茹でた雌鶏や雌豚の胸肉とお風呂に入っている女の子の胸肉も全然違う(2/3)
「……」
「……」
百合園女学園の第1寮である『椿館』の浴場は、それはそれは広い。
どれぐらい広いのかと言うと、民間施設である銭湯ぐらいの広さと言えばよいのだろうか。
とにかく広い。
そう、凄く広いのだ。
人間2人が湯舟の中に浸かっていても背中が当たるだなんて事もないぐらいに広い。
「…………」
「…………」
ぽたりぽたりと、天井に昇る湯気が水滴になって落ちてくる音と湯舟の中のお湯が動く音と、お互いの身体が身じろぎする音しか響かずに、僕とお嬢様はお互いだんまりのまま、裸体の状態のままで湯舟に浸かっていた。
――そう、裸体だ。
僕たち2人は彼氏彼女という関係でもなく、兄妹や姉弟の関係でもなく、血が繋がった関係性でないというのに、ただ黙々と身体と髪を洗い、同一の湯舟に浸かっていた。
一応、念のために透明のお湯の色を変えるべく入浴剤を入れているので自分の下半身を茉奈お嬢様に見られる心配はないので、僕はこのまま温かいお風呂で1日の疲れを癒し――いや、この状態で心身を癒せる訳がないだろう⁉
「……っ!」
ドキドキしてる!
とんでもないほどに僕の心臓がドキドキしている!
油断してしまえば、ついつい背中の向こう側でお湯に浸かっている茉奈お嬢様の裸体を見てしまいそうになる!
背中の向こう側にあるのだろう制服越しからでも分かるぐらいの茉奈お嬢様の見事なまでにスタイル抜群な身体が、一糸まとわない状態で存在していると思う鼻から血が零れでそうになってしまう……!
だけど、我慢だ!
ここは我慢するしかない!
例えお嬢様が『自分の身体を見てもいい』だなんて許可を出しているとはいえ、僕は曲がりなりにも男だ!
だけど、それなら最初からお嬢様のお風呂のお誘いに断ればいいという話なのかもしれないけれど、だからと言って断れる訳がないだろう……!
「…………うぅ…………」
――嘘をつきました。
正直に告白すれば、茉奈お嬢様のような素敵な女性の裸を見てみたいという下衆な感情がありました。
拝啓、天国の和奏姉さん。
僕は貴女が幼い頃からメイドとして面倒を見てくださっていた茉奈お嬢様と、彼氏彼女の関係でもないというに一緒にお風呂に入っていますけれど、どうか僕の下心に対して怒らないでください。
言い訳ではないんですよ?
そもそも彼女は僕の下半身を見た事がある訳でしてね?
男にとって下半身のアレはある意味では命よりも大事なものでしてね?
何ならアレがテレビとか動画に出ただけで地上波に流せなくなるほどのとんでもないほどにヤバいモノでしてね?
何ならそれを外でぷらんぷらんとぶら下げているのを解放すれば、誰だってお縄につく訳でしてね?
それだったら、僕も茉奈お嬢様の全裸を見て良い権利が――。
「――ごふっ!」
「え⁉ な、な、な、何⁉ どうしたの唯⁉ どうして痛そうに背中を丸めているの⁉ 何かあったの⁉」
「……いえ、何もありませんよお嬢様。僕はただ自分の頬を殴っただけですので……」
もっとも、殴ったのは頬だけではなく自分の下半身のアレも思い切り殴った。
想像以上に痛過ぎて、暫くの間、ここから立てそうにもないけれど、それでもとんでもない事を考えていた自分を殴らないといけないような想いに駆られ、その衝動に素直に従ったまでの事なので後悔は微塵もしていない。
「……そんな事よりもお嬢様。僕を見て宜しいんですか。さっきからずっとお互いに顔を合わせずに黙々と入浴していたのに」
「そ、それは仕方ないじゃん。だって唯がいきなり痛そうな声をあげたんだからさ」
あぁ、なんとお優しい茉奈お嬢様なのだろうか。
だけど、僕はそんな貴女に欲情していました。
女学園とはいえ金が無い僕を学校に通わせ、身寄りも住む場所もない僕をこの寮に泊まらせてくれたという返しようにも返せない恩義があるっていうのに、僕はそんな貴女に浅ましくも劣情を向けておりました。
これは腹を切ってでもお詫びしないといけない気がする。
「ちょ、まっ、待って⁉ なんで背中からでも分かるような黒いオーラを出す訳なの⁉ 本当にどうしたの唯⁉」
「……僕は人間として最低だなぁ、と思いまして……」
「本当にいきなりどうしたの⁉」
僕の返答に対して慌てふためいたお嬢様はいきなりお湯をばしゃばしゃと搔き分けながら、僕の元にまでやってこようとして……とても大事な事に気づいたかのように、止まった。
「そう言えば、唯。1つ気になったから質問をしてもいい?」
「な、何でしょうか……?」
「いや、気を悪くしないで聞いてもらいたいんだけど……唯って、本当に男?」
