第3話

高井は派遣先の農家や農場に、監視カメラを置く事を推奨し、彼らはそれに従った。費用はもちろん、高井の負担ではない。


監視カメラを置くようになってから数日経ち、高井が実習生を派遣している畜産業者が泥棒の被害に遭った。

その業者、田中は養豚場を経営しており、ある朝小屋へ行くと、非常に静かである事に違和感を抱いた。

「もしや」と思い駆け出して、小屋を覗くとそこはもぬけの殻、豚が一匹の残らずいなくなっていたという。そして雇っていた実習生たちも、いなくなっていた。


高井は急いで駆けつけ、田中と共に監視カメラの録画をチェックした。


被害に気付いた日の前日に巻き戻し、誰か怪しい者が映っていないかを確かめようとした。

就業時間になり誰も居なくなったところで早送りを止めたのだが、急に画面が真っ暗になり、次の瞬間早朝の田中が豚小屋を見に来たところが映った。


何度試みても、同じ現象が起きる。


「実習生たちに、監視カメラの存在を知らせたりしてた?」


高井がそう尋ねると、田中は首を振りきっぱりと否定した。


「するわけないでしょう!絶対に、彼らには気付かれないよう設置しましたよ。設置場所だって、絶対に分からないように…」


「しかしこれは…犯人が、監視カメラの電源を切っていたとしか思えない…」


高井は早朝の映像で停止した画面を見ながら、顎に手を置き何かを考えるように、そう言った。


「犯人は、カメラの存在を知る人物って事ですか?…まさか、犯人は実習生ではなく実習生を受け入れている業者の誰か…」


高井はそれには答えず、じっと画面を見ていたのだが、田中にはそれが答えになったようだった。


ありえない話ではない気がした。どこかの実習生受け入れ先の業者が、他の業者に雇われている実習生をそそのかし、手を組んだとしたら…

その疑いはあっという間に地域中に広がり、業者同士の人間関係はギスギスし始めた。



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