第22話 女サムライ、懇願する
「な、何故でござるか!?」
「いや何故って、そもそもこっちにメリットが無いだろ」
レーヴは呆れたようにそう言うが、コザクラは納得せずに食い下がる。
「た、戦いを挑まれて拒否するなど、それでも戦士でござるか!」
「生憎と俺は戦士じゃなくて魔法使い、ついでに言うなら商売人だ。戦士のプライドとやらは持っていない」
「うぐっ!?」
レーヴの言葉に言い返す事が出来ないのかコザクラは言葉を詰まらせる。
だが諦めきれないようで、必死にレーヴを説得しようとする。
「そ、それならば便利屋殿が勝てば拙者を好きにしてよいでござる!」
「いや、好きにと言われても」
「こう見えても拙者、体には結構自信があるゆえ満足してもらえると思うでござるよ!」
(分かってて言ってるのか? それとも天然か?)
聞きようによっては肉体労働という意味でも、はたまた大人な関係の事にも聞こえなくはない言葉にレーヴは眉をひそめる。
「……よく意味を理解できませんが、肉体労働の事を指しているのでしょうか?」
「あー。まあ肉体を酷使するという意味では同じでござるよ」
(確信犯かよ!?)
イヴの問いの返答からコザクラが何を言いたいのか察し、心の中でツッコミを入れるレーヴ。
だがどちらの意味にせよ、レーヴの答えは決まっている。
「悪いが答えは変わらない。帰ってくれ」
「ど、どうしてもでござるか?」
「どうしてもでござる」
コザクラは涙目も使いながら訴えるが、レーヴの意思は変わらない。
「尽くすでござるよ?」
「そう言う問題じゃない」
「気持ちいいでござるよ?」
「それは残念」
「経験が無いならリードするでござるよ」
「生憎リードしたい方なんだ」
「先ちょだけ! 先ちょだけでいいでござるから!」
「女性がそんな事を言うんじゃありません!」
完全に何の事か分からないイヴを放置して、その後もコザクラの説得は続くがレーヴの首が縦に振られる事は無かった。
「はぁ。そもそも何で俺に固執する? 他にも強い奴はいるから探せばいいだろ」
多くの冒険者や傭兵、はたまた実力を隠している一般人が多くいる帝国。
本気で探せば一人ぐらい満足できる者はいるだろうとレーヴは説得するがコザクラは拒否する。
「いえ! 一目見て感じ取ったでござる! 拙者を真の意味で満足させてもらえるのは便利屋殿しかいないと!」
(真の意味?)
「そもそもですが、どこでレーヴの事を聞いたのですか?」
コザクラの言葉に引っかかりを覚えるレーヴであったが、イヴの質問の内容も気になるので口を閉ざす。
「ここを訪れる前に『カリバーン』というギルドに立ち寄ったのでござるよ。すると皆一同にここで一番強いのは便利屋のレーヴという男だ、と申されたので」
「あいつらめ」
おそらく酔って何も考えず答えたのであろうギルドの面々を思い出しつつレーヴは顔をしかめる。
ママがいれば止めたであろうが、その日はギルドの総会に出ていた為に不在であった。
「『カリバーン』にはライアン様とアーシャ様がいます。まずそちらに当たってみては?」
イヴはギルド内でも実力者な二人の名を上げるが、コザクラの反応は渋い。
「そのお二人にもお会いしたでござる。ライアン殿にはお声がけしたのですが、依頼でもないのに女性と戦うのは気が引けると断られてしまい」
「ああ、言うな。ライアンなら」
「アーシャ殿はやる気を見せてくれましたが、その……殿方ではないのでお引き取りを」
「……それはさっき言ってた真の意味に関係する事か?」
(ピクッ!!)
レーヴにそう聞かれると、肩を震わせ挙動不審になるコザクラ。
それ機にレーヴは質問を浴びせる。
「そもそも何故男ばかりを狙う? 単に腕を試したいだけなら女とも戦うべきじゃないか? それをしないという事はそれとは違う別の目的があるとしか思えないが?」
「そ、それは……その……」
明らかに言いよどむコザクラを見てレーヴはため息を吐く。
「怪しい点がある以上、騎士団に突き出すことだって出来るんだぞ? もし帝国に害を与えると考えられる場合は許可書は確実に剥奪だろうな。……で、サムライ? お前の目的は何だ?」
「……言えませぬ。た、ただこれだけは言えるでござる!」
今まで挙動不審であったコザクラであったが、しっかりと意思を込めた目でレーヴの目を見る。
「決してこの帝国に、否! 人様に迷惑をかけるような目的ではありませぬ! あくまで個人的な事情である事、それだけは信じて欲しいでござる!」
「「……」」
気迫すらうかがえるその言葉に、レーヴだけでなくイヴも息を吞んだ。
レーヴはこれまでの情報も踏まえてどうするかを考える。
(嘘を吐いてる様子は感じないが……証拠も無いし、取り敢えず泳がせるか)
そう結論づけるとレーヴはコザクラに頷く。
「分かった。その言葉を信じよう」
「! 便利屋殿」
「ただ怪しいと思ったら躊躇なく国に引き渡す、それだけは覚えておけ」
「感謝するでござる」
コザクラが頭を下げ、この場は一件落着。
……と、なる訳もなく。
「では拙者と戦ってもらえるのでござるな!」
「そんな事は一言も言っていない」
「何と!?」
レーヴのその答えにコザクラはその顔を驚愕に染めつつ詰め寄る。
「な、何故でござるか! 信じてくれるのでは!?」
「信じたのは嘘を言っていない事に関してだ。そもそも隠し事してるのは自分で認めただろ? そんな相手と好き好んで戦う気はない。他を当たれ」
「そ、そんな……」
ショックを受けうなだれるコザクラを見て哀れに思ったのか、イヴがレーヴに耳打ちする。
「レーヴ。流石に受けられては?」
「絶対に嫌だ。どんな目的か分からない以上、危ない橋を渡る気は無い」
そのような事を二人が話しているとコザクラは何を思ったか床に寝転ぶ。
「? そんな事しても俺は」
「嫌でござる! 嫌でござる! 勝負受けてくれないと嫌でござる!」
「子どもか!?」
駄々をこねる子どものように手足をバタバタさせながら暴れるコザクラに思わずそうツッコミを入れるレーヴ。
イヴに至っては突然の行動にポカンとしている。
「そんな事してもダメなものはダメ! 大人しく宿に帰りなさい!」
釣られたのかどこか子どもを叱る母親のようになりつつも戦いを拒否するレーヴ。
だが、コザクラも決して諦めず今度はキレイな土下座を決める。
「そう言わず! この通り! 今なら拙者の人権も付いてくるでござるよ!」
「要るかそんな物! と言うよりもっと自分を大事にしろ!?」
ツッコミに疲れたのか肩で息をし始めるレーヴ。
イヴがどうすべきか悩む中、息を整えたレーヴが未だに土下座をしているコザクラを見下ろしながら断言する。
「諦めろ。お前の覚悟は認めるが、勝負を受ける事は無い」
「どうしてもでござるか?」
「どうしてもだ」
「絶対にでござるか?」
「絶対に、だ」
「……仕方がないでござるな。この手だけは使いたく無かったのでござるが」
ユラリと立ち上がるコザクラが刀の鞘を持つのを見て緊張が走るレーヴとイヴ。
だが彼女は刀を床に置くと、おもむろに巻いていたサラシを緩め始める。
「お、おまっ! 何を!?」
「フフフ。もしこの状態で拙者が悲鳴を上げた場合、他の者にどう思われるか見物でござるな」
「状況から見れば、レーヴが襲ったように見えますね」
(その言葉の意味を正しく理解出来てるのか!?)
レーヴが感心しているイヴにツッコミを入れてる間にも、サラシだけではなく履いていた袴のヒモも緩め終えたコザクラは不敵に笑う。
「さぁどうするでござるか? 拙者と勝負するか? それとも変態として噂になるか? 好きな方を選ぶでござる」
「っ! ……お前! プライドは無いのか! プライドは!」
「誇りがあるなら駄々っ子の真似などしないでござる!」
「自慢げに言うな!」
「……レーヴ。残念ながら逃げ道はないかと」
既に騒がしいのを嗅ぎつけたのか店の外には野次馬が数人集まっている。
この状況で叫ばれれば、噂は一気に広まるのは目に見えていた。
レーヴは同情の視線を送るイヴ、騒がしくなりつつある店の入り口、そして自信満々に自分を見つめるコザクラを見渡し天井を見上げてため息を吐く。
「今日は厄日だ」
結局レーヴは、コザクラとの勝負を受ける事に決めたのであった。
あとがき
という事で、今回のお話はここまでとなります。
コザクラの計略によって勝負を受ける事になったレーヴ。
次回はその戦いを書いていきたいと思います。
どのような勝負になるか?
そしてコザクラの目的とは?
是非次回を確認してください!
感想、意見は何時でも嬉しいですので面白ければ是非是非送ってください!
レビューの方もよければお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます