだとして、他に何が考えられるのよ」
「ああ、それは」
「おや? そこにいるのは便利屋殿ではござらんか?」
レーヴが何か言おうとする前に、特徴的な声が耳に入ってきた。
「コザクラ様」
「おお、以前のサムライ殿ですな」
レーヴたちを見つけて近寄って来るのは、間違いなくコザクラであった。
急いで防音の魔法を解除したレーヴは何事も無いように話はじめる。
「久しぶりだな。指南役はどうだ?」
「順調でござるよ。皆が真剣に打ち込んでくれているので、こっちとしてもやりがいがあるでござるよ」
そう和やかに話す二人をアーシャは何とも言えない表情で見ていた。
「アーシャ様? どうかなされましたか?」
「い、いや。何でもない」
イヴの問いかけにそう答えるアーシャであったが、内心ではコザクラに疑問を感じていた。
(どうもレーヴを見る目が怪しい気が……。気のせいかな?)
(ああ、できればレーヴ殿の冷たい目線が欲しいでござる)
実際アーシャの想像は当たってはいたが、それを知る術は無いのであった。
「ところで便利屋殿。大荷物を持ってどこへ向かうのでござるか?」
「荷物は別件だが、少しクラウディアに用があってな」
レーヴがそう説明すると、コザクラは少し驚いたような表情になる。
「便利屋殿もでござるか? 実は拙者も最近クラウディア殿を見かけないので様子を見に来たのでござるよ」
「……それで、クラウディアはどうだった?」
まずはコザクラから情報を聞き出そうと、レーヴが話を振る。
それに対しコザクラは残念そうに答える。
「いえ、どうやら任務であちこちを駆けている様子で会う事は出来なかったでござる。今は確か夕暮れの森とやらにいるらしいでござるよ?」
「……夕暮れの森、か」
「っと。他の騎士団の指南が待っているので、これにて失礼するでござる。他の方々もまた今度、時間がある時に改めて挨拶させてもらうでござる」
そう言ってコザクラは別方向へと去っていった。
再び防音の魔法を張るレーヴを横目に、他の三人は会話を進める。
「クラウディア様は駐屯地にはいないようですが、これからどうしましょうか?」
「決まってるでしょ。唯一の手掛かりなんだから追うわよ」
「夕暮れの森は入り口までならそう遠くないですからな。急げば夜には着けるでしょうな」
「……レーヴ。どう思われます?」
イヴのその問いにレーヴは少し考えてから答える。
「本来なら切り上げたい所ではあるが、アーシャは納得しないだろ?」
「うっ」
「悪いがイヴとライアンはアーシャと一緒に夕暮れの森の入り口でクラウディアから情報を聞き出してくれ。明日の朝に俺も合流する」
「レーヴ殿は夜の間は別行動を取る。そう言う事ですかな?」
「落ち着いて情報を整理したいし、こんな荷物をもって森に向かう訳にも行かないだろ?」
レーヴはライアンが持っていた荷物を召喚したゴーレムに持たせると、店へと足を進める。
「イヴ。二人を頼んだ」
「レーヴも気を付けてください。狙われる可能性が無いとは言えないのですから」
「そ、そうね。レーヴまで居なくならないでよ、本当に」
「分かってる。じゃあ明日の朝にな」
こうして空が夕暮れに染まり掛けて来た頃、レーヴと三人はそれぞれ別方向へ向かうのであった。
「ふう。取り敢えず荷物は整理完了」
店へと戻ったレーヴは買った荷物を内容からライアンとアーシャでどう振り分けるか、整理をしていた。
荷物で一杯となった部屋の中心で、レーヴは師匠から教えてもらった座禅を組む。
気持ちが落ち着くので、よく情報を整理する時にする体勢であった。
(……)
無心になって情報を整理していくレーヴ。
その集中は一時間経っても途切れる事は無かったが、突然にその口が開かれる。
「……おかしい。幾らなんでも偶然が過ぎる」
レーヴはそう言いつつ立ち上がると、今日一日の情報をまとめたメモを取り出し確かめる。
「やっぱりな。確認できた十五件中の八件がある一点で共通している。偶然で片づけていい事じゃないな」
その後もレーヴは確認するように独り言をつぶやいていく。
「となると犯人の目星も、その目的も予想は立つ。国が関係者に口止めしているのも納得だ。クラウディアを積極的に動かすのもそういう事なんだろう」
レーヴは部屋の中を歩き回りながら最後の疑問を口にする。
「となると残る問題は犯人と行方不明者がどこに居るか、だが」
その時、外からノックする音が聞こえた。
既に時間は夜中であり、レーヴが不審に思っていると声が耳に入った。
「便利屋様、第四騎士団の者です。クラウディア卿からお話があるそうで、近くの林に来て欲しいとの事です」
「……」
「便利屋様?」
「ああ、すまん。少し着替えるから数分だけ待ってくれないか?」
「分かりました」
数分後、レーヴは呼びに来た騎士と共に林に向かうのであった。
その後方で、一匹の犬がどこかへ駆けていくのであった。
あとがき
本日のお話はここまでとさせてもらいます。
事件の核心へと近づくレーヴ、果たしてこの事件の真相は一体何なのか?
それは次回をお楽しみに。
感想やレビューを貰えるとやる気が出ますので、ご迷惑でなければお願いしたいです。(無論、強制ではありませんが)
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