第2話

僕は何か困ったことがあったら、近所の橋の下に住むホームレスのおじさんのところに行く。

お母さんもお父さんもそのホームレスのことはよく思っていないから、これは内緒にしてある。

今日は父親に内緒で、冷蔵庫のビールを一本持っていくことにした。


「おじさん。僕、生きるのが嫌になったよ」


「ビール、ありがとな坊主。それでなんでまた?」


「なんだかつまんないんだよね、生きてるのが」


「坊主今何歳だ?」


「12歳だよ。」


「その歳でそんなこと考えるとは見込みがあるな。」


「やっぱり僕は変なのかな」


「あぁ、間違いなく変わってるね。それが最高なんだ。」


「最高なんかじゃないよ。最近ずっと死ぬことばかり考えてるんだ。」


「学校は楽しいのか?」


「最近はあんまり、周りの奴らといてもどこか寂しさを感じるんだ。」


「なるほどな。きっと坊主は頭がいいんだろうな。俺もそうだったからわかるぞ。」


「僕よりも頭のいい奴なんてクラスに何人もいるよ。というか、おじさん頭がいいならなんでホームレスなの?」


「大人ってのはな色々とあるんだよ…」


「子供だっていろいろあるよ。」


「そうだな、すまん。ただ、大人にはこれがある」


「お酒?」


「そうだ。アルコールは嫌なことを忘れて楽しい気分にさせてくれるぞ。昔からそうやって人は苦しい現実を楽しく乗り切って来たんだ。」


「僕も飲んだら楽しく生きれるかな?」


「だめだ。いいかよく聞け、アルコールは楽しいが同時に寂しいものでもある。一人で飲む酒は体に悪い。俺の死んじまった婆さんは10歳から酒を飲んで、身長が止まったまま一生を過ごした。まだまだ大きくなりたいだろ?」


「うん。僕身長はお父さんを超えるぐらいにはなりたいからお酒はやめるよ」


「素直な奴は大きくなるぞ。それに坊主には酒は無くても俺がいる」


「おじさんが?」


「ああ、学校や家、習い事以外のコミュニティがある奴は人生を豊かに生きられる。クラスの奴らにはきっとないはずだ。そいつらの中にも、ある奴はいるだろうが坊主みたいに自分から作る奴は見所がある。」


「僕おじさんの話面白いから好きだよ。周りにそういう人がいないしね。周りの大人はつまらないことしか言ってこないし。」


「それは坊主の未来に責任を感じてるからだな。大人もきっともっといろんな話をしたいのさ。だけど、おもいしろい話ってのは危険が付きまとう。好奇心旺盛な坊主みたいなやつはすぐマネをするからな。それに比べて俺は責任なんて取れないから好き勝手話せる。そりゃあ、坊主にとっては楽しいだろうよ。」


「またロックの話とかまた聞きたいな」


「気が向いたらな。まあ、嫌なことなんていくらでもこれからも、その時大事なんのは、折れないことだ。俺は酒、坊主もそうやって身の回りのものを心のよりどころにすればいい、それは俺でもいいわけだ。だから、俺を足掛けにして新しいことを始めても面白いかもな。」


「どうしてにやけてるの?」


「坊主にいいものをやろう。これは俺たちにとってはもう消耗品みたいなものだが

、坊主たちぐらいの奴らには宝物だろうよ。ほら、」


「これって、エッチな雑誌だ」


「そうだ。エロ本だ。」


「だめだよ。エッチなのは大人じゃないと」


「バカ!健全な子供が性に興味がないほうが不健全じゃい。」


「だけど…」


「わかった。坊主の通学路の側溝にこれを置いといてやる。友達と一緒に偶然見つけたふりをして、見てみろ。きっと明日の学校は楽しくなるはずだ。」


「ばれたらどうしよう」


「そしたら笑い話になる。そして、俺にところにきて話を聞かせてくれ、きっとうまい酒が飲める。」


「わかった、やってみる!」


「おぉ、よく言った!どうだ、明日の学校が少し楽しみになっただろう?」


「なんだかドキドキする。」


「そうだ!人生の楽しいところはそこだ!」


「ならこの雑誌はまだ見ないようにする」


「それもいいな。ならこれを明日、あの雑木林の道の端に置いておくからな。」


「いけないことしてるみたい」


「いいや大健全だね。」


「ありがとうおじさんまた来るね!」


「おうよ!」

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ホームレスの戯れ言 倉住霜秋 @natumeyamato

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