021 全員で協力して行う初のチームプレイ

 ググール先生に相談して詳細を詰める。

 それによって導き出された妙案を昼食の場で話した。


「その手があったかぁ! 大地やっぱ天才じゃん!」


 話を聞いた波留は、手を叩いて興奮している。


「発想が凄いね」


 由衣も太鼓判だ。

 千草と歩美からも賞賛の声がかけられた。


「何気に今回が全員で協力して行う初のチームプレイになる。成功させてがっつり稼いでやろうぜ!」


「「「「おおー!」」」」


 ◇


 全員で川にやってきた。


 川の様子はいつもと変わらない。

 幅は約10メートルで、深さは脛が浸かる程度。

 流速は少し速く感じるも、川に入るのを躊躇うほどではない。

 魚の数は多くて、釣り堀を彷彿とさせた。


「さーて、一網打尽にするぞ!」


 俺は〈ガラパゴ〉で商品を購入する。

 買ったのはとてつもなく大きな網だ。

 2万ptもしたけれど、価格以上の効果が期待できる。


 俺達が行うのは漁だ。

 川に網を仕掛けて、泳いでくる魚をもれなく捕まえる。


「上3人の下2人でいこうか」


「「「「了解!」」」」


 靴と靴下を脱ぎ、全員で川に入る。

 上流側に俺、波留、千草。

 歩美と由衣は下流側についた。


 まずは波留と歩美が網を持って対岸まで歩く。

 それが完了すると、上流側の3人が網を伸ばした。


 大きな網を川の底にピーンと張る。

 川魚達は変わりなくその上を進んでいく。


「始めるよ」


 由衣の言葉で下流組が動き出す。

 網を持ち上げ、俺達上流組のほうへ近づいてきた。


 川魚にとっては目の前に網の壁ができたようなものだ。

 あっという間に川魚の行列が出来上がった。


「その辺で止まってくれ」


 俺の指示で下流組が止まる。


「あとは俺達だな」


「待ってました!」


「持ち上げるよ、大地君」


「おう」


 下流組と同じ要領で網を持ち上げる俺達。

 そのままゆっくりと下流組に近づいていく。

 網の中には少なくとも数十匹の魚がかかっている。


「焦らなくても逃げないから慎重に上げるぞ」


 残すは全員で岸に上がるだけだ。

 足下に気をつけながら、網を持って進む。


「大漁だぁあああああ!」


 岸に上がると同時に波留が叫んだ。

 俺を含む残りの4人も安堵の息をこぼす。


「あとは――」


 網にかかった大量の魚を眺める。


「――逃げ場のない魚を全員で掴めば金になる」


 と、俺が言った時だった。


「どうやらわざわざ掴む必要はなかったみたいだね」


 由衣が言った。

 網にかかった魚が一斉に消えたのだ。

 モコモコに膨らんでいた網がペタンコになる。


「これは誰の稼ぎになるんだろうな?」


「そりゃー、MVPの私っしょ!」


「MVPとかある?」と歩美。


「それだったら発案者の大地君じゃない?」


「それもそっかぁ! なら今回は大地に譲ってやらぁ!」


「波留が譲ってくれても、〈ガラパゴ〉がどう判断するか分から」


 話している最中にチャリーンの音が聞こえた。

 鳴ったのは――全員のスマホだ。

 俺達は慌てて〈ガラパゴ〉の履歴を確認する。

 大量の魚がお金になったことを示すログが並んでいた。


「って、なにこれ!? いつもより明らかに安いんだけど!?」


 波留が唇を尖らせる。

 たしかにどの魚も1000pt前後でしかない。

 これはいつもの5分の1に相当する数字だ。

 すぐにピンときた。


「たぶん5等分なんじゃないか?」


「そんなのどうやって分かるのさ?」


「履歴を見せ合えばいい。全員が同じログになっているはずだ」


 ということで、全員のスマホを並べる。

 その結果、報酬はきっちり5等分であると分かった。


「1人あたり約7万5000の稼ぎってことは」


「5人だと約37万ってところだね」と歩美。


「すげぇ! こんな短時間で37万も稼いだの!?」


「そういうことだ」


 漁の時間は慎重に取り組んでも20分はかからない。

 仮に休憩を挟んだ場合でも1時間に2回は行えるだろう。

 稼ぎに多少のムラがあるとしても、1時間で約60万は稼げるはず。


「見ての通り川には大量の魚がいるから、よほど乱獲しない限り絶滅することはないだろう。この方法なら安定して捕獲できるし、これでしばらくはお金のことで悩まなくて済むぞ!」


