第7話 突然の転属
メアリは忙しい日々を過ごしていた。
普通科所属のヴァルキリーの一週間の過ごし方は2日の通常勤務と1日の夜間通常勤務。明け公休を経て、2日の訓練となる。
通常勤務とは大抵は歩哨や立哨である。宮殿の周囲をパトロールする事である。
メアリにとって、通常勤務はとても楽な任務であった。彼女達、機関銃分隊は装備として、20キロ近くある重機関銃本体とそれを支える三脚。これを運ぶだけで三人掛かりで、弾薬手に至っては500発入りの弾薬箱を背中1個、両手に1個づつ。計60キロを持ち、尚且つ、背嚢やシャベル、水筒などの装備と小銃、弾薬ポーチ、銃剣などの装備が60キロぐらいになる。合わせると120キロの重さを装備することになる。
訓練時には大抵、この装備で、行動することが多い。幾ら、体力自慢でもかなり大変な事であり、メアリの腕も筋肉質に太くなっていた。
だが、通常勤務となれば、重機関銃を必要としないので、彼女達の装備は二種装備と言うことで、背嚢なども必要とせず、歩兵銃だけとなるので、かなりの軽装となる。
その為、メアリからすれば、訓練よりも圧倒的に楽であった。
そんな通常勤務日の朝、メアリは小隊長に呼び出された。
「メアリ初等侍女、参りました」
「ご苦労。そこに掛けろ」
小隊長はメアリを椅子に座らせた。それから彼女は書類を手にメアリに歩み寄る。
「転属命令が来ている。急な話だが、騎馬隊の営舎に向かえ」
書類は命令書であった。メアリは難しい文章で掛かれた命令書をまともに読むことは出来ないので、言われた通りにするしか無かった。
「騎馬隊でありますか…」
騎馬隊は基本的に貴族の子弟で構成される。ただし、馬を扱う上において、色々と下働きも必要なため、従者として、平民出のヴァルキリーも配属される。メアリもそれに選ばれたのだと思い、少し、がっかりした。
自分の無駄に頑丈な体躯を用いるなら、普通科の方が良いのだが、馬の世話などの下働きは嫌だなと思いながら、騎馬隊の営舎へと向かった。
騎馬隊の営舎でメアリはマリア中級女官に命令書を渡す。彼女はそれを一瞥すると、メアリに指示を出す。
「命令はすでに受けている。あなたは戦車小隊に配属される。すぐに騎馬隊第三営舎に向かえ、そこにお前の配属される部隊がある」
メアリは言われた通りにそこへ向かうと、侍女長以下の階級のヴァルキリーが15人、集められていた。
「ここが戦車小隊ですか?」
メアリが侍女長に訪ねる。
「そうだ。お前も配属になったのか?」
「はい。メアリ初等侍女であります」
「ご苦労。私はダリ侍女長。特科から転属になった。新たに配備される戦車に乗ることになるようだが」
「戦車…戦車とは何ですか?」
まだ、新しい兵器である戦車は知らない者の方が多かった。
「戦車と言うのは車の上に大砲や機関銃を搭載した兵器だ。塹壕を乗り越えることが出きる」
「私はそれに乗るのでしょうか?」
「そうだ。ここに集められた者は全員、戦車に乗る。侍女長は戦車の車長、それ以下は運転手だろう」
「運転手…私、車どころか自転車にも乗ったことがありませんが」
「安心しろ。集められた奴の殆どが、そうだし、戦車なんて見たこともない」
「了解です。それで、これから何をしたらよろしいのでしょうか?」
メアリが訪ねたとき、入り口に人影が現れた。
「ご苦労である。小隊長のサラ=バルバロッサ中級女官だ」
それは近衛侍女隊を示す真っ赤な薔薇の刺繍がされたカチューシャを被る美しいヴァルキリーであった。
全員が慌てて、敬礼をする。
「よろしい。直れ」
サラは腰に提げたサーベルの柄に左手を添えながら、話を始める。
「先日、ヴァルキリーにも戦車が配備されることが決定した。すでに10輌の受領を受け、倉庫に保管されている。君らは存じているか解らぬが、戦車は無限軌道と呼ばれる特殊な足回りを持ち、普通の自動車のように操縦することが出来ない。これから1ヶ月を掛けて、君らには訓練を受けて貰い、乗りこなして貰う。大変ではあるが、最新鋭兵器の運用に携われると言う名誉がある。心して、取り掛かるように」
凛とした声が営舎内に響き渡る。戦車が何かさえ解らぬ者達ばかりだったが、サラの言葉に後押しされ、力強く返事をした。
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