俺の悪態、お前の口癖

地軸

俺の悪態、お前の口癖

あーもう!俺にあったらすぐにおどかそうするし、遊んでたらオモチャはとるし、なんでそんなことしかしないの?俺だって仲良くしたいけど、嫌なことしかしないなら嫌いになっちゃうんだからね!


「じゃあ、死んであげよっか?」


な、そんなことしないでよ!なにもそこまで言ってないじゃん!俺は仲良くしたいだけなの!だからやめて!


「あははっ!わかってる!」




俺だって友達と遊びたいのに、いっつもお前ばっか友達と遊んで!係の仕事なんだから全部俺に任せるんじゃなくって一緒にやって!邪魔しかしないなら係やめて!


「じゃあ、死んであげよっか?」


そこまでしろってことじゃなくてさぁ…。ただ、仕事は一緒にやろうって話!今までちゃんとやったんだから、今度はお前がちょっと多めにやってよね!


「わかったわかった。じゃあ、どれから運べばいい?」




マジでさぁ…。いっつも俺のこと待たせてるけどさぁ。急ぐって考えは無いわけ?今日も「ごめんごめ~ん!」って言いながら歩いて駐輪場まで来やがって…。毎度毎度俺の貴重な時間が無くなってんの!分かる?


「じゃあ、死んであげよっか?」


どーせ死ぬ気無いくせに。もし俺が「死んで」って言ったらお前死ぬの?多分死なねぇだろ?


「あっはは!どうだろうねぇ」


うっざ。




お前また貸したノート家に忘れたろ!あれ今日提出なのに、どーすんだよもー!これ以上赤点作ったらマジ留年間近なんだけど?いいの?俺お前の後輩だよ?一つ下だよ?もしそうなったら責任取れるわけ?


「じゃあ、死んであげよっか?」


いや、それは困る。お前死んだら誰が俺に勉強教えんの?誰が俺に女子紹介してくれんの?


「友達あたし以外にいないん?」


うるせぇ。いいんだよ、必要最低限で。てか、いるけど全員同じくらいの学力だから宛になんねぇ。


「へぇ…。あたしって、その必要最低限・・・・・なんだ~。ふ~ん」


な、やめろその目。にやけんなって!あ、お前ら見てんじゃね!おい誰だ「夫婦漫才」とか言った奴!あーもう、言わなきゃ良かった!




なんだかんだ言って、大学まで一緒になったよな。正直、こんなに一緒にいる友人お前だけだよ。何年一緒にいるかもわかんねぇ。でも、やっぱり、ろくなことしかなかったわ。あ~、なんか思い出したら腹立ってきた。


「じゃあ、死んであげよっか?」


いや、死なないでほしい。…俺、お前といて、つまんなかったこと無いんだよ。いつだって、なんだかんだ言いながら、楽しかった。これからも、そうあってほしい。


その…俺、お前のこと、好きなんだよ。いつも不満ばっか言ってきたけど…。こんな俺と…付き合ってくれませんか?


「…なんで敬語?」


な、今そこ気にするか?普通返事しか言わなくね?…まあ、なんと言うか。こーゆー時くらいは真面目になった方がいいと思ったんだよ。やべぇ、言ってて恥ずかしくなってきた。


「なにそれっ!あははは!」


笑うなよ!こっち本気なんだから!…それで、どっち?付き合ってくれませ…くれるの?


「…こちらこそ、あたしで良ければ、よろしくお願いします。」


はぁ~、良かった!すっげぇ緊張した!…じゃあ、これからも、よろしくお願いします。あ、やべ。また敬語になった。あーもう笑うなって!




互いに社会人になってさ。やっと落ち着いてきたじゃん?仕事の仕方とか覚えてきて、同期とかと仲良くなってきて、上司との付き合いかたも分かってきて。後輩もできて、頼られて。で、その分あんまり喋れたりしなくなって。朝くらいしかまともに会えなくて。少しケンカも増えて…。


「じゃあ、死んであげよっか?」


いや、死なないでほしい。俺、お前のこと好きなんだよ。だから、嫌われたくなくて。こんなん言うのは、凄い悩んだ。受け入れてくれるか不安だった。でも、正直、抑えられなくなった。好きだから、もっと一緒に居たい。死ぬまで一緒に居てほしい。だから、俺と結婚してくれませんか?


