拝啓、大いなる大地へ

予感

　とある少女は校門の下で胸を高鳴らせていた。今日から始まる新しい学校生活に。

　ここは、様々な国から優秀な生徒が集まるという名門、ワイズアール学校である。

「う～～！今日からここがあたしの学び舎なのね！…うん、楽しみっ！」

「なーに1人で喋ってんだよ。物語の主人公か？」

　彼女の隣にいた幼馴染がツッコミをいれる。

　まったく、いつも水を差してくれる、と呆れた目を向ける少女。

「なによ～いいじゃない別に。あんたは楽しみじゃないの？」

「はあ？そんなの………楽しみに決まってんだろっ！」

「あっ！ちょ、待ちなさいよっ！」

　2人は足取り軽く、春の爽やかな風と共に門をくぐっていった。

　教室は新しい雰囲気で包まれていた。

　隣の席で挨拶を交わしたり、馴染みの友人と話したり、ひとりでソワソワしたり…。

　すると教室のドアがガラッと開き、女性が現れた。

　生徒たちは自分の席に着いた。

　全員が席に着くのを確認するとその女性は口を開いた。

「皆さん、ご入学おめでとうございます。はじめまして、このクラスの担任のエミーです。これから1年間よろしくお願いします。」

　エミーは綺麗めの若い女性だ。しかし芯があり生徒から舐められない雰囲気を纏っており、頼れる先生といったところだ。

「ここに入学したということは数ある試練を乗り越えてきたということです。そこは誇りに思ってください。しかし皆さんはこれからが本番です。この学校には優れた先生方が沢山いらっしゃいます。学びそして遊び、これからの学校生活を是非有意義に過ごしてくださいね。」

　エミーはそう言い終わると、ふっと微笑んだ。この微笑みで何人の男子生徒が堕ちたことだろう。女子でさえ目を奪われる美しさである。

　担任の挨拶が終わり、教室中に拍手が沸いた。

「さて、今度は皆さんの自己紹介の番です。端から順番に…というのもつまらないので、ここは皆さんの自主性に任せて自己紹介をしたい人からやりましょう！」

　エミーの唐突の提案に教室がざわめいた。

「さあ、誰からやりますか？」

　皆が顔を見合わせながら様子を伺っていると、1人の少女が手を挙げた。

「はーい！じゃああたしからやりまーす！」

　視線が一気に彼女の方に向けられる。そんな視線の圧をものともせず、張った胸に手を当てて彼女は自己紹介を始めた。

「あたしの名前はリオ。家は鍛冶屋やってんの。なんか作ってほしい物とかあったらうちに来てね～、なんてっ。これから1年間よろしくね！」

　シュシュで右に束ねたくせっ毛の髪を揺らし、少し吊り上がった健康的な瞳で彼女は教室を見回しながら自己紹介をした。そして彼女の自己紹介に拍手が沸いた。

　一方でざわめきも起こった。なぜならリオは首席で入学し、入学式で新入生代表の挨拶をしていたからだ。

　拍手がひと通り済みかけたころ、1人の男子生徒が立ち上がった。

「よしっ。次俺な。俺はウィルだ！試験でも自己紹介でもこいつの後になっちまったが、すぐにでもこいつを抜いて俺が頂点に立つ。紙の方も実践の方もな！ってことで、これからみんなと頑張っていていきてぇ。よろしくな！」

　再び拍手が起こった。「よろしく！」「こちらこそ～！」など教室中からのレスポンスも沸いた。

　そして2人の自己紹介に引っ張られるように次々と自己紹介が行われた。自分の夢を語る者、入学した動機を語る者、一発芸をかます者もいた。

「さて、これでひと通り自己紹介が終わったと思うけれど…」

　エミーはそう言いながらある1人の生徒に向かって歩き出した。生徒全員の視線がエミーを追う。そしてエミーは窓際のいちばん後ろの席の前に立ち止まりしゃがんだ。

「貴女のこと、教えてくれるかしら？」

　そっとささやく先には、少し焦りながら俯く少女がいた。

「あ、はいっ。大丈夫です。します、自己紹介…。」

　そう言うと少女はゆっくりと立ち上がり深呼吸をした。

　誰もが目線を向ける中、少女は意を決したようにまっすぐ前を見据えた。その大きな瞳は碧く深く宝石のような煌めきを持ち、教室中の者を虜にした。しかし少女は視線の圧に怯えてしまったのか、再び俯いてしまった。

「わ、わたしはラムです。えと、特にこれといったことはないんですけど……よ、よろしくお願いします。」

　そう言い、ぺこっとお辞儀をした。

　一瞬の間を置き、拍手が起こった。教室の皆は笑顔で迎えていた。ちらりと顔を上げその光景を見たラムはほっと胸を撫でおろし席に着いた。

「ありがとうございます、ラムさん。」

　エミーは微笑み立ち上がった。そして教卓に戻り続きを話し始めた。

「それでは、皆さんの自己紹介も終わったことですし、これから授業の受け方や行事などについて話そうと思ったのですが…」

　そこで白々しく話をいったん止めると教室は静まり、皆が次の言葉に耳を傾けた。

「そういったものはこれから慣れて覚えていくでしょうし、今日は少し子供っぽいかもしれませんが『学校探検』に行きましょう！」

　教室中にざわめきと歓喜の声が上がった。

　クラス全員が教室の外に出てしばらく歩いていると、他のクラスもぞろぞろと同じように行動していた。どうやら『学校探検』はリオたちのクラスだけではなく、予定されていたことらしい。

　新入生は他のクラスと被ることのないよう進んで行き、校内の設備や先輩達の授業の様子、学食や闘技場まで校内の隅々を見て回った。生徒達はその場所ごとにそれぞれ感想を言い合っていた。

