第21話 女サムライ、東方より来訪

「ここが帝国の中枢、ラーハでござるか」


 ラーハの東方を守護する城門前。

 そこでその女はとにかく目立っていた。

 少し背は低いが、女性のシンボルはとにかくデカい。

 そしてそれを隠すのはサラシと呼ばれる布を巻き付けたのみ。

 それに加え上半身にはラーハでは見ない上着を羽織るのみという攻めに攻めた服装であった。


(じー)


 そうなると当然周囲の目線、特に男性からの視線を集める。

 中には不躾に嫌らしい視線を送る者もいたが、女は気づいていないのか表情に笑みを浮かべる。


「ふふっ。期待で胸が躍るというもの」

(アンタのソレが躍ってるよ)


 女が動くと揺れる物体に男たちの視線が釘付けになる。

 中には女性の連れに軽蔑されたり、叩かれたりする者たちを横目に女はラーハに入るための列に並ぶ。

 時間が経ち、女の番になると兵たちは疑惑の目を向ける。

 見るからに怪しかったがこのラーハには辺境からの人間、果てはモンスターとのハーフも多くいる。

 少しばかりいつもより念入りに調べ武器を除く危険な物を持っていない事が判明し許可書も本物だと判明すると、すんなりと女はラーハへと入る許可が下りた。


「おおっ! 人が一杯でござるな!」


 田舎者丸出しの言葉であったが、初めてラーハに来た反応としては珍しくない。

 女の恰好を怪しむ視線が突き刺さるが、変わった格好をする者もラーハは少なくないため咎められる事もない。


「……ここでならば、拙者の願い。叶うやも知れん」


 先ほどとは打って変わって、真剣な表情で街中を見渡す女。

 その視線の先には武器を持った冒険者や立ち寄った傭兵がいた。

 思わず逸る気持ちで己の武器を抜きかけるが、必死に自制する。


「焦るな。じっくりと吟味をせねば」


 そう言って女は取り敢えず今日の宿を探すため歩き始め、街の雑踏に消えて行った。



「平和だな」

「暇、とも言いますが」


 その日、午前中の営業を終えたレーヴは何もせずにただ呆けながら椅子に座っている。

 同じく何もする事もなく同じく椅子に座っているイヴがそう口を出すが、レーヴはコーヒーを飲みながら反論する。


「いいんだよそれで。月一の頭を休める日なんだ、暇じゃなかったら困る」


 過度に頭を働かせると、逆に効率が悪くなる。

 そう師匠から聞いていたレーヴは月に一度、研究を止めて何もしない日を無理にでも作っていた。

 それは便利屋を始めてからも変わりなく、営業こそするがその日の午後は工房にも入らずただただのんびりしていた。

 そうなるとレーヴに連れ添っているイヴもやる事がなく、忙しい日々を送る二人にしては貴重な時間であった。


「……そう言えば、聞きましたかレーヴ」

「何をだ?」


 暇に耐えかねたのか、それとも単に思い出しただけか。

 イヴはレーヴに話しかける。

 レーヴが反応したのを確認すると、イヴは話始める。


「何でも不思議な恰好をした女性が、ギルドや酒場に乗り込んで腕に憶えのある者に勝負を挑んでいるそうです」

「それだけ聞いたらただの無法者だろ? 珍しくないだろ」

「それが……どうやら特殊な条件を付けてくるようで、以前立ち寄ったライアン様が噂していました」

「ライアンが?」


 聞きなれた名前が耳に入り、ようやくレーヴは真剣に聞き始める。


「ええ。本気で戦う事を前提条件として、その女性は自分が負けたら煮るなり焼くなり好きにしていい。ただし勝ったらより強い男を教えろと言ってくるそうで」

「随分と釣り合ってない条件だな。しかも男限定とはな」

「どうやらそのようで。金品も取らないので騎士団も静観しているようで」


 そこまで言うと、イヴは心配そうにレーヴを見る。


「レーヴも気を付けてください」

「? まさかそいつ魔法使いも対象か? 節操ないな」

「はい。とにかく強いと聞けば騎士団以外には勝負を仕掛けているようで」


 そこまで聞くとレーヴも頭の中で警戒レベルを上げる。

 レーヴの名前は便利屋としても有名だが、マスタークラスのマジシャンとしても名を知られている。

 そうなれば当然、その不審者がここに来る可能性も十分にあった。


