35:無限の道

コッ、コッ、コッ




俺たちの足音だけが響く。


今のところ、変わった様子はない。


扉が勝手に閉まることもなかったし、石像が動き出したりしない。


罠は考えすぎだったのか?


でも、ソナーで感じた浮いている感じはなんだったのか?




「ハリネ」




ウパが俺の袖を掴む。




「どうした?」




「何か変…」




以前として変わった所はないが、ウパは明らかに怯えていた。




「でも、入る前は大丈夫だって…」




「そうだけど、だんだんマナが集まってきて、気持ち悪い」




「どこらへんに?」




「この周り」




ミーヤさんは空間が開いているんじゃないかと言っていた。ソナーで感じた事と合わせると、ここは渡り廊下みたいな所で、その周辺にマナが集まってきている状況なのかもしれない。




ウパに赤髪になってもらい、もっとよく探ってもらうという手もあるが、ミーヤさんに見られるのはこの先冒険していく上であまり得策ではない気がする。


可能な限り、ウパがエルフであることを隠しておきたい。




「扉が見えてきましたよ」




先頭を歩くミーヤさんが言う。


見てみると、入ってきた所と同じ感じの扉がたしかにあった。




「ちょっと待って」




フレンさんがみんなを止める。




「ねぇ、この廊下の長さ、地図と合わないんだけど」




フレンさんが地図を開き指でなぞる。


歩いた距離から廊下の長さを考えると、別の廊下と交わるはずらしい。


ミーヤさんとゴルデさんも地図を凝視し、フレンさんが言っていることが正しそうであることを確認する。




「気味が悪いね」




ミーヤさんが顎に手を当てて考える。


その間、俺はトークレスでフレンさんに声をかえる。




(フレンさん、ウパが言うには急にマナが集まってきていて、なんか嫌な感じがするらしい)




(そうなの?ウパの特殊な感覚は当てになるから、迂闊なことはしない方がいいかな)




出口は目の前だというのに、しっかり危険を察知する。いや、出口が近いからこそかも。


とにかくまだ初日である。無理はせずに、報告のために戻るのもいいかもしれない。




「あの、せっかくだけど一旦戻りませんか?


フレンさんが書き間違えているとも思えないし、海底神殿の話とか聞いてみたら、何かわかるかもしれませんよ」




俺は考え中のミーヤさんにそう提案した。


それ聞いてミーヤさんは、手を顎から腰に移動し、今度は俺の意見について考え始める。




「…そうですね。ここはダンジョンですけど、誰も入ったことがない未開の地とも言えるので、無理は禁物かもしれません」




冷静にそう言った後、トントンと軽い足取りで俺に近づく。




「ハリネさん。冷静な判断ありがとうございます。本当に頼りになりますね」




プロの顔から一転、普通の調子がいい女の子になる。


ウパの袖を引く力が強くなったのは気のせいでありたい。




「ゴルデさんもそれでいいですか?」




コクリとゴルデさんが頷く。




「じゃあ、今日はこれで戻りましょう」




意見がまとまったところで振り返る。


そこで見た光景に、俺たちは驚愕した。




「あ、あれ?入口は…?」




けっこう歩いたが、扉が見えなくなるほど歩いた覚えはない。


にもかかわらず、廊下は遥かかなたまで伸びていて、暗闇に消えていく。




「タイプスペル:ソナー」




俺は再びソナーでこの廊下を確認する。


入る前は感じることができた反対側が、今は何も感じない。




「なにこれ?どうなっているの?」




ミーヤさんも茫然と暗闇を見ている。


ゴルデさんも動揺していて、少し声が漏れていた。




「罠か何か?でもこんなのって、魔法なの?」




フレンさんも冷静さがなくなってきている。




「ウパ、今は何か感じる?」




「マナが…私たちが通った所にすごい集まって、渦を巻いている。


集まり過ぎていて、恐い」




ウパはここから早く離れたいようで、腰が出口の方へ向いていた。




「あの、その子が言っていることって、どういうことですか?」




ミーヤさんがウパについて尋ねてきた。




「えと、ウパは生まれつきマナに敏感で、冒険で色々助けになっているんです」




「マナを感じているってことですか?その、エルフみたいですね」




しまった、馬鹿か俺は。


気が動転していて、いらんことをしゃべってしまった。




「とにかく、どっちも怪しすぎるけど、このままではいられないかな」




フレンさんが話題を逸らすように本題へ入った。




「二手に分かれて、無事戻れた方が助けを呼ぶとか?」




「おすすめはしないかな。ダンジョン内でパーティとはぐれるのは自殺に等しいと思った方がいい」




「でも、どうしましょうか?ハリネさん」




「お、俺?」




みんなが俺に注目する。




「いやいや、こういうのはフレンさんが決めた方が…」




「ううん、あなたが決めて」




フレンさんもそう言うとは、俺には意外だった。




「どうして?」




「根拠は無いけど、あなたってなんか運が良さそうなんだよね」




フレンさんがウインクしながら言った。


少し冷静さを欠いていたが、ちょっと持ち直してきたようだった。


根拠が無くても、そう言ってもらえると勇気が湧く。




『幸福な死』って、俺がいれば皆にも有効なのかな?


いや、当てにするのはまだ早いな。




「じゃあ、先へ進もう」




俺はそう決めた。


マナが濃い所は不吉。ホワイトドラゴンの巣でも普通にしていたウパがこんなに怯えているとなると尋常ではないということ。


別の道を探った方が、危険を避けられると考えた結果だった。




「そうですね。こんなの異常ですし、私たちのキャパを超えてます」




ミーヤさんも賛成してくれて、俺たちは出口へ向かい、扉を開けた。

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