　闘技場に案内された時は皆がザワザワと話していた。リオとウィルもこんな会話をしていた。

「おっ、ここから闘技場に出るのか！」

「確か学内でも毎年“魔法技能大会”ってのをやるのよね。」

「そうだな。あ、そういえばこの大会で優勝した奴はすっっごい景品が貰えるって噂聞いたぜ。」

「マジ⁈……って、なによその胡散臭い噂。」

「え、これ、嘘なのか…？」

「さぁね。」

「さぁね…って。お前な…。」

　闘技場はこの学校の中でも一際メインの建物であった。というのも、この闘技場は学校だけでなく街のイベントでも使用されており、街の中でも主要な建物となっている。

　このワイズアール学校がある街に住む生徒たちの半数は、幼い頃から親に連れられ何回か闘技場に来たことがある。この街に住むリオとウィルも例外ではなかった。

「ま、なんにせよ今年の大会は俺が優勝だけどな。」

「は？？何言ってんの。間違えてもあんたじゃない。てゆうか、先輩たちの方が強いに決まってんでしょ。あんたじゃ優勝はムリ。」

「おい、ムリって決めつけんな！ぜってー俺が勝つ！！」

「はいはいがんばれ〜。」

「へっ。先輩に勝てないって考えてるお前にはヨユーで勝てそうだな〜♪」

「…………は？」

　二人は昔から互いに負けず嫌いであり、そのためにどんどんと力をつけて、この学校の入学試験を1位と2位で通過している実力者だ。

「ふんっ。言ってなさい。今に後悔させてあげるから！」

　リオはそう言い放ち、ウィルを指差しぐいっと近づいた。

「うおっ！？」

　ドンっ

　ウィルがのけぞった拍子に後ろにいた人に軽くぶつかった。

「おっと。ごめんな！大丈夫か？」

　ウィルが振り向くと、そこには綺麗な黒髪の小さな女子がいた。いちばん最後に自己紹介をしていたラムだ。

　リオもラムに気づき、謝罪をした。

「あ！えーっと、ラムちゃん！ごめんね、痛くなかった？こいつの体、無駄に頑丈だからさ。」

「おい、“無駄に”ってなんだ。」

　ラムは軽く愛想笑いをしながら

「あ、大丈夫です。気にしないでください。」

　と言った。

　自己紹介の時からラムのことが気になっていたリオは良い機会だと思い、続けて会話をし始めた。

「ねね、ラムちゃんのこと聞いてもいい？自己紹介じゃ特に何も話してなかったし…？」

　リオはラムの返事を待たず続ける。

「ね、ラムちゃんはどこ出身？なんとなくこの街の子じゃないって雰囲気はあるけど…。」

「え、えっと、あー…はい。こ、この街ではないです。」

「そっか〜！あたしんちあんま旅行とか行かないからさ、この街周辺以外よく知らないんだよね〜。どこなの？今度行ってみたい！」

　リオは持ち前の明るさとコミュ力でずいずいとラムに迫る。

「あ…。えっと、全然こことはちがくて。…い、田舎の方…です。」

　さっきまでリオの方を向いて話を聞いていたラムが目線を逸らしながらそう答え、俯いた。

「…そっかそっか！田舎ね〜行きたいなぁ〜。自然が豊かなんだろうし、美味しい空気吸いたいわあ！」

　ラムの態度を見てリオはふと、ラムがこの話題を嫌がっているのだと感じた。なので次は違う話題にしようと思ったその時、闘技場の滞在時間が終わり次の場所へ移動することになったので、リオは歩きながらラムと会話することにした。

　ラムは小さく、歩幅も狭いためリオはラムに合わせて歩いた。

「あ、そういえばあたしのこと話してなかったね。まあさっきの自己紹介で話したけど、改めて…。」

　ラムはリオを見つめ耳を傾けた。

「あたしはリオ。生まれも育ちもずっとここ。なかでも職人が集まる場所に住んでるの。うち、きょうだいが多くてさ～…ま、賑やかで飽きないんだけどねっ。」

　そういってはにかむリオにつられてラムも思わず微笑んだ。

「ラムちゃんは兄弟姉妹っている？」

「あ、はい。兄と姉が1人ずつ。」

「ラムちゃん妹なんだね～！いーなー、あたしもお姉ちゃんとかほしかったなあ…！あたしいちばん上だからさ、まだあんま大きくない弟妹もいるからさ、色々頼まれんのよ。」

「色々…？」

「そ。うち鍛冶屋でお母さんも事務仕事で手伝ってるから私が面倒見る時もあるし、あとは勉強見てあげたり喧嘩止めたり…ま、辛くはないんだけどさー。………？」

　と、リオがふと見たラムの顔にはどこか寂しさを含んだかのような微笑みがあった。

「…？どうかしましたか、リオさん？」

　リオが何も言わず固まっているので不思議に思ったラムが呼びかけた。

　今のは見間違いだろうか。少し不思議な雰囲気を纏った彼女だからそう感じ取れたのだろうか。とにかく返事をしなければラムに余計な気をかけてしまう。

「あー、いや、なんでもないよ！」

「そう、ですか…？」

　リオはしばらくラムのあの微笑みを忘れることはできなかった。

　この日は新入生は学校が午前中で終わった。お昼は学食に行ったり中庭で食べたりと、まだ慣れない校内を各々楽しんでいた。

　ラムは寮生なので寮に帰ってお昼を食べようかと考えていた時、リオが現れた。

「ね、ラムちゃんお昼どうするの？もしノープランならあたしと学食行かない？」

　と、得意のウインクをしながらお昼に誘うリオ。まさか誘ってもらうなんて、ラムは考えもしなかった。社交的ではない、しかも自己紹介も最後まで残ってしまった自分は、1人もお昼に誘えず寂しく寮の食堂でご飯を食べるのだろうと思っていたのでとても嬉しかった。

「は、はい！ぜひ！……あっ。」

　思わず大きな声が出てしまったラムは口に手をあてた。2人は目を見合わせて笑った。

「ははっ良かった！じゃあこっち！」

　と、手を差し出すリオ。さっきのあの微笑みが離れず、ついラムをご飯に誘った。それにラムが一人でもの寂しそうにしているのを見ていられなかったのだ。

「あ、はい…！」

　ラムは差し出された手に恐る恐る触れた。するとグイッと引っ張られたものだから、転びそうになった。

　昼ご飯を食べ終え、ラムの寮まで送る道すがらリオは尋ねた。

「あのさ、ラムちゃんさえ良ければ今後も一緒にお昼食べたいなって思ってるんだけど…いいかな？」

　リオは覗き込む。

「あっ、はい！もちろんです！」

　と、ラムが嬉しそうに承諾したのでリオはほっとした。

　リオの中にはもうあの時見せたラムの顔が忘れられないというだけではなかった。ラムの魅力に不思議と惹きつけられていた。

「よかったあ！これからよろしくねっ！」

「……！」

　満面の笑みを浮かべるリオに、これからの学校生活が素晴らしいものになるだろうとラムは密かに期待を寄せた。

　ラムは「これから」という言葉に、リオの言った“お昼ご飯を一緒に食べる”だけではなく、学校生活やそれ以外のことも共にする仲になるという予感を感じた。

　出会って僅かな二人だが、不思議と波長が合った。

「はいっ！」

　ラムの瞳は煌めいていた。

────────────

　その日の夜のことである。

　夕飯やお風呂を済ませたラムは寮の自室に戻り新品のノートを広げていた。

「たっだいま〜…って、おーラムちゃんじゃないか〜。おかえり〜♪」

「あ、えと、ジーナさんも、おかえりなさいです。」

　意気揚々と風呂上がりの格好で部屋に帰ってきたのはルームメイトのジーナだ。

　ジーナは2年生で、どうやら友人と夕飯やお風呂を共にしていたらしい。交友関係が広いようで、寮内で色々な人から声をかけられるジーナを見てラムは毎度驚く。

　そんなジーナは、ラムがノートに向かって何やら思いを巡らせているのが気になった。

「なーにしてんの？勉強？熱心じゃのぉ〜。」

「あ、いえ、違くて…。日記を、書こうかなって…。」

「日記…？」

　確かに日記を付けると日々の内省を出来るし見返すことができるので良い、みたいなことは聞いたことがあるが、何せジーナはそこまでマメじゃない。書こうと思ったが一日で終わった。

「はい。なんだか、今日のこと、それにこれからのことも、書いた方が良いような気がして…。ふしぎですよね、誰に言われたわけでもないのに…ふふっ。」

「え〜〜んめっちゃ偉いんですけど？！私なんて書こうともしないよ？！もーーヨシヨシしちゃうっ！！」

「わっ！…あ、あの、えっと。……えへへ。」

　いきなりもしゃもしゃにされ驚いたラムだが、なんだか心がほっこりして思わず笑みが溢れた。

「かわいいよっ！ラムちゃんっ！！」

「えぇ…？！」

　されるがままになっているラムはいつの間にか愛でられていた。

　そうして暫くラムをもしゃもしゃしていたジーナであったが、もしゃもしゃに満足したのかラムから離れた。

「はあ～、満足じゃあ～………っは！！ごめん！私ってば我をも忘れてラムちゃんになんてことを…！！」

　ジーナは自分のしたことを猛反省した。後悔はしていない。

「だ、大丈夫です。なんだか、嬉しかったので…。」

「うぇあ…っ！！そんなこと言われたら…もっともふもふしちゃうでしょうがっ！！うっ、うおおぉぉ……」

　かわいいラムの言葉に、ジーナはさらにもしゃもしゃしたい衝動に駆られた。が、流石に我慢した。

「……よしっ。我慢したぞ私。偉いぞ私。不用意に触るな私……。」

　自分で自分を褒めたところで、ジーナは気がつく。

「あ、そういえば私友達に部屋呼ばれてんだったわ。じゃ！また！」

「え、あ、そうなんですね…？」

　「いってらっしゃいです。」と言う前にはもうジーナの姿は無かった。

　なんだか、嵐のような人だなあと思うラムは、この行為がジーナなりの気遣いだとは思わなかった。

　特別狭くもないがかといって広いわけでもない寮の部屋は人の机を覗き込もうと思えば覗き込める広さであり、さらにジーナは先輩である自分がそばに居るとラムが変に気を遣ってしまい落ち着いて日記を書けないのではないかと思ったのだ。

