第33話「もっともっと盛り上がるよ! アンジェルズ! アンジェルズ!」
違法筋肉集団「ニューエイジ」の王、エイジが用事を済ませてアジトへ戻ると、すぐに異変を感じた。
「門番が……いない?」
これまでマッチョ以外の誰も入れることがないように、という命令を忠実に守ってくれていた門番マッチョたちの姿が見当たらないのだ。代わりとなる兵士たちもいるわけではなかった。というか、門の近くにマッチョの気配を感じなかったのだった。
――中で何か起きているのか?
エイジが門の向こう、グラウンドや建物の方を見るが、特に煙が上がっていたり、戦いが行われているような感じはしない。むしろ何か歓声のようなものが聞こえ、盛り上がっているようにも思えた。
「私のいない数時間で何が……?」
もしかして部下に託した
エイジは今回作ったG-M2NRに絶対の自信を持っていた。これまでの失敗から学び、改良に改良を重ねて完成したG-M2NR。椅子マッチョに実験的に投与したときも効果は抜群だった。きっとアジトの中はゴリマッチョの喜びで溢れているはず……!
そうしたら、ゴリマッチョ軍団で「新世界」へ総攻撃をかける。この世界をゴリマッチョで支配するのはこの私だ!
喜び勇んでアジトへと戻ってきたエイジだったが――。
「なんじゃこりゃ?」
門番のいない門を通り、グラウンドへたどり着いたエイジが目にした光景は、想像していたものとは全く違うものだった。
ウオッオッオッオッ、アンジェルズ! アンジェルズ!
ウオッオッオッオッ、アンジェルズ! アンジェルズ!
ウォーウォーウォーウォー、アンジェルズ! アンジェルズ!
ウォーウォーウォーウォー、アンジェルズ! アンジェルズ!
大勢のマッチョたちがグラウンドを埋め尽くし、体を小刻みに揺らし両手を上げながら大合唱しているのである。それはコンサート会場にも似た熱気を帯びていた。
エイジは何事かと、マッチョたちの視線を追いかける。すると、建物の入り口――玄関付近に一人の少女とその肩に乗ってマイクを持っているクマのぬいぐるみの姿を見つけたのだった。
「誰だ……?」
エイジにとってはみたことのない少女だった。赤い髪を一つに結んで、若干顔を赤らめている。迷彩服を着ていることからどこかの集団の兵士なのだろうと推測した。
新世界。奴らが先手を打って攻めてきたってところか?
「ダン・ガン」が何者かに壊滅させられたという情報は、エイジの耳にも入っていた。四大勢力の中でも一番力のなかったダン・ガン。
そして先日違法マッチョを使って壊滅させた、近未来科学集団「THREE BIRDS」……あそこはアジトが爆破されて生存者はいなかったと聞いている。
たとえ生き残りがいたとしても、ここに一人で乗り込んでくるほどの力を持った者がいるとは思えない。
つまり残っているのは「新世界」のみ。それかどこにも属していない、命知らずの女性兵士か。まあどちらにせよ、侵入者は速やかに排除しないといけないな。エイジはそう判断して、ゆっくりとマッチョたちに近づく。こいつらは全員M2NRを服用している。私の姿に気づけば、訳のわからん熱狂も収まるだろうと、事態を軽く見ていた。
「前にいる不法侵 ――ウオッオッオッオッ、アンジェルズ! アンジェルズ―― 出すのだ!」
エイジの言葉は、大勢のマッチョたちの大合唱によってかき消されてしまう。
「お前たち、聞い ――ウォーウォーウォーウォー、アンジェルズ! アンジェルズ―― だろうが!」
もう一度エイジが叫んでみるが、結果は変わらなかった。「王」の言葉に耳を傾けるものはなく、その代わりに前に立っている赤い髪の少女とくまのぬいぐるみを見て熱狂的になっているのだ。さすがのエイジもこれには危機感を覚えた。
――M2NRの効果が……私に絶対的に忠誠を誓うという効果が切れてしまっているというのか? それともそれを上回る薬でも投与したというのか……? そんな、私以上の科学者など存在するわけがない! ありえんぞ!
エイジは悔しさに体を震わせた。それは、マッチョたちが「王」である自分の言葉よりも目の前の女性に心奪われているという事実と、もしかすると自分以上の知識を持つ科学者がいるのではないかという危惧からくるものであった。
「エイジ様、この騒動は一体?」
不意に背後からそう声をかけてきたのは、先ほどの椅子マッチョと監視マッチョたち三人。彼らはアンジュとマリカたちに熱狂することもなく、この状況に異変を感じ、エイジの元へとやってきたのだった。
「お前たち、今までどこで何をしていたんだ?」エイジが尋ねる。
「はっ、エイジ様の御命令通り、これまでの薬の副作用で苦しんでいたマッチョたちに薬を投与しておりました。地下に収容していたマッチョたちには全員、薬を投与済みです」と、監視マッチョが大声で答えた。周囲はアンジェルズのメンバーがいまだに大合唱をしているので、至近距離とはいえ大きな声でないと聞こえないのだ。
「薬の製造が追いつかず、時間がかかってしまったこと、お詫び申し上げます」椅子マッチョ――G-M2NRの効果によってすっかりゴリマッチョになり、言葉遣いまでよくなってしまった――が膝をついて詫びる。エイジは薬の効果が確実に現れていることを目の当たりにし、「やはり私を超える科学者など存在しないのだ!」と、思わず笑みがこぼれる。
「よし、お前たち。今度はここに集まって騒いでいるマッチョたちにG-M2NRを投与するんだ。強引で構わん。口にいれてやれ」
「はっ!」
椅子マッチョと監視マッチョは顔を見合わせると、「俺は薬を投与する。お前は理科室から出来上がった薬を持ってくるんだ」などと打ち合わせをし、散って行った。こういうときは、当然ながらエイジは何もしない。「王」として安全な場所で高みの見物を決め込むのだ。
「地下の奴らがまともになったら状況も一変するだろう。それまであの小娘は放っておいても良さそうだ」
エイジは椅子マッチョと監視マッチョに全てを任せると、王の部屋がある離れへと歩いていった。
「もっともっと盛り上がるよ! アンジェルズ! アンジェルズ!」
恥ずかしそうに立っているアンジュに対して、ノリノリでマイクに向かってコールを繰り返すマリカ。しかし、そんなはちゃめちゃなことをしていながらも、マリカの目はしっかりとエイジの姿を捉えていた。そして、彼が部下マッチョに指示を出して移動した――しかも理科室とは反対側の方へ歩いていったことを確認すると、ニヤリと笑みを浮かべたのだった。
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こんにちは、まめいえです。いつもお読みいただきありがとうございます。
マリカはマッチョたちをアンジェルズに引き込むことで、組織の壊滅を狙っています。一方、エイジは新開発したG-M2NRの力で再びマッチョたちに忠誠を誓わせようと画策しています。
このくだらない戦いはどう決着がつくのでしょうか。そして実はもう一つ、マリカが仕込んでいることがあるのです。それが戦いにどのような結果をもたらすのか、ぜひお楽しみに。
少しでも「面白い!」とか「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ぜひぜひレビューやフォロー、またお気軽に応援コメントをいただけると嬉しいです。一言でもいいので、ぜひぜひお待ちしております!
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