第12話 まさかの同じ部屋

 俺たちはキングサイズのベッドに座って、二人仲良くテレビを見ていた。

 いいや、仲良くとは言いづらいかもしれない。

 二人とも極度の緊張状態にあるからだ。

 どうしてこうなった?



 □



 説明しよう!

 メダルカジノでの賭けに負けた真夜星は、真鈴の命令と一つ聞くことになったのだ。そしてその命令の内容が『同じ部屋で寝ること』だったのだ!

 説明終了!

 

 一体二人はどうなっちゃうの~!?



 □



 などというふざけたナレーションでテンションを誤魔化そうとしてみたが、無理だ。

 というわけで俺たちは今夜、同じベッドで寝る。

 いや、本当はどちらかがソファで寝るという選択肢もあったのだが、真鈴の強い説得によって俺もベッドで寝ることになった。

 もちろん手を出すということはあり得ない。

 というか指一本たりとも寝ている彼女に触れるつもりはない。

 その旨を説明すると真鈴は少し不機嫌になってしまった。解せぬ。

 

「さて、もう11時半か。もう眠るべきだね。明日も思いっ切り遊ばないといけないし」

「いややっぱり俺ソファでね――」

「いいや、ここで眠るんだ。このキングサイズのベッドでね」

「真鈴はちょっとは警戒とかしないのかよ。男と同じベッドで眠ることになるんだぞ」

「親友。君は私を無理やり襲うような男かい?」

「それはない。断じてない」

「……つまりそう言うことだ。君が私を信頼しているように私も君を心底信頼している。そうでなければ二人きりで旅行に来ようなんて言わないさ」


 そう言われてしまうと俺はもう、ぐうの音も出ない。

 なのでおとなしく同じベッドで寝ることになった。



 □



 これは後から聞いたことなのだが。

 真鈴は抱き枕などが無いと寝れない体質らしい。何かを抱きしめていると本当に落ち着くようで、寝ている間も無意識にそういう物を求めているらしい。

 さて、結論を言おう。

 俺は今寝ている真鈴に抱き着かれている。


(やばいやばいあたたかいやわらかいいいにおいするヤバいやばいヤバい)


 俺にだって性欲は存在するし、同年代の、しかも飛び切りの美少女が横で寝ていて意識せずに眠ることなんて出来かねる。

 だというにこの才色兼備のスーパー美少女は、俺を抱き枕にしやがった。

 理性がヤバい。

 俺の理性と性欲がいま拳で殴り合っている。

 このままでは理性君が負けちゃう! 誰かー! 来てくれー!


 ここで参上、善性と知性!

 善性は言った。お前あの子の信頼を裏切るのか? と。

 知性は言った。ここで一時の欲に負ければ、親友と言うかけがえのないものを失うぞ? と。


 性欲君、即死である。

 というわけで俺の理性と知性と善性は三人仲良く、俺をたしなめましたとさ。

 

 そんな感じで脳内で葛藤している内に落ち着いてきた。


「おやすみ、真鈴」


 俺も寝よう。明日を目いっぱい楽しむために。



 □



「いやー、良く寝たね」

「……ああ」


 そりゃよく寝れただろう。人のことを抱き枕にしたのだから。感触とかヤバかったぞ。

 とはさすがに言えなかった。

 俺にも遠慮という物はある。


 ちなみに真鈴が起きる前にどうにかして抱き枕状態から脱出して、事なきを得た。

 得たのだろうか? 分からない。

 一つだけ言えるのは俺は寝不足だということだけだ。

 

「君はそうでもなさそうだね」

「まあ、まあ、まあまあかな」

「ふーん。今日は大丈夫そうかい?」

「心配には及ばないよ。元々鍛えているからな。体力には自信がある」

「それじゃあ行こうか、東京ウォルターランドへ!」

「千葉にあるけどな」


 というわけで俺たちは日本有数のテーマパークへと向かうことにした。

 といっても電車で十数分である。

 電車で揺られながら俺たちは目的地へと向かう。


「何に乗ろうか?」

「絶叫系は大丈夫かい? 私、色々乗りたいんだけど」

「問題ないぜ。何十回でも任せてくれって感じだ」


 そんな会話をしている内に到着。

 俺たちは、テーマパークのゲートをくぐる。

 こういうゲートをくぐる時は否応もなく気分が高揚する。

 異世界に来た感覚というのだろうか。

 

