第7話

「サフェトさん、昨日は災難でしたね」


「その災難を持ってきた本人に言われてもね」


「それはその……すみません」


 僕がエリナさんをちょっと睨むと、彼女は少しだけ申し訳なさそうに眉を下げた。まぁあれはいきなり過ぎたと自覚しているのだろう。


 しかしなんで僕を頼ったのか些か疑問なのだが。


「これが緊急クエストの報酬となります」


 そう言って渡された報酬が入った袋はかなりの大きさのものだった。どうやらかなり切羽詰まっていたようだね。


「そしてこれもどうぞ」


「ん?なにこの紙切れ」


「紙切れって……それはノティス家からです。何でもお礼がしたいと」


「……はぁ」


 やっぱり受けるんじゃなかったなぁ……。

 軽くその紙切れに書いてあるのを読むと、やはりというべきか、屋敷で是非お礼がしたいとのことだった。


 ノティス家は国の南側を守護しているだけあって常に戦力を欲している。目をつけられただろうなぁ……めんどくさいなぁ。


「何で嫌そうな顔してるんですか?」


「……まぁ出世したいなんて思ったことないし」


 一度それ紛いのことしたことあるし。姉さんと一緒に。


「まぁ、行かなきゃ死ぬからね。文字通り。だから行くよ。怠いけど。本当に怠いけど」


「……そこまで嫌なんですか?もう勝ち組じゃないですか」


「人にとってはそうだけどね。あ、そうだ。これ他の人に頼んで──」


「それこそ死罪確定じゃないですか。諦めてください」


「……はぁ」


「いいように考えればいいじゃないですか。美味しいものが食べれる、とか」


「緊張で味しなさそうだけどね」


 貴族との会食はしたことあるけど……あの時は全ての好奇の目が姉さんに向いていたからなぁ。姉さんには申し訳なかったけど、特にストレスなく食べれた。


 でも今回のは違う。完全に僕の方に向くからそれの対処に追われ、ストレスで胃がキリキリと鳴り、食事を楽しめないだろう。


「嫌だなぁ……」


「……もう諦めてください。クエスト持ってきた私が言うことではないのですが」


「ほんとだよ」


「そ、その代わり今度何か奢りますから!」


「「「っ!?」」」


 その彼女の言葉にギルド内がザワっとした。


 彼女は言ってはなんだが、人気はある。人気だけある。小動物感が凄いのだ、彼女は。


 身長は男性の中ではまぁまぁ高い方である僕の胸あたりの身長で、女性としては高い方ではあると思う。が、彼女の醸し出す雰囲気がなんと言うか、緩いのだ。


 そして彼女の顔は可愛い系な感じで人当たりが良さそうな印象を持っている。その上出るところは出て引っ込んでいるところは引っ込んでいるので、男子ウケもいい。


 知り合いの冒険者曰く、“理想の女性No. 1”だそうだ。どうでもいいが。


「む。なんかよくないこと考えてますね?」


「……」


 今日僕は彼女に優しくできる自信がないからね……しょうがない。まぁ諦めて欲しい。


「とにかく!どうですか?今度」


「……まぁ、考えとくよ」


 濁しとこ……めんどくさいなんて言えないからね。



 それから一言二言世間話をしてから僕はようやく帰ることができた。正直あの人グイグイ来るからあんまり得意ではない。これは本人には言えないことだ。ここに来たばかりの僕を助けてくれたから恩人ではあるが……。


 帰る途中にいつもの焼き鳥屋に行こうとしたが、そう言えば残りがあったなと思い、バックの中から焼き鳥を取り出そうとして……気づいた。


「あ、そう言えば……」


 昨日、ルイナ様が起きた時にお腹が空いたとのことであげたんだった……。買いに行こう。


「いつもの二本、お願い」


「あいよ。にしても、ほぼ毎日来るじゃねえか。ちったあ別のとこ行ったらどうだい?」


「いいよ。ここが気に入ったんだから。それに今更変えると言っても僕の口に合うかどうかわからないしね。美味い不味いは別としてさ」


「ジジイみたいなこと言うじゃねえか。ん?ジジイはそんなこと言わねぇか?まあいいわ。ほい、いつものやつな」


 そう言って焼き鳥が入った紙袋を貰った僕はいつものようにお金を払ってから泊っている宿に向かったのだった。




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