 嬉しさから俺達は雄叫びを上げた。


 ◇


 その後も俺達は漁を続けた。

 休憩時間をたっぷりとって、1時間に2回のペースで作業を行う。


 1回あたりの平均収入は約35万pt。

 それを今日だけで6回。


 たった1日で200万以上も稼いでしまった。

 これは過去最高なだけでなく、昨日までの合計よりも多い。


 漁は3時間程度で切り上げた。

 限界まで頑張ると翌日以降が苦しくなる。

 病院のないこの島では、健康面の配慮が最重要だ。


「これだけあったら使いたい放題だなぁ!」


 帰りの道中、波留が嬉しそうに言った。


「使いたい放題って程ではないけど、余裕はできたよな」


 俺達の顔はホクホクだ。


 俺なんて網を担いでいるのに笑顔である。

 網は川の水を多分に含んでいるため、制服がビショ濡れだ。

 でも気にしない! ニッコリ!


「これでキッチンとか作れるよね!?」


「もちろん。真っ先に作ろう」


「やったー!」


 千草が目を輝かせながら跳びはねる。

 誕生日プレゼントを貰った子供のような喜びようだ。

 誰よりも豊満な胸が上下にぷるんぷるん揺れていた。


 ◇


 洞窟に戻ったら拠点の拡張だ。


「ついにコイツとお別れする日がやってきたな」


 洞窟に入ってすぐのフロアに並ぶ布団を見る俺達。

 布団地帯は今日をもつてダイニングキッチンに生まれ変わる。


「布団はどうする? また付加価値を付けて売るの?」


 由衣が尋ねてきた。


「残しておいていいんじゃないか。いつか使う日が来るかもしれない。使わなくなった物を保管する為のフロアも用意しよう」


「了解」


 俺は布団地帯の右にある壁を拡張する。

 新たにフロアができると、さらに奥へ拡張した。


「布団地帯と合わせて3フロア。千草はここをダイニングキッチンとして構築してくれ。必要なら追加でフロアの拡張を行ってくれてもかまわない」


「私が決めていいの!?」


 千草が鼻息を荒くして距離を詰めてきた。

 俺の身体に彼女の胸が当たっている。

 少し、いや、かなりムラムラした。


「当たり前さ。だって此処は千草のテリトリーだろ?」


「ありがとー、大地君!」


 いよいよ抱きつかれてしまった。

 胸の弾力だけでなく、髪の甘い香りまで俺を刺激してくる。


「さて、その間に俺達は――」


 千草をその場に残し、布団を持って洞窟の奥に向かう。

 千草の布団は俺が一緒に運んでおく。

 突き当たりで足を止めた。


「――個室を作ろうか」


「個室!?」


 波留が食いつく。


「お金に余裕があるし、一人で過ごせる空間が欲しいだろう?」


「たしかに!」


 ということで、突き当たりの壁に向かって拡張を行う。

 俺がフロアを増やすと、女子達が照明と空調を付けてくれた。


「とりあえず今回はこれでいいか」


 奥に向かって7度の拡張を行った。

 目の前にあった突き当たりが随分と先になる。


「あとは左右の壁を各自で拡張して個室にしよう。家具とかも好きに設置するといい。完全に自由だ」


「まじすか!? 大地は太っ腹だな!」


「その代わり、お金を使い切るのはNGな。1人20万……5人で100万は残しておきたい」


「100万も残すの!? 大地は心配性だな!」


「そうでもないさ。食費に50万、土地の購入やらトイレの増設やらで50万ってところだ。有事に対する備えとしては少ないくらいだよ」


「ほんとかよぉ。ま、そういうのは大地と由衣に任せるよ!」


 波留は話を切り上げ、ウキウキで個室作りを始める。

 こうして、俺達の拠点にダイニングキッチンと個室が追加された。

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