　何はともあれ、静まった部屋でラムは再びまっさらなノートと向き合う。

　書くことは決まっている。今日起こったこと、自己紹介のことやクラスのこと、みんなで学校を見て回ったこと、そしてそこで出会ったリオのこと。一緒に食べたご飯が美味しかったこと。なんだかこれからの学校生活が今までにない素敵なものになりそうなこと。

　田舎で育ったラムにとってこの街は何もかもが新鮮だった。まだ知らない場所も沢山ある。

　そういう場所も、これから見て回れるよね。そんなことも書き綴った。

　不安ももちろんある。今まで住んでいた場所から離れて過ごすのは怖い。特にラムの家はすぐに帰れる場所には無い。

　けれどせっかくこの学校に来たのだから、今までの自分ではいられない。それにこの環境が何か変えてくれる気がしている。

　しばらく夢中で日記を書いていたラムはひと通り書き終わると、ふうっと息を吐いた。

　新しいノートに初めて文字を書くわくわく感。けれど書いているうちにだんだんと慣れてきて肩の力が抜けてくるあの感覚。

「わたしも、こんな感じで慣れていけるかな…。」

　そうつぶやき、ぱたんとノートを閉じた。

　時計の針はもうすぐ9時を指す。まだ寝るには少し早いと感じたラムは、お茶を入れることにした。

　他の生徒の部屋に出入りできる時間は夜9時までと寮の規則で決まっている。もうすぐジーナも帰ってくるだろうと思い、ジーナの分も用意する。

　明日からは授業も始まる。お茶を飲んでジーナと少し話したらもう寝てしまってもいいかもしれない。

　なんて思っているうちにお湯が沸いたのでポットに茶葉を入れお湯を注いだ。数分経ち、自分のカップとジーナのカップに出来上がったお茶を注いでいく。

　ちらりと時計を見ると既に21時を過ぎていた。

　遅いなと感じながら、自分の分を一口飲んだ。

　温かいお茶が喉を通り胃に染み渡る。

　カップの半分を飲んだ頃には身体がポカポカし始め、なんだか眠くなってきたラム。

　申し訳ないと思いながらも、ジーナの分にはソーサーで蓋をし、近くにメモを置くことにした。

　お茶を全て飲み終えたラムは机のランプを消し、布団をかぶった。暗くなった部屋は簡単にラムを睡眠へ誘った。

　あたたかい気持ちで、ラムは眠りについた。

「ただいま〜…ってあれ。もう部屋が暗い。」

　ラムが眠りについた10分後、ジーナが帰ってきた。

「今日は疲れて寝ちゃったか。ま、そうだよね。」

　小さく上下する布団を眺め、ジーナは微笑ましく思った。

　ふと机に目を向けると、ソーサーで蓋がしてあるカップが置いてあった。そしてその隣には綺麗な字で『お茶を入れました。冷めてしまったらごめんなさい。』と書かれたメモが置いてあった。

「ふふっ。ごめんなさい、ね。大丈夫だよ。」

　そう小さく呟き、杖を取り出すジーナ。

　すると冷めたカップに向け、杖をひと振りした。そしてソーサーを退けると、カップからは湯気が出てきた。

「冷めたお茶を温め直すくらい、造作もないよん。…というか、私のために淹れてくれたのマジ尊いっ………！！」

　ラムが淹れてくれた優しさを噛み締めながら、温まったお茶を飲む。

　窓の外に目を向けると、よく晴れて澄んだ夜空があった。

「そういえば今日は新月だったっけ。」

　ジーナは再びラムの方を向き暫く見つめたのち、残りのお茶を飲み干した。

「さーーてっ、私も頑張りますかっと！」

　ラムを起こさない声量で、自分に言い聞かせた。そしてベッドに入り、眠りについた。

　こうして、ラムの学校初日は幕を閉じた。