第12話 それぞれの実力

  一歩また一歩と自分たちに近づくアーシャに対し、ゴブリンたちはそれに合わせて後退する。

 その様子を見たポシェは慌てつつもゴブリンたちに大声を張り上げる。


「ひ、怯んでるんじゃねぇ!! テメェらはただ突撃すればいいんだよ!!」


 唾を飛ばしながら命令するポシェの言葉を受けて、十数匹のゴブリンが顔を見合わせたのちにアーシャに跳びかかる。


「その程度で!」


 アーシャは大きく槍を振るいゴブリンたちを薙ぎ払う。

 大きく吹き飛ばされる仲間を横目に尚も突撃するゴブリンたち。

 ロングソードを使用して近づいてくるゴブリンを切り裂いていくアーシャであったが、数匹のゴブリンが血だらけになりながらも武器にしがみ付く。


「今だ! 仕留めろ!」


 ポシェの大声が響き渡り、アーシャにゴブリンが群がっていく。


「笑わせ!」


 だがアーシャは迷う事無く槍とロングソードを手放す。

 するとその両手が届く範囲に魔法陣が展開される。


「ないでよ!!」


 そこから現れた別のロングソード二本をアーシャは躊躇なく掴むと、近づいて来るゴブリンたちを滅多切りにしていく。

 仲間が切り裂かれていく様子をみて、その動きを止めるゴブリンたち。

 ポシェの方も動揺してアーシャを指さす。


「な、何でウォーリアが召喚魔法なんて使えるんだよ!」

「……伸び悩んでいた時にレーヴが教えてくれたのよ」


 少し頬を赤くしながらアーシャはそう答える。

 アーシャは元々多彩な武器を扱う事に長けていた。

 だが、実戦で上手くその長所を生かす事ができずにいたのだ。

 そこでレーヴが召喚魔法を教えたのである。

 結果としてそれが上手く行き、アーシャはハイクラスにまで上り詰めたのである。


「クソォ! 余計な事を!」


 思わず愚痴を漏らすポシェの横を何かが通り過ぎる。

 確認して見ると、それはゴブリンの上半身であった。

 ゾッとするポシェの耳に低い声が聞こえてきた。


「こちらも忘れては困りますな」


 そう言いながらその声の正体、ライアンは大剣をゴブリンに振るってゆく。

 真っ二つになっていくゴブリンの血で真っ赤になりながらも、ライアンは怯むことなく突き進んでいく。

 ゴブリンたちの攻撃が容赦なく襲うが、屈強な体にと鎧に守られたライアンは止まらない。


「クソォ! クソォ!!」


 徐々に近づいて来るライアン、そしてアーシャに焦りが隠せないでいるポシェ。

 だがその視界にレーヴとイヴを見つけるとニヤリと笑う。


「ゴブリン共! あっちだ! あっちを狙え!!」


 雑な指揮ではあったがゴブリンたちには伝わったらしく、ライアンたちをすり抜けて二人に接近していく。

 だがライアンとアーシャは気にした様子もなくただ目の前の敵を切っていっている。


(勝った!)