「…もちろん。こちらこそ、喜んで…!」


…ごめん。多分言うの遅くなった。もっと早く言ってれば良かったけど、勇気が出なくて…。


「ホントだよ…遅いよバカ!あたしがあんたのこと嫌いになるわけ無いじゃん!好き!大好き!あたしもずっと一緒に居たいの!」


うん、知ってる。でも、知ってるからこそ怖くなってさ…。これからは、こんな思いさせない。嫌な思いさせない、約束する。だからさ…ちょっと離してくれませんかね?ちょっと苦しいんだけど…ああ苦しい苦しい!分かったよ!離れないよ!


「一生?」


一生!


「…わかった。じゃあ、許す。約束してよね」


わかってる。一生、幸せにする。




あー!泣き出しちゃった!ごめん、ちょっと俺らのご飯作り代わるからあやしてくれない?いや多分これご飯だから俺じゃ無理でしょ!あー、分かったから泣かないでって!あーもう同時に話さないでって、どっちかにして邪魔だから!


「じゃあ死んであげようかー!?」


いや超困るからやめて死なないで!ただでさえ大変なのに!ああ、大丈夫大丈夫!お母さん死なないからね、ずっと一緒に居るから、ね!もう不安になっちゃったじゃん、変なこと言うからぁ!


「わかった今代わるから待って!」


オーケーそれまでなんとかする!




いやぁ、なんとか子供も社会人になって落ち着いてきたな。一時はどうなるかと思ったけど、なんとか自立してやってけそうだし安心だな。…正直、大変なことしかなかった気がするが、これも今思えば楽しかったなぁ。


…不甲斐ない父親で、すげぇ迷惑かけた。ごめん。俺と一緒で、本当に良かったのか?そっちは、幸せだったのか?


「じゃあ、一人にしてあげようか?」


…いや、ずっと一緒にいてほしい。てか、それ言うってことは離れる気ないだろ?


「バレた?」


何十年の付き合いじゃないから分かるわ。俺だって離れる気ないからな。


「じゃあなんで聞いたん?」


少し不安になっただけだよ。忘れてくれ。…こう考えると、俺って丸くなったよな。誰の影響受けたんだか。




ようやく定年退職して、ゆっくり休めそうだ。いやぁ…ここまで長かったような短かったような。やっと落ち着いて一緒に暮らせそうで良かったよ。


ただ…その…悪い。話題がなんにも出てこねぇ。正直、産休育休の時以外は休日くらいしか一緒に居れなかったから話すこといっぱいあったが…。今となっては外出もねぇしなぁ。なんか、仕事で忙しくなってたときが懐かしい。今からでも何か仕事ややることが舞い込んできたりしないもんかねぇ。


「じゃあ、死んであげましょうか?」


葬儀の準備で忙しく…って馬鹿野郎。そもそも終活すらろくにしてねぇだろ?今死なれたら忙しくなるどころの騒ぎじゃねぇんだ。まだ生きろよ、縁起でもないこと言うな。


「はいはい。」




まさか…俺のほうがお前より早く死ぬことになるとはなぁ。余命はまだちょいとあるらしいが、こんな短期間じゃお前も死ぬに死ねねぇだろ。はっはっはぁ!あんだけ散々「死んでやろうか?」なんて聞いてきて、結局俺より長生きしてやがる!


「…じゃあ、一緒に死んであげましょうか?」


絶対死ぬつもり無いだろそれ。


「…今回は、本気ですよ。」


あのなぁ、話聞いてたか?あと数ヶ月しか無いんだよ、余命。それなのにどうやって重病に罹るつもりだよ。…まさか、心中だの自殺だの言うつもりじゃねぇだろうな。


俺は絶対許さねぇぞ!俺と一緒に逝くとか、なんで俺に合わせてお前も死ななきゃならねぇ!生きろよ、俺と一緒に逝くとか許さねぇ!もしもすぐにこっち側来てみろ、ケツ蹴り飛ばして生き返らせてやるからな!だからよぉ…そんなこと、冗談でも言うんじゃねぇぞ馬鹿野郎!


「…はいはい。」





結局、一緒に死ぬなんてできやしなかった。今まで冗談で言ってた言葉。毎回君は嘘だと思って笑い飛ばしてたけど、いざ本気で否定されたら、流石に悲しかったなぁ。あんなに本気で叱っちゃって。昔はあたしに悪態しかつかなかったのに、天邪鬼だったのに、最後にはあんなバカ正直になっちゃって。君を困らせたくて言ってたけど、最後のは本気だったんだよ?それなのに怒っちゃって。


…あたし、もう少し生きるよ。それで、そっちに行ったら、あんなこと言わないでも君と楽しく話せるようになって、また一緒に暮らせたらいいな。君が文句言えないくらい精一杯生きてやるから、ちゃんと見ててよね。




それじゃあ、また来年のお盆にね。

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俺の悪態、お前の口癖 地軸 @20060228

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