第29話 タキオン通信及び超銀河統一思考言語

 星暦150年。

 人類は初めて地球外知的生命体と接触した。

 無人機同士で行われた。

 お互いに高度な科学技術を有していたがゆえに、意思疎通は難なく行われた。

 そして一つの問題が発覚した。

 天の川銀河には、すでに半ば銀河を統一している侵略国家が存在しており、地球人類が初めて接触した地球外文明はその攻撃を受けていたのだ。


 これを受けて真夜星は、初めてであった地球外生命体である彼らの援護を決定した。

 表向きは人道的――この人という言葉も時代遅れになりつつある。なぜなら接触した地球外生命体はタコ型だったからだ――配慮から。

 裏向きは銀河の実権を今は亡き少女に嫌われないように握るためには、侵略国家という敵がいたほうが何かと都合がいいからだ。

 敵がいることによって、自分たちは常に救援に来た正義の味方という立ち位置を確保できる。

 敵に人類の注意を向けることによって、不満を反らすことができる。

 

 真夜星は銀河を半ば支配している侵略国家相手に戦争を行うことを決定した。

 

 そして――。



 □



 太平暦元年、一月一日


「歴史的瞬間です!! 新生銀河皇国と銀河共和連邦が今、互いに手を取り合い、共に歩き始めるのです!!」


 真夜星は勝った。

 彼を超える天災めいた天才は銀河にすらいなかった。

 彼の発明は、人類と侵略国家に虐げられた種族たちに繁栄と勝利をもたらし続けた。

 彼の知略は、ことごとく侵略国家を打ち負かし続けた。

 千年に及んだ銀河全体を巻き込んだ大戦は、真夜星が侵略国家内部に侵入してばら撒いた革命の種が芽吹き、大輪の花を咲かせ侵略国家――銀河統一帝国という名前だった――の解体という終着点にたどり着いた。

 

 そして真夜星はもっと罰を与えるべきだという共和連邦――地球人類を旗印にした共同体――内部の各種族を、自らの権力と功績で説得し、銀河皇国――統一帝国の革命後の名前――内部に張り巡らした人脈を活用して、この場を設けた。


 真夜星は、今や銀河そのものを平和に導いた、史上初の個人として比類なき名声と権力を手にしていた。


 しかしそんな彼が望むことはたった一つだ。


「皆様、お集まりいただきありがとうございます。今回こうして知的生物の平和を推し進めることができたのはひとえに皆様のおかげでございます。そんな皆様に私から二つ、プレゼントがございます」


 真夜星は新生銀河皇国の皇太子を座らせ、一人舞台に立つ。

 今や彼一人に、銀河中の、二兆七千億の知的生物の意識が集中していた。


「まず一つ目は、タキオン通信ネットワークでございます。皆さんにとってプラ『ネット』はなじみ深いでしょう。電波通信や光ファイバーによる惑星規模のネットワークです。というか当たり前のことですよね? これの無い時代とか棍棒振り回していた頃と大差ないだろうという方もいらっしゃいますでしょう。私も、ぎりぎりその一人です」


 ちなみに真夜星は肉体の老化を完全に停止させていた。あらゆる知的生命体は老化という軛から解き放たれ、生に飽きたら安楽死できるようになっているが、ここまで長生きしているのは真夜星ぐらいの物だった(寿命を延ばそうとすればするほど、薬が高額になるという理由も否めないが)。

 

「しかしそのプラネットワークは、所詮どこまで行っても惑星規模、頑張っても恒星系を一つ覆うのが限度です。そこで開発されたのがブラディオン通信。しかしこれはあくまで軍用かつ、データ量が著しく制限されているために、生存可能惑星系を繋げることはあまりできません」


 ここまで言えば基本的のその場にいる全ての知的生物が理解した。

 彼が何を作り出したのか。


「そこで私が作り出したのが今現在使用している、タキオン通信ネットワークでございます。皆さん、この映像はライブ配信なんですよ?」


 銀河中が驚愕した。

 どんな僻地まで届く彼の御姿に。その声に。それら全てが生であることに。

 

「分かりますか? 皆さん。今銀河は一つになっているのです。そしてこのネットワークは一般にも開放されます。銀河中の知的生物が、様々な情報を発信できるのです! 世界は今ここに、真の意味で一つになったのです!!」


 銀河が、否、世界が熱狂する。

 

「最高の未来が見えるでしょう? 推しの配信はリアルタイムで見れるし、スパチャも投げれます。どこかで宇宙災害が起きれば、即座に支援金が超光速粒子の海を通して飛んでくるのです。世界はもっと良くなるでしょう」


 しかし、と彼は言った。


「ここで一つ問題があります。我々の言語が統一されていないということです。私の生まれた時代は、一つの惑星に様々な文字がありました。そしてその文字たちが多種多様な文学を生んだ。だから文字を安易に統一させるような真似をしたくない。だって他惑星の文章を読み解くときって何か気分が高揚しませんか? 私はなるんですけど」


 話がそれましたね、と言って彼は本題に戻る。


「しかしそれでは意思疎通がままならない。現在六十万の言語が世界に存在していますが、あまりに多すぎる。それではせっかく世界を統一しても、また言語の壁が残っている。だから私はもう一つの発明をしました」


 ソレが『超銀河統一思考言語』です。


「要はテレパシーなんですよ。といっても明確に外部に出力しようという意思がないとできないで、思考を盗聴されるなんて心配はいりませんよ? これを用いて、ようやく銀河全域の統一が完了するのです」


 万雷、いいや兆雷というべき拍手が彼を包んだ。

 真夜星はソレが収まるまで待った。

 まだ彼の話は終わっていないからだ。


「さて、皆さんには話をしなくてはなりません。私が何のために生まれて、何のために生きるのか。そしてどうしてここまで人類に貢献するのか。知っている方もいるでしょう。けれど知らない方も多いでしょう。どうして私がこれほど長く生き永らえているのかも。説明していきましょう」


 そこから彼が語ったのは、一人の少女との出会いと別れまでの日々だった。

 今まで生きてきた時間と比べればあまりに短い、一瞬のような時間。

 けれどソレが彼の生き様を決定し、人類を含めた知的生物はここまで繁栄させたと言える。

 

 銀河中の生物は思った。

 知的生物とは、ここまで一途に人を愛せるモノなのかと。

 彼はここまで愛を貫けるのかと。

 その生きざまに感嘆し、畏怖し、敬意を抱いた。


「さてそれじゃあ本題に入りましょうか。今までの全ては前置きです。ええ。全てです。全てだ。地球を救ったのも、太陽系にまで人類文明を拡張したのも、銀河を統一したのも、全て前置きだ。全ては一つの夢のために」


「俺には夢がある。タイムマシンを作り上げることだ。そしてもう一度彼女に出会い、言えなかった一言を言うためだ。そのためになら俺はどんな努力も厭わなかった。身を粉にし続けた。それはこれまでの銀河史を振り返ればすぐにわかるだろう。君たち知的生物は俺に多大なる恩がある。違うか?」


 違わないと、全ての知的生物が答えた。


「そうだろう。だから恩返しをしてくれ。協力をしてくれ。タイムマシンを作り上げることに。たった一度、俺が彼女に会うために」


 お願いします。

 彼はそう言って頭を直角に下げた。

 知的生物は再び喝采で答えた。

 ここに銀河の統一は成った。そして彼は王となった。

 王となった彼がやることはただ一つ。

 あの子にもう一度会いに行くことだけである。



――――


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