第36話 聖女様と初詣
瀬戸さん邸を出た俺たちが近くの神社に到着するとやはりと言うべきかそこは人で溢れかえっていた。
「ずいぶん多いですね」
「まぁ、参拝自体はすぐにできると思うから大丈夫だと思うよ」
だがそれにしたって人が多い。この人混みの中を振袖、出歩くのは少し大変そうだな。
瀬戸さんをチラリと見てみるとやはりその顔には疲れの色が見えた。
「大丈夫、瀬戸さん」
「すみません、ちょっと歩きづらくて」
「じゃあこうした方がいいかな」
俺は瀬戸さんの細く白い手を優しく握った。
すると彼女からひゃっと驚いたような声が聞こえてきた。
(……いきなり手を握るのは不味かったか……)
「ごめん」
俺が彼女の手を離そうとすると彼女が俺の手を強く握り返した。
彼女の方を見ると優しい微笑みを浮かべた。
「すみません、少し驚いてしまっただけです。気遣ってくれてありがとうございます。」
俺は内心かなりホッとした。彼女に嫌われたら俺は立ち直れる自信がない。
「和馬さん達に追いつかないとね」
「ええ、エスコートよろしくお願いします、月城くん。」
「お任せください、聖女様。」
俺達は互いにしっかりと手を握り合いながら進んだ。
◇
その後無事和馬さん達と合流した俺たちは無事に参拝を終えることができた。
「月城くんは何か願い事しましたか?」
「うん、今年も瀬戸さんと楽しく過ごせますようにってね」
今年も去年みたいに瀬戸さんとゆったり幸せな日々を過ごしていきたい。
これ以上は何も望まない。
それだけが俺の最大の願いだ。
「月城くんは本人を前に中々恥ずかしいことを言ってくれますね」
「実際去年はすごく楽しかったから。瀬戸さんはどんな願いをしたの?」
「今年も何の災いもなく、月城くんと楽しく過ごして行きたいです」
「……同じだね」
「同じですね」
俺たちは互いの顔を見つめ合い互いに微笑んだ。
俺も彼女も願いが一致したことが嬉しかったのだ。
「同じ願い事で嬉しいよ」
「ふふ、私もです」
そんな些細なやり取りを楽しんでいると和馬さんたちが出店に並んでいた。
並んでいるのは唐揚げの屋台らしくここからでも香ばしい匂いが漂ってきている。
「買うんですか?」
「ああ、美味しそうだったからね。二人も食べるかい?」
「じゃあ、私シンプルに塩で」
「俺はバーベキュー味で」
「わかった」
数分後唐揚げが入ったカップを手にした和馬さんがやってきて俺たちにそれぞれの味のカップを渡してくれた。
その後和馬さんは由紀さんのところは行き夫婦睦まじく一緒に唐揚げを食べていた。
唐揚げはカラッとしっかり上がっていて、バーベキューの風味が美味しかった。
「おいしい」
「すごくおいしいです! 月城くんのも一つ分けてくれませんか?」
「いいよ……って瀬戸さん?」
「あーんしてください」
彼女は無言で目を閉じ口を開け待っていた。
なんかキス待ちみたいだな……。
そんなことを思いつつ彼女の口に唐揚げをこの運んだ。
「ん〜! 美味しいです!」
もうこの流れにもだいぶ慣れてきた。恐らくことあとは彼女のターンだ。
「では月城くん、お返しにどうぞ。」
「ありがとう……うん、おいしいね」
王道の塩唐揚げは中はジューシー、外はカリッとしていてとても美味しい。
だが相変わらず瀬戸さんはからのあーんは慣れないな……まだ少し顔が赤くなってしまう。
「なんだか私たち注目されてますね」
「どちらかと言うと瀬戸さんが目立ってるんだよ」
行きの時もそうだったがやはり振袖を着た彼女は目立つ。
すれ違う人皆が彼女の存在に目を惹かれ、見惚れる。それは男子のみならず女子もだった。
「やはり、この振袖が目立つんでしょうか」
「まぁ、瀬戸さんの姿を見て見惚れなかったららその人の目はかなり節穴だと思うよ」
黒髪清楚な美少女が振袖を着ているんだ。目立たないわけがない。
「ふふ、ありがとうございます。」
「当然俺もめっちゃ見惚れてるよ」
「そうですね、振袖は未婚の女性だけが着れる特別な装束。私もいつか着れなくなるんでしょうか……」
「……そうかもね」
「一体どんな人なんでしょうね?」
瀬戸さんが何故か嬉しそうにこちらに聞いてくる。
瀬戸さんの結婚相手か……まぁめちゃくちゃイケメンなんだろうな。そいつが羨ましい。
「その人は世界一幸せな人だね」
「そうですか、なら良かったです。」
瀬戸さんは満足そうに微笑んだ。
「じゃあ今の月城くんも私といて世界一幸せですか?」
「間違いない、今俺は世界一の幸せ者だ。」
「ふふ、そう言ってもらえて嬉しいです」
そんなふうに彼女と話していると和馬さんがこちらに向かってきた。
「イチャイチャは終わったかな?」
「べ、別にイチャついてなんかませんよ!」
「そ、そうですよお父様!」
「ふふ、本当に君たちはお似合いだね。そろそろ我が家に帰るからついてきてくれ」
そう言って和馬さんは由紀さんの元へ戻って行った。
瀬戸さんは少し歩いて俺の前までくると俺に手を差し出した。
「さ、行きましょう月城くん。」
「うん、行こう瀬戸さん。」
俺はしっかりと彼女の手を握った。
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