第17話:ローザンブルクのマイスターハンター⑤


 そういった経緯で、少なくとも『導きの星』の場所は分かった。この時点でリオンたちがいた時間軸から、すでに百年以上が経っており――神の啓示を受けた、とのたまうアタナシアの先導と、不定期に召喚される『勇者』たちの活躍により、アルテミシアはいつしか大陸屈指の大国へと変貌を遂げていたのだ。

 「……えー、とにかく、です。こちらに伝わってくる情報は限られていましたけど、おおよそは『他国との国境付近、もしくは近隣の自治領で魔族が大量発生したため』という名目で進軍しているようです。リオンさん、国内でもそういう認識でしたか?」

 「はい、大体は。その旗印として『勇者』を呼んでは、前線に送り込んでいたみたいです。……召喚って、人間でも出来るんですね」

 「まあ、なりふり構わず命懸けでかかれば、大抵の魔法はどうにか発動できてしまいますからなぁ。扱いが難しく危険である、もしくはその効果が人道にもとると判断されたものについては、いわゆる禁呪タブーとして秘されることになるが……

 アルテミシアがやっておったのは、まさしくその禁呪。しかも、対価に懸ける命は女王様本人ではなく、適当な他人のものだったわけじゃ。ひどい話じゃて、まったく」

 「その通りです! そもそもご神託自体、百年に一度あるかどうかというレベルなんですよ!? それを堂々と建前にして、アコギな儀式魔法に若い人の命を費やすなんて……かなりギリギリの綱渡りになってしまったけど、無事にここまで来れて本当に良かったです……!!」

 ふんす、と鼻を鳴らして憤るニコルに、首がもげるのではと心配になる勢いで頷いているセリリ。顔色は元に戻りつつあるが、今度はすっかり涙目だ。そんなに心配してもらっていたのかと思うと、大変申し訳ない。……はずなのだが、

 (う、嬉しい……そんでもってなんだかこそばゆい……!)

 だって転生してこっちの世界に出戻ってからというもの、実の母は早死にしたし、父の方は忙しくて会えない時の方が多かったし。挙句の果てに、いちおう祖母であるアタナシアにすら生贄にされかける始末だ。絶対に逃げ切ってやる気ではいたが、自己肯定感が常に低空飛行していたのは言うまでもない。

 だから単純に、死なないでほしい、無事でいてほしいと、こんなにも心を砕いてくれたことがうれしかった。もしここに一緒に冒険した二人がいたら、おんなじことを言ってくれただろうか。『何でそんな危なくなるまでじっとしてたの! ほったらかされた時点で家出していいって!!』なんて、逆に叱られるかもしれないな、うん。

 うっかり涙が出そうになって、急いで瞬きをくり返して引っ込める。さすがに人前で泣くのは恥ずかしい。それにまだ、いくつか聞いてみたいことが残っていた。

 「あの、色々とありがとうございます。――それじゃアスターさん、元々皆さんとお知り合いだったんですか? それとも出身がこっち、とか」

 「そんな感じだね。さっきセリリたちが話してたようなことが分かってきて、誰かがアルテミシアの中枢を探りに行けないか、って話になったんだ。それで聖騎士に志願して。

 ただ女王様の直属、ってだけあって、志願者は厳しく身辺調査されるから、ちょっとだけ細工はしたけど」

 「細工、ですか?」

 「うん。はっきり言うと、戸籍の捏造」

 「ねつ、……て、そんなこと出来るんですか!?」

 「普通にやろうとすると難しいだろうね。僕はほら、この二人がいたから」

 さらっと出てきた恐ろしい単語に、しんみり気分も吹っ飛ぶくらい驚いた。目を丸くしたリオンに訊き返されて、問題発言の主はこともなげに続ける。いつものごとく楽しそうな笑顔で。


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