妖魔戦争

ポンコツ醤油

第1話 殺人鬼

 1978年 2月10日 突如として空に現れた赤色の球体。そしてそれと同時にとある企業で起こった連続怪死事件と爆破テロ。


 これほど大規模な事件がありながら警察は犯人の手がかり1つ掴めてない。人知を越えた悲惨な事件。


 人々はそれを妖魔のせいにした。



 古くから続く悪しき文化というものはそう簡単になくならないものだ。孤児院で育った少年

神埼紫苑 は幼い頃に男尊女卑の考えの染み付いた父親に母を殺害されている。


 「あの子、周りと一切関わろうともしないし、喋ったところなんて見たことありません。施設でも厄介者扱いされてましてね。」


 孤児院の職員が新入りに紫苑について話す。


 「わかりました。私が何とかしましょう。」


 新入りは紫苑のいる部屋に入る。


 「はじめまして、今日から君の担当をすることになった小村早織って言います。」


 

 グレーのパーカーに黒色の長ズボン。そしてフードで顔が隠れた男が孤児院の前に立つ。


 「ここか……。」


 男は袖からナイフを取り出す。


 

 「君、頭いいんだね。」


 早織が紫苑に言う。


 「……まあ、はい。」


 紫苑は小声で答える。


 「君は勉強もちゃんとできるし、少しゲームでもしようか。」


 「いえ、結構です。」


 紫苑は即答した。


 「あなた方が俺のことを厄介者扱いしてるのは知ってるので。」


 紫苑は言った。


 「そんなことは、」


 「ガコン」


 扉が倒れる音がした。そして1人の男が紫苑の部屋に入ってくる。


 フードに隠れた顔は恐ろしいほど青白く、血走った目に裂けた口、そして刃こぼれのひどいナイフがギラギラと輝いていた。


 早織は紫苑の前に立つ。


 「通報されたくなかったらすぐにこの子から離れて。」


 早織が言う。


 「……10秒やる。ガキから離れろ。俺の目的はガキ共でお前じゃない。」


 男が言う。


 「断ると言ったら?」


 「お前も殺す。」


 男はナイフを早織の腹に突き刺した。


 「馬鹿な女だ。」


 男は言う。


 「紫苑、君。そこの窓から早く逃げなさい。」


 早織が言う。


 突然現れた殺人鬼を前に紫苑の脳裏に浮かんだのはかつての両親との別れであった。いつも通り父の怒声が響く中で母の叫び声が聞こえた。布団から出て両親の部屋に入ると、そこにいたのは血まみれになった母と赤色のバットを持った父であった。


 「紫苑、逃げ、て。」


 母は涙を流しながら言った。



 「やめろ。」


 紫苑は言う。紫苑の右腕に不規則に並ぶ三日月型の紋様が現れる。


 「……それは!?」


 紫苑の前に現れた朱色の剣に男は驚く。


 「お前、何者だ?」


 男はナイフを抜き早織から離れた。そして一目散に逃げていった。


 「!?」


 我に帰った紫苑は何があったのかをよく理解していなかった。男が消え、目の前にはかつての母のように血濡れた早織であった。


 「何で俺なんかを助けたんですか?」


 紫苑が言う。


 「……そんなの当たり前のことじゃない。私はね、君に幸せになって欲しいだけ。」


 早織が言う。


 「私も孤児院育ちだったからわかるよ。辛かったよね。寂しかったよね。」


 早織が紫苑を抱き締める。紫苑はその時、はじめて自分の意思で涙を流した。

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