第3話 便利屋『ソロモン』

  レーヴが店を開店させると同時に多くの人が店の中に入ってきた。


「レーヴさん。あの商品くださらない?」

「レーヴの兄ちゃん。ちょっくら練習相手を……」

「レーヴ! 例の件なんだが」

「皆さま。一人づつ対応させて頂きますので、順番にお並びください」


 混乱に陥り掛ける店内であったが、慣れているのかイヴが整理し始める。

 便利屋『ソロモン』。

 帝国の中心である都市『ラーハ』に開店して二年。

 いま帝国において一番有名な店と言っても過言ではない程に有名であった。

 その一因となっているのは店で売り出している今までに見た事の無いゴーレムの数々であった。


「レーヴさん。例の、家の空気の調節してくれる……何て言ったかしら?」

「エアコンゴーレムですね。涼しくしたかったら水の魔石を、温かくしたかったら火の魔石を補充してくださいね」


 このエアコンゴーレムはアイデア自体はレーヴから生み出された物ではない。

 かつて師匠が健在であった時に、興味本位で聞いていた異世界『ニホン』での暮らし。

 そこに出てくる『カデン』と呼ばれる品々。

 それを参考にレーヴが得意なゴーレムで再現したのが今の『ソロモン』の主力商品である。


「助かるわ~。皆で話してるのよ? 『ソロモン』さんが出来てから暮らしが豊かになった、って」

「ありがとうございます。また新しいゴーレムも開発中なんで今後ともご贔屓に」


 主婦と思われる女性が店から去っていくと、次に現れたのは屈強な戦士であった。

 帝国は身分に囚われない事で有名であり、無名な者であろうと腕次第では成り上がれるとあってこうした戦士なども多くいる。


「さっきも言ったが最近ギルドでの依頼もなくて腕が鈍ってるんだわ。練習相手になるようなゴーレムを貸して貰えねぇか?」

「もちろん。強さはどうします? ある程度は調整できますが?」

「強さはともかく出来れば何回も戦えるやつがいいな」

「では再生機能が付いているゴーレムにしときましょう。軽い損傷であったら魔力が尽きない限りは回復しますから。ではこの書類に必要事項を書いておいてくださいね」


 レーヴが取り出した紙に戦士は自分の名前や住んでいる場所などを記入していく。

 単なる記載にも見えるが、実はこの紙には魔力が込められており書いた者に強制的に魔力的な契約を結ぶ物である。

 契約に違反した場合、例えば借りっぱなしの場合はゴーレムが爆発を起こしたり使用者を強制的に店に連れて来たりするのである。


「では確かに。期限は明日の夕方、守れない場合は違反金に加えて相応のペナルティが待ってますのでご注意を」

「分かってるって。……どこかの貴族みたいな目に遭うのは御免だ」


 余談にはなるが、以前貴族に数体のゴーレムを派遣し貴族の力でそのまま奪おうとした際には屋敷内でゴーレム数体が大爆発を起こし屋敷が吹き飛んだのである。

 無論、貴族側はこちらの責任を追及してきたが。

 そもそもの問題は契約を無視して無理やり奪おうとした貴族にあるとしてレーヴは無罪となっのである。

 そのような事があって以来、そのような輩は格段に減ったのであった。


「じゃあなレーヴ! 助かった!」


 そう言って戦士が去っていくと次に入って来たのは、レーヴが見慣れた顔であった。


「何だアクトか」

「何だ、じゃないだろ。忙しいだろうから態々行列に並んでまで来てやったのによ」


 アクトと呼ばれた男は悪態を吐きながらレーヴと話す。

 このアクトは帝国でそれなりに名の知れた鍛冶屋であり、歳も近い事もあり友人のような間柄となっているのである。


「で? わざわざ来たんだ。手ぶらって事はないんだろ?」

「当然だろ? 例の共同制作の試作型が出来たから持って来てやったんだよ」


 そう言ってアクトが取り出したのは一振りの剣であった。

 一見してシンプルな作りであるが、柄の部分に石のような物が埋め込まれていた。


「もちろん剣としての強度は一級品。後は期待した効果が出てるかだな」

「だといいがな。そいつの開発には俺も苦労したからな」


 この剣に隠された秘密。

 それは物理攻撃が効かないスライムのようなモンスターであろうと、切り伏せる事ができる剣であった。

 レーヴが関わったのは石のような形をしたゴーレム部分であり、僅かな魔力に反応して魔力の刃を形成する役割を担っていた。


「実験する時は呼ぶから時間空けとけよ?」

「分かったよ。俺も技術提供しておいて知らぬ存ぜぬをする気はないからな」


 アクトは約束を取り付けると忙しいのかさっさと店に戻っていった。


「次の方どうぞ!」


 まだまだ途切れない行列にレーヴは声を掛けるのであった。



 便利屋『ソロモン』が開店してから数時間。

 並んでいた行列に並んでいた人たちも少なってきた頃、レーヴは少しだけ休憩を取っていた。


「繁盛するのは良い事だが、毎日あの行列の相手をするのは疲れるな」

「では午後も開店してはどうです? 分散するかもしれませんよ」

「冗談。研究に時間を割けなくなるだろう」


 便利屋『ソロモン』の開店時間は基本的に午前中のみである。

 理由は当然レーヴの研究時間の確保のためである。

 更なるゴーレムの研究に余念のないレーヴにとって、『ソロモン』は金銭集めの手段でしかない。

 結果として他の人たちに喜んでもらっているのは、それはそれで嬉しいものだが飽くまでレーヴが優先するのは研究である。


「さて。閉店時間までもうひと頑張りするか」

「……レーヴ。予期せぬ客人が来たようです」

「ん?」


 レーヴが入り口の方を見ると数人の人影が見えた。

 開けてみるとそこには鎧を着こんだ帝国兵士たちが入り口の前に立っていた。


「……毎回毎回。仰々し過ぎないですかね?」

「いえ。レーヴ殿は十分に国の重要人物と言えるお方。敬意は払わなければなりません」


 帝国兵士たちの後ろから若い女性の声が聞こえた。

 兵士たちが左右に分かれると、そこには帝国の鎧を着こんではいるが周りの兵士たちより明らかに小柄な少女がいた。

 見かけでは兵士にも劣っている彼女ではあるが、彼女こそ帝国騎士団の出世頭であり、他国からも恐れられている騎士団長クラウディアである。


「レーヴ殿。アストラル皇帝がお呼びです。ご同行をお願いします」

「……閉店準備をしてからでも?」

「勿論構いません。無理を言っているのは我々なのですから」


 笑顔で承諾するクラウディアを余所に、レーヴは未だ残っていた人々に説明をして行列を解散させるとイヴにネアのところに先に行って準備しておくように伝えておく。


「お待たせしました」

「いえ。ではレーヴ殿、城までお送りいたします」


 こうしてレーブは急遽、帝国を収めるアストラル皇帝に呼び出され城へと向かうのであった。

 果たして待ち受けているのは吉事か?

 それとも……。

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