「ま、頼むから今日は来てほしく無いな。折角の時間を潰されてたまるか」

「……知っていますかレーヴ。どうやら巷ではそう言った言葉は」

「頼もう!!」

「フラグと言うらしいですよ?」

「……知ってる」


 タイミング的に、物凄く嫌な予感をビシビシ感じつつレーヴは店の扉を開ける。

 そこにはラーハでも中々見ない恰好に身を包んだ女が芯が入っているが如く姿勢よく立っている。


「閉店中失礼する! 拙者は」

「あー。すまんが少々声を落としてくれないか? 目立つ」


 既に最初の一声で周囲の注目を集めており、視線がレーヴと女に突き刺さっていた。


「こ、これは失礼を。つい気が逸って」

「……暴れないと確約できるなら中に入れ。お茶ぐらいは出してやる」

「で、ではお言葉に甘えて」


 そう言って店に入って来た女を万が一のために待機していたイヴが出迎える。


「初めまして、イヴと申します」

「おお! 流石は噂の便利屋殿! 女中まで雇っているとは!」

「「女中?」」


 聞きなれない言葉にレーヴとイヴが聞き直すと、女は慌てた様子で言い直す。


「い、いえ。こちらの言葉ではメイドでござったな。まだヤマシロの言葉が抜け切れず、申し訳ない」

「ヤマシロ……確か、東方にあるという小さな国だったな」

「ご存知であったか」


 レーヴが思い出しながら言った知識に、女はどこか嬉しそうにする。


(気になる点は多々あるが……取り敢えず今は誤解を解いておくか)


 そう決めたレーヴは便利屋を眺めている女に話かける。


「ちょっといいか?」

「? 何でござろう」

「誤解が無いように先に言うが、イヴは確かにメイド服を着ているがそちらで言う女中じゃない。俺の師匠が造ったゴーレムだ」

「便利屋どのは嘘が下手でござるな。ゴーレムと言うのはアレでござろう? 魔法で動く人形であったはず。どう見ても違うではござらんか」

「人形と同じに言われるのは少々複雑ですが、レーヴは嘘をついていませんよ」

「……え? 本当でござるか?」


 本当に信じられないのであろう。

 目を見開きながらイヴを見つめる女。

 その隙にレーヴは女を観察する。

 衣類もそうだが、それ以外も目立っていた。

 顔立ちは綺麗に整っており、噂に聞く東方美人という言葉をレーヴが思い出すには十分であった。

 長い黒髪をポニーテールにしているが、一つ一つが艶を放っていうため宝石のようにも見える。

 だが、それよりまずレーヴが思ったのは。


(強いな、コイツ)


 であった。

 女が持っていた武器は帝国でも持っているのは少数の刀であったが、かなり使い込まれており無駄にぶら下げている訳ではなさそうであった。

 何よりも、女が発している魔力からその力量が相当なものである事を予感させた。


「……で? 名も知らない方? 何をしにここに来たのですか?」


 女の目的を調べるためにも、まずは直球の質問で探りを入れるレーヴ。

 念のために何時でもイヴと連携が取れる位置に移動するレーヴに女は慌てた様子で頭を下げる。


「こ、これは失礼をした! 今日は便利屋殿にお願いがあって足を運ばせてもらった!」

「そのお願いとは?」


 イヴもレーヴの考えを読んで位置を調整する中、女は頭を下げてお願いを口にする。


「拙者はヤマシロ生まれのサムライ、コザクラと申す者! 強者の名高い便利屋殿と勝負がしたくこうしてお願いに参った!」


 レーヴはその言葉に腕を組みながら答える。


「事情は知らないが、アナタに悪意が無いのは感じ取れる。きっと事情があるんだろう」

「で、では!」

「が、断る」

「な、何と!?」


 無情なレーヴの言葉に、女サムライの驚愕の声が店中に響き渡るのであった。




 あとがき

 という事で新キャラ、女サムライのコザクラが登場しました。

 果たして彼女が勝負を挑む理由は何なのか?

 その答えは次回以降のお話で明かされる事でしょう。

 そして彼女には隠された秘密も……?

 次の更新もお楽しみに!

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