 レーヴとイヴを人質にしてこの場を脱出する。

 それがこの場で考え付いたポシェの考えであった。

 しかし大きな誤算が二つ生じていた事に本人は気づいていなかった。

 一つはゴブリンたちにその意図が伝わっておらず二人を本気で仕留める気でいた事。

 そしてもう一つは。


「無駄です」


 イヴが真っ直ぐ拳を突くとその衝撃でゴブリンたちは吹き飛んでいった。


「……はぁ?」


 想像していなかった事態に固まるポシェとゴブリンたち。

 一方でイヴは肩を回しつつ調子を高めていく。


「戦闘モードに移行完了。これより近づく敵を排除します」

「か、構うな! 行けぇ!!」


 ポシェに言われるまでもなく、ゴブリンたちはイヴに向かって進んで行く。

 だが近づくゴブリンは全て躊躇なく振るわれるイヴの拳や脚によって粉砕されていく。


「な、何だって言うんだよこいつ! ただのゴーレムじゃないのかよ!?」

「そんな訳がないでしょ。そんな事も分からないから落ちぶれるのよ」


 イヴはクラスこそ持ってはいないが、その実力はハイクラスと周知されておりカリバーンからも暗黙の了解となっている。

 そんなイヴに吹き飛ばされていくゴブリンたちを見ながら、ポシェは苛立ったように吼える。


「レーヴ! この卑怯者め! 堂々と戦え!」

「いや、ゴブリンを大量に召喚しているお前に言われたくはない」


 そう呆れた様子でため息交じりに言うレーヴであったが、一歩だけではあるが前に出る。


「ま、俺もいい加減に働くか。……準備も出来たしな」


 そう言ってレーヴが指を鳴らすと、周りを囲んでいた大木たちがその形を変えてゆく。


「はぁ!?」


 思わずそんな声を上げるポシェであったが、変化はまだまだこれからであった。

 何本もの大木の幹や枝、さらには根などが複雑に絡み合っていく。

 ゴブリンたちもその様子に困惑した様子で思わず体を硬直させてゆく。

 そして、大木たちは最終的には一つの巨大な人型のような塊になった。


「……やれ」


 レーヴがそう静かに命じると、その塊は自らの腕を大きく振り上げる。

 そしてあまりの事に体が動かせないでいるゴブリンたちに向かってその腕を振り下した。

 辺り一面に仲間の血が飛び散りようやく動揺しはじめるゴブリンたち。

 だが大木は一切の躊躇をする事無く彼らを踏みつぶし、叩き潰した。


「即興で造った割にはよく働いてくれるな。名前は……まあシンプルにウッドゴーレム試作式とでも呼ぼうか」

「……その試作式っているの?」


 巻き込まれない様にライアンと共に後ろに下がって来たアーシャは呆れたように問いかけるが、それにレーヴが答える事はなかった。

 そんな余裕を見せるレーヴたちであったが、ポシェは慌てつつも杖を手に持ち吼える。


「く、クソッたれ! 消し炭にしてやる!」


 それと同時に杖から大きな火球がウッドゴーレムに直撃する。

 大量の煙が辺りに充満する中で、ポシェは笑いながら勝利を確信する。


「は、はは!! どうだ! 木でゴーレムを造っても燃やせばなんて事……」


 だが威勢がよかったのもここまでであった。

 何故なら煙の奥にほぼ無傷で存在しているウッドゴーレムがポシェを見つめていたからだ。


「な、ななな!?」

「だから言ったろ? 準備が出来た、と」


 レーヴは腰に片手を当てながら、説明し始める。


「材料になる木には事前に対火の魔力コーティングを仕込んでおいた。ちょっとやそっとの魔法じゃ燃やせないぞ」

「あ、あ……」


 もはや何も言えなくなったポシェにウッドゴーレムは徐々に近づいていく。

 その巨体に完全に畏怖したゴブリンたちはポシェを守るどころか一か所で固まっている。


「おしまい、ですね」

「ちょ! ちょょょと待ってくれ!」

「何よ? 今更命乞い?」

「わ、分け前。そう! 分け前をやる! だ、だから見逃してくれ!」

「そのような物、欲しくはない! 観念をするのだな!」


 必死の説得も不発に終わり、ポシェは必死に生き残る術を考える。


「お、俺が死んだら商人の行方は分からないぞ! それでもいいのか!?」

「残念。もう既に場所の特定は出来ている」

「ふぁ!?」

「だから安心して」


 心底怯えているポシェに対して、レーヴはなるべくいい笑顔でこう言った。


「死んでいいぞ」

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 そんな叫びを響かせるポシェの頭上にウッドゴーレムの腕が振り下ろされるのであった。



 あとがき

 如何でしたか?

 これにてポシェ戦終了です。

 短いかと思いかも知れませんが、彼ではコレが限界です。

 初のバトル回。

 面白いと思ってくれれば幸いです。

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 次回は顛末が語られます。

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