006 拠点

 洞窟に戻ってきた。


「まずは下準備からだな」


 コクーンで無数の丸太を購入し、それらを適当に転がしておく。

 これで完了だ。


「始める前に作戦を確認するぞ」


「風斗が刀をぶんぶん振り回して、私が後ろから槍で援護でしょ?」


「よし、難解な作戦をしっかり覚えているな」


「そのくらい忘れるか!」


「ふっ」


 俺は小さく笑い、刀を右手で振る。

 軽いので片手でも無理なく戦えそうだ。

 空いている左手でスマホを操作した。


「クエストを始めるぞ、いいか?」


「いつでも!」


 よし、と頷いて〈クエスト〉を開く。

 何度となく受けては失敗してきた緊急クエストに指を掛ける。


「いくぞ!」


 クエストを受注。

 前方に20体の骸骨戦士が現れた。


「「「ガガガガーッ!」」」


 まずは骸骨戦士の群れが突っ込んでくる。

 しかし、これまでと違って滑らかには進まない。

 足下に転がる丸太に躓いて転倒していく。


「間抜けな奴等だ! 死ね!」


 バランスを崩している敵に斬りかかる。

 刀で骨を斬れるのか不安だったが問題なかった。

 包丁で豆腐を切るが如き手応えで斬れたのだ。


「ガガッ……」


 首を斬られた骸骨戦士はそのまま死亡。

 次の瞬間には消えていた。

 死ぬと消えるのは角ウサギと同じだ。


「数が多いだけで単体性能は低い! 武器も通用するし勝てるぞ!」


 これまでと打って変わって優勢だ。

 俺は骸骨戦士の周囲を機敏に動き回り、隙を突いて攻撃する。

 相手は丸太で移動を阻害されていて為す術がない。

 一方的な攻撃によって着実に数を減らしていく。


「こりゃ危なげなく勝てそうだ」


 いよいよ勝利が見えてきた。

 それでも油断せずに最後まで戦う。

 ――というのは俺だけで、麻衣は違っていた。


「私も戦うー! おりゃー!」


 勝利を確信したのか、陣形を乱して戦闘に加わってきた。

 それ自体はかまわないが、何も考えずに攻撃したのは問題だ。

 なんと俺の背後から槍による刺突を繰り出した。


 スンッ!


 槍の穂先が俺の顔のすぐ横を通って骸骨戦士を貫く。


「ガガガッ……」


 顔面を貫かれて即死の骸骨戦士。


「ひぃいいいいいいいいいいいい!」


 陽光をキラリと反射する槍に恐怖する俺。


「本当だ! 簡単に刺さったー!」


 麻衣は無邪気に喜んでいた。


「おい! 危ねぇだろ!」


「大丈夫だって! ちゃんと狙ったもん! ほれ!」


 麻衣が追加の刺突。

 今度は先程よりも顔の近くを通った。


「ひぃいいいいいいいいいいいいい!」


 青ざめる俺。

 麻衣は愉快気に「きゃはは」と笑う。


「びびりすぎだって! 風斗は大袈裟だなぁ!」


 骸骨戦士の群れを封殺しているのに、生きた心地がしなかった。


 ◇


 ハチャメチャな戦闘がどうにか終了した。


 結果は俺達の完全勝利。

 麻衣は涼しい顔で喜び、俺は体によくない汗を滝のように流した。

 まさか魔物よりもおっかない奴が仲間だとは思わなかった。


「緊急クエスト達成だってよ」


 〈クエスト〉を開くと変化があった。

 成功を祝う文章と拠点を獲得するかどうかの確認が表示されている。

 どうやら無条件に拠点を貰えるわけではないようだ。


「拠点を手に入れるのは1万ptが必要らしい」


「1万で買えるってこと?」


 首を傾げる麻衣。


「買うというより借りる感じだ」


「どういうこと?」


 俺はスマホに表示されている説明を読みながら答えた。


「拠点を使うには毎日1万ptの維持費を払う必要があるそうだ。今要求されている1万ptは本日分の維持費ってことらしい」


「1万なら問題ないし手に入れちゃおうよ!」


「当然だ」


 俺は1万ptを支払った。


『この拠点の所有権を手に入れました』


 見た目に変化はないが、目の前の洞窟が俺の物になったようだ。

 試しに洞窟の中へ入ってみることにした。

 前回は見えない壁に阻まれたが――。


「お、いけたぞ!」


 ――今回は何の問題も起きなかった。

 麻衣は俺に続いて洞窟に入り、すぐ隣に立つ。


「拠点を手に入れたことだし休憩しよう」


「さんせーい!」


 俺達はその場で腰を下ろし、互いにスマホと睨めっこ。

 光の速さで指を動かす麻衣に対し、俺の指はカメ並みだ。


「どうやらポイントを使って拠点を拡張できるらしいぞ」


 俺は〈拠点〉を開きながら言った。


「拡張って?」


「例えばスペースを拡張して奥行きを広くすることが可能だ。他にも蛇口や照明を設置したり、何だか色々とできそうだぞ」


 興奮気味の俺と違い、麻衣の反応は「あーね」と素っ気ない。

 かと思えば、「拠点の入場制限って変更できる?」と尋ねてきた。


「できるよ。今は『誰でも』になっているけど、他にも『本人のみ』や『フレンドまで』などがある」


「試しに『本人のみ』に変えてみてよ。たぶん私、吹き飛ぶから」


「吹き飛ぶ? まぁいいや、やってみよう」


 俺は入場制限を『本人のみ』に変更した。

 すると、本当に麻衣が拠点の外へ吹っ飛んでいった。

 スカートが捲れて純白のパンティーが露わになっている。

 それを見た俺は無意識に「おほっ」とニヤけた。


「いったぁ……。想像以上に吹っ飛んだね……」


「想像以上っていうか、普通は吹き飛ぶなんて思わないはずだが?」


 拠点の入場制限を『フレンドまで』に変更する。


 麻衣は「あはは」と笑って流し、再び俺の隣に腰を下ろした。


「次は拠点の拡張をしてみるか」


「いいねー。拡張って5,000ptだっけ?」


「いや、1,000ptだけど。5,000って額はどこから出たんだ?」


「な、なんとなくだよ! なんとなく!」


 麻衣の目が泳いでいる。

 俺は大きなため息をついた。


「なぁ、そろそろ本当のことを話さないか?」


「本当のこと?」


 真剣な表情になる麻衣。


「何か知っているんだろ? この島のこと」


「それって、どういう……」


「とぼけても無駄だ。これまでの言動を見ていれば馬鹿でも分かる。この島に集団転移したことやコクーンについて、麻衣は何か知っているはずだ。違うか?」


「…………」


「別に責める気はないよ。ただ、何か知っているなら俺にも教えてくれ。他のことなら好きなだけ隠してもいいが、この異常事態については可能なかぎり情報が欲しい」


「…………」


 麻衣はしばらく無言だった。

 何かを考えているようだ。

 そして――。


「まぁ、知っていると言えば知っていることになるのかな。経験したのは今回が初めてだけど」


「どういうことだ?」


「話してもいいけど、たぶん信じないと思うよ」


「今以上に信じられないことなんてないから平気さ」


「たしかに」と笑う麻衣。

 それから、「信じなくてもいいけど……」と話し始めた。


「実は、過去にも同様の事件が起きているんだよね――」

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