「さて、まずは――」

「チュロスだな」

「いや、付け耳でしょ」

 

 付け耳が最初になった。

 ラッキーマウスとレイニーの付け耳を付けた俺たちは、絶叫系マシンの列に並ぶ。

 

「真夜星、何か面白い話してよ」

「すげぇ雑なフリだな」


 我がお嬢様は面白い話をご所望のようだ。

 ならば期待に答えるのが親友の務め。


「そうだな。タイムマシンのあれこれを簡単に要約して話そうか」

「いいね! 本人の解説か! 世の科学者垂涎だね」


 というわけで俺のタイムマシンの理論の根本を解説していこう。



 □



 基本的に俺のタイムマシンは、デロリアンやドラえもんの奴のように、乗り込むタイプではない。

 肉体を一度高次元情報に変換して、それを過去や未来に送り込んで、その時間で物質に再構築するというプロセスを踏む。

 一番近いのはターミネーターの奴だろうか。

 この高次元情報化のプロセスを、俺は独学――というか完全に新しい概念なので、俺が最先端である――で理論化したのだ。


 というかもともと発想の飛躍があって、それを頑張って既存の理論で説明できるように翻訳したっていうのが近い。

 世界中に送り付けた論文も、最初は悪戯の類だと認識されていた。しかしもの好きな科学者の目に留まって、彼が自力で検証したところ正しいことが証明された。

 そこから一気に俺の論文の検証を行う科学者が増えた。そして俺は遂に『時間の魔術師』と呼ばれるようになったのだ。


 それはさておき。

 次はタイムマシン実現に必要な物を説明していこう。

 高度演算装置(現状のスパコンを地球サイズに集めて並列繋ぎすることによってようやく、到達できる演算能力が必要)

 直径三十メートル以内のブラックホール。

 重力制御装置。

 ダイソン球(恒星の周りをソーラーパネルで覆って、エネルギーを獲得する恒星サイズの超巨大建造物)。

 以上である。異常である(誤字に非ず)。


 一つひとつが完璧にSF世界の代物である。

 ちなみに直径三十メートルのブラックホールは簡単に見えるかもしれない。けれど、地球を質量そのままに直径六センチに圧縮してようやくブラックホールになると言えば、この直径三十メートル以内のブラックホールを用意することの難易度が分かるだろう。

 

 少なく見積もっても一万年は作り出すのにかかるだろう。

 そしてそれら全てをクリアしたとしても、パラドックスが立ちはだかる。


「どうして未来人は過去にやってこないのか」


 というパラドックスである。

 本当はやってきているのに、未来人の優れた科学技術によって存在が明らかになっていない、という仮説は俺も立てた。

 しかし俺のタイムマシンは、時間移動の際にかなり派手なことが起きる。

 具体的にどのくらい派手か、と言われれば七日間

 これはタイムマシン起動の莫大なエネルギーをある程度無害な可視光線に変換した結果である。


 これだけ莫大な光量を放つとなると、観測可能な宇宙のどこにタイムスリップしたとしても、観測は可能になってしまう。

 なので俺のタイムマシンでは、このパラドックスは解決できていないのだ。


 ちなみに、俺のタイムマシン理論では、質量に応じて消費エネルギーが増大するが、飛ぶ日数にはエネルギーは関与しない。

 もっと端的に言えば、必要なエネルギーを確保できれば何億年前であろうと時間旅行できる。


 そういうわけで俺のタイムマシンの解説は終わりである。



 □



「楽しいか? この話」

「君が話してくれるのならば、何でも楽しいよ」

「そいつは良かった」

 

 楽しんでくれたようだ。それなら俺も嬉しい。そんな会話をしている内に、俺たちの順番が回ってきた。

 それじゃあ、思いっ切り楽しむとしよう。


 そんな感じで俺たちはテーマパークを思いっきり楽しんだ。

 テーマパーク内を移動中の間、真鈴が腕を絡めてきたのが気になったが。




 ――――


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