第34話「今、後方にいるマッチョのアニキたちが、新しいM2NRを配っています!」
「ふう、楽しかった!」
一通りのコールアンドレスポンスを終え、マリカは満足げだった。くまのぬいぐるみなので汗をかくことはないが、彼女はまるで一仕事終えた後のような達成感を感じていた。
一方アンジュは、わけのわからないまま天使様と呼ばれ、挙げ句の果てに「アンジェルズ」という集団のリーダーに仕立て上げられた。ふと我に返ると恥ずかしくてたまらなくなった。
「ちょっとマリカ! どうしてくれるのよ!」
「へへっ、いいからいいから。面白いのはここからよ!」
二人の目の前にいるマッチョたちの集団は未だ熱気に包まれていて、あちこちから「アンジェルズ! アンジェルズ!」と声が聞こえてくる。上下に体を揺する者はいれど、その場から離れようとする者はほぼいないので、後方でこそこそと移動しているマッチョ二人がやけに目についた。
「マリカ、あの後ろの……」
アンジュがそのマッチョの不審な行動に気づき、マリカに声をかけるが、マリカはそれをニヤニヤしながら眺めている。
「そうそう、あれあれ。黙って見ていて、アンジュ。面白いものが見られるから!」
元監視マッチョである不審マッチョたちは、一人ひとりに怪しげな錠剤を渡して服用させていく。やがて大きな袋を担いだ椅子マッチョがやってきて、三人がかりで錠剤を渡し始めた。
「ちょっと……あれって、M2NRじゃないの?」
「そうそう」
「そうそうって……止めなきゃ!」
「いいのいいの、黙って見ててって」
マリカはおもむろにマイクを握ると、大声でグラウンドにいるマッチョたちに言った。
「今、後方にいるマッチョのアニキたちが、新しいM2NRを配っています! あれを飲めば、アンジュ様と握手できる権利をあげるわ!」
「はぁ? マリカ何言っ――」
オオオオオオオオオオオオオオオオオ!
俺にくれ!
俺にもよこせ!
俺が先だ!
早く薬を!
アンジュ様と握手!
アンジェルズ万歳!
アンジュがマリカに物申す前に、アンジェルズのメンバーがさらに興奮状態になり、不審マッチョ三人の元へ殺到した。
「うわっ、押すな、押すな!」
「順番に! 薬はちゃんとみんなの分あるから! 落ち着けお前ら! な!」
不審マッチョたちは押し寄せるマッチョたちに困惑しながらも、確実に一錠ずつ薬を渡していく。寄せマッチョたちはその薬をすぐに口に入れると、アンジュのもとへとUターンして戻っていった。その様子はまるで池にいる大量の鯉に餌をあげているようにも見えた。
◇
「はっはっはっは! あいつら、薬を飲めばどうなるか知らないようだ!」
離れから双眼鏡を使って、グラウンドの様子を眺めていた違法筋肉集団「ニューエイジ」の王、エイジは声高らかに笑った。
エイジはマッチョたちとは違い、ずば抜けた頭脳を持っているが体は細い。万が一マッチョたちが暴走でもしたら止めることなどできず、逆に簡単に致命傷を負ってしまうだろう。そういう理由から、彼は常に自分の身の安全を確保した上で物事を推し進めるのだ。自分の手を汚そうとはしない、そんなズルい一面がある。
――寄せマッチョたちは確実にG-M2NRを受け取り、飲み込んだ。さあ、この後が見ものだぞ。
エイジはグラウンドにいる寄せマッチョたちから目を離すことはなかった。
――マッチョたちは今まで以上に筋肉が発達してゴリマッチョになり、異常だった顔周辺の筋肉も低下した知能も元どおりになる。そしてこれまで以上に王である自分に忠誠を誓うようになるのだ。あの小娘と、どうやって動いているのかわからんくまのぬいぐるみなど、そこにいる大量のゴリマッチョたちが簡単に始末してくれるわ!
「――って思っているんでしょうけど、そうはならないのよねぇ!」マリカが、エイジのいる離れの方を向いてニヤリと笑った。
「マリカ、何を言っているの?」アンジュが不思議そうにマリカを見た。
フッ、フオオオオオオオオ!
グアアアアアアアアア!
オオオオオオオオオオオオオッ!
突然、不審マッチョたちからもらった薬を飲み込んだマッチョたちが、そんな声をあげながら苦しみ始めた。
「そうだ、そうだ! ゴリマッチョになれお前たち! そして目の前にいる小娘を蹴散らすのだ!」
双眼鏡を覗きながら、エイジが遠く離れた場所から、興奮気味に言った。
苦しそうにしていたマッチョたちの筋肉が
マッチョオオオオッ!
オオオオオオオオオオオオオッ!
グアアアアああああっ!
オオオオオオオ……おおおおっ!
――どうして
エイジは信じられないと言った表情でグラウンドにいる服用マッチョたちを眺めていた。
――やつらは確かにG-M2NRを服用した……効果は椅子マッチョで実証済みだった……ゴリマッチョになるはずだったのに、なぜ!?
なんと、グラウンドにいるマッチョが全員――
「あれ……俺は今まで何をしていたんだ?」
「何かを夢を見ていたような気分だ……」
「ああ、体が軽い!」
マッチョでなくなり、普通の人間の姿に戻ってしまっていたのだった。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
こんにちは、まめいえです。いつもお読みいただきありがとうございます。
あれ、ゴリマッチョになるはずのG-M2NRを飲んだ寄せマッチョ(新種族マッチョの誕生です!)たちが、普通の人間の姿に戻ってしまいました。
実は、それこそがマリカの真の狙いだったのです。次回その詳細が明らかになります、くだらないので笑ってください!
少しでも「面白い!」とか「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ぜひぜひレビューやフォロー、またお気軽に応援コメントをいただけると嬉しいです。一言でも大歓迎でございます、お待ちしております!
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます