第8話
目覚めると、すぐそこに二、三人分の足だけが見えた。さらに視界を広げると、ニット帽を被った六名の男たちが立って高井を見ている。
高井は両腕と両足を拘束され、自宅のフローリングに転がされていた。
男たちの顔には、見覚えがあった。以前、中井という農家に派遣した異世界人実習生だ。
彼らは数年前、劣悪な雇用環境に耐え兼ね、中井の畑から農産物を盗み、そして姿を消し、そのままだった。
目の前の彼らの顔つきが、あの頃と随分変わっていたので、最初は分からなかった。
ギョロギョロとした目は、正に氷のような冷たさを感じさせ、人間性の一切を感じさせない。
「金庫を開ける方法を言え。」
六人のうち、一人が喋った。確かグエンという名だったと思う。あの頃は、ろくにこの国の言語を喋る事ができなかったのに、今ではかなり流暢に喋っている。
一体、姿を消してから彼らは、どんな人生を生きてきたのだろうか。
言う事を聞かなければ、どんな目に遭わされるか分からない恐怖が勝り、高井は金庫の場所と開ける方法を素直に喋った。
グエンを含む三名が高井を見張り、残り三名が金庫へ向かう。金庫の開く音、そして札束を取り出し何かに収納する音が聞こえた。
やがて金庫のある方から、金が入っているであろう段ボール箱を抱えた三人が現れ、表に出て行く。
――ああ…金が…金が…俺の金が…
段ボールを抱えた三人を、恨めしそうに見やる高井を指して、グエンが言った。
「よし、こいつを包んで運ぶぞ。」
てっきり金を取られるだけだと思っていた高井は仰天し、自由にならない手足をグネグネと動かし抵抗した。大声で叫ぶも、自宅は防音性が優れているため、外に届かない。
「うるせえ!大人しくしろ!」
グエンが、高井の顔や鳩尾を蹴り上げた。痛みと恐怖から、高井はすっかり静かになり、寝袋のようなものに包まれ、車のトランクに投げ込まれた。
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