004 骸骨対策

 敵はボロボロの布きれを纏った骸骨の戦士だ。

 背丈は俺達と同じくらいで、手には刃の欠けた剣を持っている。

 脚が上がらないのか移動はすり足だ。

 数は20体。


「オラアアアア!」


 まずは挨拶代わりに枝で一発。


「ガガガーッ!」


 攻撃を受けた骸骨戦士は盛大に吹き飛んだ。

 骨はくっついたままでバラバラにならない。

 理科室の骸骨とはモノが違うようだ。


「うげっ、死んでねぇぞ」


「「「ガガガーッ!」」」


 他の骸骨戦士が一斉に襲ってきた。

 単体の動きは大したことないが、いかんせん数が多すぎる。


「やべっ」


 俺は避けるので精一杯だった。


「ガガーッ!」


「うおっ」


 避けた拍子に他の骸骨戦士にぶつかった。

 バランスが崩れて転倒する。


 尻餅をついたところへ骸骨戦士の群れが襲ってきた。


「やばいやばいやばい!」


 反射的に目を閉じてしまう。

 死を覚悟した。


「風斗ォオオオオオオオ!」


 麻衣が助太刀に入った。

 木の棒をでたらめに振り回しながら突っ込む。


「早く立って! 逃げて仕切り直そう!」


「おう!」


 俺は木の枝をその場に捨てて逃走。

 麻衣も武器を投げつけて走った。


「お、消えたぞ」


 開けた場所から離れると魔物の群れが消えた。


「クエストは失敗したことになってるね」


 麻衣は早くもスマホを確認していた。


「もう一度このクエストを受けるには洞窟に近づけばいいのかな?」


 答えを知るため洞窟に接近。

 すると、先程と同じようにクエストが発生した。

 もちろん今は受けない。


「どうやらそのようね」


 麻衣はスマホを懐に戻し、残念そうにため息をついた。


「やっぱり拠点のゲットは一筋縄じゃいかないかぁ」


「でも絶望的な戦力差があるわけではなかったな」


 敗戦の理由は準備不足に他ならない。

 情けない逃げっぷりを披露したが手応えはあった。

 作戦を練って挑めば善戦できるはずだ。


「武器を買ってリベンジする?」


「そうだな。でも、その前に確認しておきたいことがある」


「何?」


「次の敵がまた骸骨戦士なのかどうかさ。クエストを受ける度に敵が変わるかもしれない」


「そっか、クエストには『魔物の群れ』としか書いていないもんね」


 確かめることにした。

 逃げる準備を整えてからクエストを受ける。

 すると――。


「「「ガガガーッ!」」」


 相手は骸骨戦士だった。

 さっと後方に下がってクエストを失敗させる。

 骸骨戦士が消えたら、再び洞窟へ近づきクエストを受けた。


「「「ガガガーッ!」」」


 またしても現れる骸骨戦士。

 何度か試したが、結果は変わらなかった。

 敵は20体の骸骨戦士で、出現位置まで完全に同じだ。


「ここの敵は骸骨戦士で決まりのようだな」


「敵の種類が固定なら対策を立てやすいね」


「うむ」


 俺達は洞窟の前で腰を下ろす。

 飲料水を二人分購入し、休憩がてら作戦会議。


「さて、どうやって骸骨戦士に立ち向かうか」


 俺は〈ショップ〉を開き、武器カテゴリを眺める。


 ひとえに武器といっても種類は様々だ。

 中世ヨーロッパにありそうな剣や斧から現代の銃器まで売っている。

 できれば銃器が欲しいところだが、今の俺達には高すぎて手が出ない。


 かといって剣や斧なら買えるのかといえばそんなことはなかった。

 銃器に比べて安いが、それでも数万ptとお高いので手が出ない。

 俺達の所持金は二人合わせて1万ptにも満たないのが現状だ。


「クエストを受ける前にポイントを稼いだ方がよさそうだな」


 麻衣を見る。

 彼女は自らのスマホを凝視したまま「んー」と渋い反応。


「武器を使わずに戦うってのはどう?」


 妙なことを言い出す麻衣。


「何を言ってんだ、木の枝じゃ太刀打ちできなかったろ。まさか素手で殴れって言うのか?」


「そうじゃなくて」


 麻衣はスマホの画面をこちらに向けた。

 〈ショップ〉の商品ページが表示されている。

 商品名には携行缶と書かれていた。

 缶の中に入っているのは――ガソリンだ。


「このガソリンを事前に撒いておくの」


「で、魔物の群れが現れたら火の海にするわけか」


「その通り!」


 なんという奇天烈なアイデアだ。

 正気の沙汰とは思えないが、麻衣は自信満々だった。


「これなら5,000ptすらかからないし、今すぐに実行できるよ!」


