第12話 革命の日

 王国南端の辺境、マハティ伯領。

 その多くを山岳が占め、生産性が低い領地であった。主に隣国からの防衛の為にある領地ではあるが、そこには古くから人々が住んでいた。

 領主のマハティ伯爵は民の間に漂う不穏な空気に困惑していた。まだ、一揆や暴動などには発展してはいないが、連日、陳情がやって来ている。その多くは飢饉と疫病による貧困への支援であった。

 無論、王国からの支援を含めて、領土全域の町には食糧支援などを行っている。豊かな生活をさせてはやれないが、最低限、食糧に困ることはないはずであった。だが、それでも民はなにかと不満を挙げてくる。

 情報を集めると、民の中で王国の財源が危機的で支援を打ち切るなど、完全なデタラメが流布している事実を掴む。

 このような辺境になると、民が情報を知る術は旅人や行商人の噂話が主になる。手紙のやり取りなど通信費が高価な為、貧困に喘ぐ民衆が簡単に出きるわけがなく、新聞だって、ここまでは一部の者にしか渡らない。都ではラジオが流れているが、辺境までは電波は流れてこない。

 何者かが、情報を操り、民衆を不穏にしているのである。このままではありもしないデマを信じて、民衆が反乱を起こしかねない。それを危惧した伯爵は嘘の発信源を探ると共にいつ、民衆が反乱を起こしても鎮静が出来るように私兵を強化していた。


 領地内にあるとある寒村。

 朽ち掛けた納屋に若者達が集まっていた。

 彼らの前には木箱が置かれている。

 木箱にはおが屑が詰められており、その中から見えるのは銃であった。

 王国でも銃を扱える市民は限られている。猟銃としてなら、警察に登録する必要がある。不用意に銃を所持すれば、処罰の対象であった。

 だが、木箱に入っているのは貴族などにしか所持が認められない拳銃などもあった。どれも少し旧式ではあるが、今でも諸外国の軍隊で使用される物ばかりだ。

 生活困窮して、先の見えない若者からすれば、貴族を倒して、政治を自分達の物にすれば、未来が開かれると囁かれれば、それを信じてしまうのも無理が無かった。そして、それを実現する為の道具まで与えられたのだから。

 彼らが協力者と呼ぶ男は笑顔で彼らに言う。「未来は自分達で掴み取るんだ」

 その言葉に若者達は銃を手にした。

 

 とある農村で農夫達が一揆を始めた。農具を手に、その村の村長の家を焼き討ちして、そのまま、領主の屋敷へと行軍を始めたのだ。この事はすぐに周辺の村や街にも伝播する。すると、まるで待っていたかのように人々は農具や調理器具などを持ち、同様に村や町の名士の屋敷を襲い、領主へと向かって進み始めた。

 第一報を受けたマハティ伯爵はすぐに私兵を終結させ、屋敷の防衛と道の封鎖を指示した。だが、その時には怯えた私兵の一部が逃走を始めていた。

 限られた私兵と応援に駆けつけた辺境警備隊は一揆の群れに対して、剣や銃口を突きつけ、収まるように声を掛ける。一時的に進行は止まった。だが、群衆の中から銃声が響き渡り、私兵の一人が倒れると、私兵の間からも銃声が鳴り響く。途端に混乱した群衆と私兵が混戦状態となった。

 興奮した群衆による暴力が勢いを増し、怯えた私兵が逃走する事態となる。少数の辺境警備隊もこの事態に成す術なく、撤退を決めた。

 3日に及ぶ一揆でマハティ伯爵の屋敷は焼け落ちた。幸いにも伯爵とその一族は領地から脱出することに成功した。

 この時点でマハティ伯爵領は民衆の手に落ち、彼らは新たな国家として独立したことを宣言した。ただし、彼らはこの時点で自らが王国の支援も受けられない状態になった事を知らない。


 知らせを受けた王国側も自国で起きた初の革命であり、それで一部の領土が奪われたことに驚いた。すぐに奪還の為の兵団の派遣が検討されたが、武力による制圧は他の領土でも同様の事が起きることを煽るのではないかと慎重論が大勢を占めた。

 だが、これが結果的に王国全土に民主化革命の嵐を吹かせることになり、それは王都でも起きることになった。

 王都の西地区で突然、起きた民衆の暴動。

 民主化を訴えて、警察の詰め所を襲った若者逹。警察は制圧する為に彼らに警棒を振るうが、突如として、銃声が鳴り響き、その場に居た数名の警察官が倒れた。これが発端であった。まるで図ったかのように王都各所で暴動が発生。そのどれもにも銃器が使用され、多くの警察官や軍人、騎士などが死傷した。暴動の多くは王政廃止を求め、現王族の死刑を求めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

エプロンを着た兵士 三八式物書機 @Mpochi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