030 こいつらほんとゴミだなぁ!

 水野が旅立った。

 だからといって、彼と話せなくなるわけではない。

 俺達はラインのグループ通話機能を使って会話をしていた。


『こちら水野、ただいま異常なしっす!』


「俺達も問題ないよ」


「いつでも戻ってきていいからなぁ!」と波留。


 俺達はいつもと同じく漁に耽っていた。

 水野にお金を集約させた為、しっかり稼いでおかないとな。


『あとで海中の写真とか送るっす! ではまたっす!』


 水野が通話を終了する。

 前代未聞の挑戦をしているとは思えない陽気さだ。

 強がっているだけなのか、それとも心から楽しんでいるのか。

 どちらかは分からないが、彼の元気な声は俺達を安心させた。


「なぁ大地ぃ」


 大量の魚がかかった網を陸に揚げる時、波留が話しかけてきた。


「水野の奴、本当に大丈夫なのかぁ?」


「正直なんともだな」


 水野曰く、天候は良好で波も安定している。

 だが、それがいつまで続くかは分からない。


「だからといって不安な気持ちになっていても仕方ないさ。それに、上手くいけば半分も進まないで発見される可能性がある」


「えっ!? マジ!?」


「実はこの島と小笠原諸島の間、ここから200kmほど進んだところに西之島という無人の火山島が存在する。この島はよく調べられているんだ。航空機や衛星を使ってな。水野がその島の近くを通過すれば、もしかすると気付かれる可能性がある」


「うおおおお! なら小笠原諸島まで行く必要ないじゃん!」


「いや、そう楽観視は出来ない。正直、水野が発見される可能性なんて皆無に近い。観測しているといっても、連日にわたって島の周辺をウロウロしているわけじゃないからな」


「なーんだ、じゃあ微妙じゃん!」


「だから正直なんともだなって。海の天候はよく変わるって言うし」


 何度目かの漁が終了する。

 今日も安定して200万ほど稼げそうだ。


 ピロン♪


 作業を終えて休憩しているとスマホが鳴った。

 俺達専用のグループラインに水野が写真をアップしたのだ。


「波留の心配とは裏腹に水野はすこぶる楽しそうだぞ」


 綺麗な海中の写真が立て続けに貼られていく。

 自撮り棒のような器具を使って海の中を撮影しているようだ。

 写真だけでは飽き足らず動画までアップされた。


 写真も動画も画質が良い。

 流石は天下のマイクロンソフトが作るスマホだ。


「海も悪くないなぁ! 今度、皆で海に行って遊ぼうよ!」


 水野のアップした動画を観て、波留は声を弾ませた。


 ◇


 漁を終えて全員で拠点に戻る道中。


「待て」


 拠点が遠目に見えてきたところで、俺は制止した。

 俺達の拠点の傍に知らないグループがいたからだ。


 相手は男3人女2人からなる5人組。

 顔に見覚えがないことから、1年か2年だろう。

 例外なくやつれており、制服も汚れが目立っている。


 幸いにも向こうはこちらに気付いていない。


「どうするの?」


 由衣が尋ねてくる。


「話しかけるしかないだろう。もちろん安全を確保してからな。あと、これは隠しておこう」


 漁で使う網を近くの茂みに隠しておく。

 それから〈ガラパゴ〉を起動して土地の購入を行う。

 5ブロックを購入し、俺達の足下まで領土を拡張する。

 茂みに隠してある網も土地の上にあるから安心だ。


「流石ね、ぬかりない」


「なにが起きるか分からないからな」


 俺達は購入した土地の上を歩いて拠点へ向かう。

 連中は洞窟内に釘付けだったが、1ブロック差まで近づくと気がついた。


「俺達の拠点に何かようかな?」


 皆を代表して話しかける。

 近づいて分かったが、連中は非常に臭かった。

 この島に来てからずっと同じ服を着ているのだろう。

 それに体も洗っていないに違いない。


 ヒョロガリで背の高い男が口を開く。

 この男がリーダーのようだ。


「俺、いや、僕達は谷で活動していたのですが、解散して、それで、よかったらここで一緒に」


「断る」


 即答だった。

 相手が話を終える前に断る。


「悪いがウチはこれ以上の人手を求めていないんだ」


「そこをどうにかお願いします。なんだってしますから。もう木の上なんて嫌なんです。本当にお願いします」


 男が土下座する。

 すると他の4人も土下座を始めた。


「おいおい、土下座とかやめろし」


 波留が困惑している。

 どうやら彼女は押しに弱いようだ。

 土下座一発で心が揺らいでいる様子。


「どうしよう、大地君」


 千草も波留と同じような表情。

 一方、由衣と歩美については無表情のままだ。

 当然ながら俺の表情にも変化はない。


「悪いがお断りだ。木の上で過ごすのが嫌ならボスを倒して拠点を奪うといい。お金は余裕があるだろ。〈ガラパゴ〉でユーザーが販売している武器を買って、それで敵を倒すことだな」


「どうしても駄目でしょうか?」


「駄目だ」


「……分かりました。それじゃ」


 連中は大して食い下がらなかった。

 取り付く島がないと判断したのか、それとも他に当てがあるのか。

 とにかく、あっさり去っていった。


「ひやっとしたぁ!」


 連中が消えると同時に波留が言った。


「大地君は強いね。私、土下座されたら気持ちが揺らぐよ」


「5人もいたからな」


「1人2人なら様子見で入れてもってなるんだけどね」と由衣。


 俺は「そういうこと」と頷いた。


「今後はああいう人達がたくさん来そうだね」


 歩美がげんなりしたように呟く。


 俺達の居場所はわりと知られている。

 かつて萌花がグループラインで喚いていたからだ。


 谷に参加していないグループの中で、所在が明確なのは俺達くらいだ。

 よって、谷のグループに所属していた者が最初に此処へ来る可能性は高い。

 俺達からすると迷惑極まりない話だ。


 谷に参加していない人間自体は他にも100人近くいるはず。

 それらの人間がどこにいるのかは分かっていなかった。


「受け入れないことを宣言しておくか」


 ということで、全学年用のグループラインで直ちに宣言する。

 来た所で誰も受け入れないよ、と。


「ま、こうなるよな」


 俺の宣言に対する反応は予想通りだった。

 協調性がないだの、冷酷だの、ケチだの、叩かれまくりだ。


 中には「富裕層が貧困層を救わなくてどうする」と言う者までいた。

 島に来た時点では等しく0ptスタートだったのに何を言っているのやら。


 こいつらは普段、俺を「情報通の良い人」として崇めている。

 それが一転してこのような手のひら返しだ。


「こいつらほんとゴミだなぁ!」


 波留がスマホに向かって毒づく。


「かまわないさ。どうせ明日になったら忘れている。俺も、この不満たらたらな連中も。ならば言わせておくさ」


「大地は心が広いなー!」


「無関心なだけさ」


 俺達は洞窟の中に入った。

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