 ガソリン入りの携行缶は4,000ptで、ライターは500pt。

 二つ合わせてもたった4,500pt。

 それで火の海が完成する。


「悪くないアイデアだ」


「でしょ!」


 低コストで大量の魔物を一網打尽にできるのは大きい。

 だが、俺は首を横に振った。


「残念ながらその案は却下だ」


「えー、なんで?」


「あまりにも危険すぎる」


「危険ってことなら遠くから火をつけたらいいじゃん。ロケット花火とか使ってさ」


「大差ないよ」


 俺は「見ろよ」と周辺の木々を指した。


「洞窟の前が開けているとはいえ辺りは緑一色だ。こんなところでガソリンファイヤーなんてしたら森まで火の海と化してしまう。そうなりゃ俺達は間違いなく死ぬぞ」


「うわぁ、たしかに森が燃えたら困る」


 麻衣は「ダメだー」とお手上げのポーズ。


「でも、事前に環境を整えておくのはアリだな」


「というと?」


「ガソリンは過激すぎるが、例えば落とし穴を掘っておくとかさ」


「それだ! それ採用! それでいこう!」


 俺は「いやいや」と苦笑い。


「落とし穴は例だよ。あれだけの数を穴に嵌めるのは辛い。穴を掘るだけで一日が終わってしまう」


「だったらどうすりゃいいのさ?」


「骸骨戦士の動き方はすり足だった。穴を掘らなくても、足下に何かしらの障害物があれば躓くと思う。それだったら準備の手間も大してかからないだろう」


「おー! 天才じゃん、風斗」


 麻衣との会話によって、おおよその戦い方が見えてきた。


「あとは武器の調達だけだな。魔物とは今後も戦うだろうし、安物でも武器を買っておいたほうがいいだろう」


「それもそうだね」


「問題はどうやってポイントを稼ぐかだ」


 数体の角ウサギを倒す必要がある。

 素手で倒せるなら他の魔物でもかまわない。

 しかし、残念ながら周囲に敵の姿が見当たらなかった。


「面倒だが歩き回って獲物を探すとしよう」


「その前に試してもいい?」


「何を試すんだ?」


 麻衣は立ち上がり、近くの木に向かう。

 そして、その木に生っている果物を摘み取った。

 触るのすら躊躇われる毒々しい果実を、なんと素手で。


「そんなヤベー物に触れるならゴム手袋を買ったのに……って、あれ?」


 不思議なことが起きた。

 麻衣の採った果実が姿を消したのだ。

 角ウサギを倒した時と同じように忽然と。


 麻衣はすかさずスマホをチェック。

 それから「やっぱり」と呟き、俺を見た。


「果物の収穫でもポイントを稼げるみたい。魔物退治に比べたらショボいけど」


 麻衣に〈履歴〉を見せてもらう。

 たしかに収穫で500ptを稼いでいた。


「ふむ……」


 目を細めて麻衣を見る。

 彼女は何食わぬ顔をしているが、これは明らかに異常だ。

 あまりにも知識が豊富すぎる。

 今しがたの収穫にしても、「やっぱり」という感想には違和感があった。


 もしかしたらグループチャットで情報が出ていたのかもしれない。

 そう思って確認したが、それらしい発言は見つからなかった。

 すると、麻衣はどうして……。


「おーい、風斗、聞いてる?」


 麻衣の声でハッとした。


「聞いてなかった」


「おい!」


「すまんすまん、で、どうした?」


「私の直感だと釣りや漁でもポイントを稼げると思うんだよね」


「ほう」


 直感と言っているが、おそらく何らかの情報に裏打ちされたものだ。


(ま、今は触れないでおくか)


 拠点の獲得が終わって一息ついた時にでも訊けばいい。


「近くに川があったでしょ? 行って漁でもしない? 上手くいけばザクザク稼げるよ!」


「直感がそう告げているのか?」


 麻衣は「うっ」と言葉を詰まらせてから、「まぁね!」と頷く。

 直感で押し通すには苦しい反応だが、俺は「そうか」とだけ返した。


「なら川に行って漁をしよう」


「イエーイ! で、漁って言っても何をすりゃいいんだろ?」


「おいおい、漁を提案しておきながらノープランかよ」


「ごめんごめん! 歩きながら調べるよ!」


「いや、その必要はない」


「えっ」


「川で漁をすりゃいいんだろ? 漁のやり方なら分かる」


 落胆させないよう「漁って程のものじゃないけど」と予防線を張っておく。

 それでも麻衣は、「すごっ」と驚き、興味津々の様子だった。

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