第6話

 即座にそう判断した僕はまず最初に防御シールドを消した。


「あぁ?」


 そんな僕に訝しげな表情を見せる彼らに対し、僕は突然生まれてきたあのスキルを使うことにした。


 本当は二度と使うもんかと思っていたものだが、どうやら僕は前と比べて我慢できなくなっているようだ。


 彼女の顔は僕の姉さんの幼少期にそっくりだった。姉さんは死んでいるので姉さんではないと言うのはわかっているのだが、それでも、胸の奥底から湧き上がる怒りを、抑えられそうになかった。


 まるで、奴らが姉さんを傷つけたように思ったのだ。それだけは許せなかった。姉さんを守れなかった僕が何を言っても意味がないが、それでも、許せなかったのだ。あの時みたいに、姉さんを守れなかったあの時みたいな後悔は、もう二度と──しない。


 その為に……これを使うしかない。





「──反転インバース





 そう僕がその言葉を唱えた瞬間、魔力の奔流が僕の周りで巻き起こった。僕にあった魔力がごっそりとなくなっていくのを感じるが、それと同時に前とは違って新たな人格が芽生え始めているのが分かった。


 しかし二重人格はあまりもう一つの人格があると言う風に認識しないと思っていたのだが……これは反転インバースが生み出している、と言うことでいいのだろうか。


 前に生まれかけたがそれでも完成し切れなかった人格を今ここで作り上げると言うことだろうか。


 盗賊どもが今の僕を襲おうとするが、魔力の渦がそれを邪魔していた。大人しく見ていろということだろう。


 そして僕とはまた別の思考が──となって誕生した。



 初めは奇妙な感覚だった……本当に俺が生まれるなんて思っていなかったからだ。だが、手を動かし、足を動かし、目を動かし、思考を動かせば……俺はこの地で生まれたのだと、はっきりと分かった。


 そして──ため息を吐いた。


 




「──結局、そうだったんだよなぁ」






 俺は静かに胸を焦がすこの怒りを吐き出すため、右手で胸を


「「「っ!?」」」


「ヒャヒャッ!」


 思わず変な笑い方をしてしまったが仕方あるまい。それほどまでに面白いと感じてしまったからだ。


 というか、人格が変わったんだぁ、スキル──どころか、アビリティも変わってんだろぉなぁ!


 そう考えた時、貫いていた胸から炎が溢れ出した。それは綺麗な赤い炎、というわけではなく、ところどころ紫が混じった、なんとも薄気味悪い炎だった。


 それと同時に俺ははっきりと認識する。新たに生まれたアビリティの存在に。



「これが──新たなアビリティかぁ……燃える者ディザスター



 怒りに燃える俺にはぴったりのアビリティだな。守るべきものはいなくなったんだから、あとは全てを壊すだけ。


 この俺は、今まで我慢してきた姐さんに対する申し訳なさと自分に対する怒りが、反転インバースによって露呈し、それが限界となって生まれた人格なんだろう。差し詰め、裏サフェト──メフィスとでも名乗ろうか。


「いいねぇいいねぇいいねぇ!獲物が俺の目の前にあらぁ!こんなもの、楽しまなきゃ損ってやつだよなぁ!」


「殺せ!」


「「「おおおお!!」」」


 そして貫いたままだった右手を、俺は引き抜いた。その手には一本のが握られていた。



「──スキル、煤け太刀」



 あの時の、錆びて煤けたままの太刀がそこはあった。しかしそれには俺の血と、そして炎が帯びてあった。


 俺はそれを思いのまま、一気に薙ぎ払った。


「がはっ!?」


「なっ!?」


「ぐはっ!?」


 炎の斬撃が奴らを襲いかかり、目の前にいた3人はすぐに死んでしまった。脆いなぁ。


「弱い弱い弱い!だが、楽しい!」


 今はこの戦いに身も心も、何もかもを投じよう。

 この怒りが晴れるまで。








「ふぅ……」


「な、なんなんだ、お前は……この強さ、普通じゃ、ない」


「へっ。んなもん知るかよ。んじゃ、反転インバース


 その言葉と同時に俺はスッと下がり──が上がってきた。瞬間襲いかかってきた体の怠さになんとか耐える。


 にしても、まさか新たな人格が芽生えるなんて思っても見なかった。このスキルについてよく知らないところがあったから、この際知れてよかったけれども。


 これは二度と使っちゃダメだと、再認識した。


「さて」


 僕は彼女が捉えられているであろう牢屋の目の前まで来る。中を覗くとそこには意識を失って倒れている、ボロボロの少女の姿があった。


防御シールド


 僕は鉄棒を防御シールドで押し込み、無理矢理壊した。その時大きな音がしたのだが……それでも彼女が起きることはなかった。


 緊張の糸が切れたのだろう。


「もういいや」


 僕は重い体をなんとか動かして彼女を持ち上げると、洞窟の出口に向かって歩き出そうとした。その時だった。



「んん……ん?」



 少女が僕の腕の中で何やらモゾモゾと動き始めた。そしてゆっくりと目を開け──僕の顔を見て固まってしまった。



「……」


「……」


「……」


「ルイナ様?どうされました?あ、僕は一応あなた様を助けに来たものですよ?」


「あ、はいぃぃ……」


「?」


 それから硬直した後に混乱し始めた彼女を沈める方が時間がかかってしまったのは……ある意味しょうがないと割り切るしかなかった。




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