36:謎のクリスタル

恐る恐る扉の向こう側を見る。




「…すごい」




俺はその光景に見とれてしまった。


出てきた先にあったのは、青い宝石で構成された王冠のような巨大な台座。


その中心に、透明に輝く大きなクリスタルが浮いている。


室内のどこからも光が入っていないのに、クリスタルは明るく眩しかった。


その光に照らされた壁や床が七色に彩られている。




「これって、大発見だよね?」




フレンさんもポカンとしたまま、クリスタルを眺めている。


他の三人も同様に、あまりの美しさに足を止めてしまっている。




「とりあえず、行ってみませんか?」




見とれてはしまったものの、あまりこの重要さがわかっていなかった俺は、接近を提案する。


誰も何も言わず、目だけ合わせて歩き始めた。




こんなに明るくて、かなり近づいているのに全然眩しくない。


ただの光ではないのだろう。




もう手の届く所までやってきた。


クリスタルの大きさは、小柄のウパがすっぽり収まるくらいであった。


よく見ると、浮いているだけではなくて、ゆっくり回転している。


幻想的で、でもどこか創作性がある。


物を浮かせるなんて魔法でないとできない。


ということは、これは魔具のようなものなのだろうか?




「ど、どうしますか?」




ミーヤさんは、あまりの大物を目の前に慎重になっている。


うっかり触って罠が発動するなどは小説のお決まりだ。




「困ったわね。帰る術がわからない以上、せっかくこれをゲットしても邪魔になるだけかもしれないし…」




フレンさんも目を輝かせてはいるが、現実としっかり戦っている。


ウパはというと、よほど気に入ったのか一心不乱に眺めていた。




「罠や仕掛けがあるものとして、これが帰るために必要だってことはありませんか?」




これもまた小説の定番。


宝物の所有者にしかわからない解除方法があること。




「まぁ、なくはないかもね。


あの廊下は入ったらかならず仕掛けが動くようになってそうだし、その可能性は高いと思う」




フレンさんもとりあえず同意してくれたということで、直接触れない範囲でまずは台座を含めてクリスタルを調べてみることにした。




「タイプスペル:ソナー」




手始めに、手には見えない仕掛けがないか探る。




「えー…」




「どうしたの?」




「いや、これ全部紛れもなく鉱石だよ。加工されているような箇所が見当たらない」




「他に何かできることはある?」




「えっと、じゃあ、ビジブルグリーム」




俺は手のひらサイズの筒型の魔具を取り出すと、先端のふたを開ける。


中から煙が出て、クリスタルの光に照らされる。


魔具を貸してくれたオラウが言うには、世の中には目に見えない光があり、人に有害な可能性もあるらしい。


ビジブルグリームは、そういった人には見えない光を可視化してくれる煙である。




「ハリネさん!見てください」




ミーヤさんが煙の中に何かを見つけた。




「なにかあった?」




「あれ、見えてませんか?こっち側に来てください」




俺たちは台座側に寄り、クリスタルが照らしている側の煙を見た。


そこにはなんと、文字のような記号が浮かび上がっている。




「ちょっと、煙が消えかかってるよ!」




やばい、魔具が切れかかっている。ビジブルグリームはこれ一本しかない。


他になにかできることは?そうだ!




「トランスクリプション」




今度は虫眼鏡のような魔具を取り出すと、レンズを通して文字を見ながら暗証コードを唱える。




カシャン




機械的な音を立てると、そのレンズに見ていたものが映り込む。


煙は消え去り、間一髪で文字を残すことができた。




「これでなんとか…」




「これも魔法ですか?ハリネさんって、いったいどれほどの魔法使いなんです?」




ミーヤさんはトランスクリプションがよほど驚きだったのか、今までのように俺を称えてはくれなかった。無いならないで少し寂しい。




「あの、これ読める人いますか?」




全員でレンズをのぞき込む。




「うーん、古代文字に似ているけど、まったくの別物ね。時代が近いだけかも」




「並びに規則性がありますね。海底神殿のこともありますし、相当発展していた文明のものかな」




「とっかかりがあれば解読できそうだが、手掛かりがこの部屋にあれば…」




フレンさん、ミーヤさん、何気にゴルデさんとそれぞれの見解を述べた。


とりあえず、この文字に何かありそうなので、他に手掛かりがないか辺りを散策し始める。




俺は未だクリスタルに見入っているウパの肩を叩く。




「わっ!」




相当入れ込んでいたようで、ウパは驚きながら我に返った。




「そんなに気に入ったのか?」




「えっ?あぁ、そうなのかもしれないけど…」




何か歯切れが悪い。




「そうだ、一応ウパも見てみてくれよ」




そう言って俺はレンズに写った文字をウパに見せる。




「あっ、これはエルフ文字だよ」




至って普通の調子でウパは答えた。




「えっ!?もしかして読めるの?」




「もちろん、スイに教えれるくらい詳しいよ」




そういえばパークス三兄弟のスイがずいぶん本を読んでいたな。


俺も彼女のように少しでも書物に興味を持っていたら、気が付けたのかもしれないな。


ともあれ、俺の場合はウパが冒険に同行してくれている。これはこれでよし。




「ウパ、いったいなんて書いてあるんだ?」




「えーとね」




ウパは一回全文に目を通した後、今度は声に出してくれた。




「アルガ ノルズイ ゲ ハマルフル パオムウエヅ」




すると、クリスタルが一瞬暗くなると、今度は目を開けれないほどの光を放った。

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