第3話

「お母さんが亡くなってすぐ再婚だなんて、お母さんに悪いと思わないの?」


綾香さんは父の顔を見た。


父は黙って頷いた。

それを見て、綾香さんが口を開く。


「私ね、お腹に赤ちゃんがいるの……美緒ちゃんのよ」


頭からすべての血が引いた。

再婚するというだけでもお腹いっぱいなのに、父は綾香さんを妊娠させていたの?!

言われてみれば綾香さんのお腹、前に会ったときより大きくなっているような……


父は言った。


「美緒、おまえはお姉さんになるということだ」


私に……弟ができる……


普通だったら、とっても嬉しいことのはず。

なのに……なのに……


私はもう、食欲をなくしていた。

目の前の食べかけのステーキは片付けられた。

テーブルの上のパンくずもすべて片付けられた。


真っ白なテーブルクロスだけが、私の視界のすべてだった。


頭の中に疑念が巻き起こった。

父さんは、いつから綾香さんと付き合っていたのだろう。


「あ、あの……何ヶ月目なんですか?」


綾香さんは私の問いに戸惑い、父の顔を見た。

父は頷いた。

言ってよい、ということなのだろう。


「……4ヶ月目なの」


脳の中に火花が散った。

父は母を裏切っていた。

脳内に散った火花は、私の怒りの導火線に火をつけた。


「父さん、それって……」


「美緒。分かってくれ」


「分からない! なにそれ! 浮気してたってことでしょ! ひどい! お母さん、病気で苦しんで入院してたんだよ! 父さん、何やってたの! 最低! 最低! ひどいよ! お母さんのこと、なんだと思っていたの?! 裏切り者! 父さんは母さんを裏切った! お母さんは……お母さんは……」


これ以上は声を出せなかった。

涙が溢れてきて、言葉をつなぐことができなくなった。


綾香さんは神妙な面持ちでうつむいている。

綾香さんも綾香さんだ。いったいどういうことなの?

母さんが病気で苦しんでいた時、父さんと何をしていたの?


最低! 最低! 最低! 最低!


父さんも綾香さんも、大嫌い!!!!!!!

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