「……男ですよ。情けないでしょうけれど、僕は男ですよ」
「こうして遠目から見たら本当に女性の人にしか見えないんだけど」
「男です。初めてお嬢様と会った日にお嬢様は僕の……その、アレを見たでしょう?」
「まぁ、見たけどさ……ほら、偶にいるじゃん? 女性なのにアレがついている生き物」
「僕はブチハイエナじゃないんですけど」
「え? 本当にいるんだ、そういう生き物。唯は本当に博識だね」
意外そうな声を出してはすぐさま僕を賞賛してくれたお嬢様を後ろに感じながら、先ほどよりも近づいてきたという状況を理解してしまって、先ほどよりも心臓の脈動が更に活発になっていく。
お湯の匂いに混じって、屋上で嗅いだような女性特有の甘ったるい臭いが漂ってくるような気がして、僕の神経が必要以上に活発になるような錯覚さえ覚えてしまう程だ。
「私ね、気になったんだ」
「……何をでしょう?」
「唯におっぱいってあるの?」
僕は絶句した。
いや、ある訳ないだろう。
そんなのが男の僕にある訳ないだろう。
「……乳首なら、まぁ、ありますけど」
「それは男性でもあるのは知ってるよ。だけど、個人的に色々と気になっただけで……という訳で、唯の胸、触ってもいい?」
「いいですよ――って、言う訳がないでしょうお嬢様⁉」
僕はたまらずにそう言おうと顔をお嬢様に向けようとして――向けてしまった。
茉奈お嬢様の一糸まとわない、白磁の肌で覆われた綺麗な裸体を目視してしまった。
目を別の方向に向けようと思っても、本能がその行為を邪魔してくる。
今まで頑張り続けてきた理性が溶けるかのように、僕の身体が段々と熱くなってきくのを感じて……僕は10秒ぐらいお嬢様の身体をまじまじと見つめていたけれども、理性を総動員させて彼女から目を逸らした。
「ご、ごめなさっ……!」
「ふふっ、許して欲しいなら唯の胸を触らせて?」
謀りやがったなお嬢様、と僕は内心で呟やきつつも、従者としてお嬢様の許しを得る為にも彼女のワガママを聞くしか方法がなかった。
そんな僕の態度を確認した茉奈お嬢様は勝ち誇ったかのような……いたずらに成功した悪童のような笑い声をあげると、お湯を搔きわける音を立てながら、段々と僕に近づき、回り込んで――ついに僕の目の前に現れたので、僕は目をぎゅうと力いっぱい閉めた。
「じゃあ、触るね」
「いや、別に触らなくてもいいんですけどね? というか触って欲しくないんですけどね? 僕が男だっていう証拠の為に仕方なく触らせるだけなんですけどね?」
「ねぇ、唯。キミのそれっていわゆるアレなのかな? 誘い受けなのかな?」
そんなやり取りをしながらもお嬢様は僕の正面に立ち、彼女の若干興奮した息遣いを肌で感じられるほどの距離まで詰めてきた。
「ん、んぅ……⁉」
こんな近くまで異性が、しかもこんな美人が僕の近くにまで寄ってきて、そんな彼女の生暖かい呼吸が僕の肌に直接触れてきて、本当に頭がおかしくなってしまいそうになってしまった僕はたまらずにそんな悲鳴のような声をあげた。
「ちょ、ちょっと、唯……! へ、変な声を出さないでよ……?」
「だ、だって……これ、すっごくドキドキしてですね……⁉」
「お願いだから、ちょっと黙って。私の方が変な気を起こしてしまいそうになっちゃう」
変な気って何ですか変な気って⁉
そんな反論を口にしようとした矢先に彼女は僕の胸部を触ってきたものだから、僕はそんな簡単な言葉さえも口に出来ないまま、くぐもった声を出す事しか出来なかった。
「じゃあ、いくよ」
僕が正真正銘の男の子だって事を証明する為に僕は仕方なく彼女に身体を触らせているだけだと自分自身に何度も言い聞かせるが、それでも自分以外の誰かが、それも異性が自分の身体に触っているとなれば、ついつい身体が反応してしまう。
「んぅ、く、ひっ、ひゃん……⁉ ぁ……!」
「んー? 前に触った通りの感触だね? やっぱ制服を着たら女性になるだとかそういう現象は起きていないんだ。……複雑。唯が女子制服を着ているだけであんなに様になっているという事実がなんだかとっても複雑。訴訟できるレベルで複雑だよ、うん」
「さ、触りすぎですよぉ……⁉」
彼女の手はとてもひんやりしていて、とてもくすぐったい。
明らかに男性の物ではないもちもちとした柔らかい感触が無遠慮に僕の胸部を触りまくるものなのだから、冗談抜きで気が狂いそうになる。
「待った。胸というのは複雑なんだよ、唯。偶にいるんだよ、壁の乳。でも、唯のは明らかに女の子の胸じゃないね」
「で、でしょう……⁉ もう分かったなら……ぁん……! どうして……んくぅ……ん……! なんでまだ触って……触るの、やめ……っ……!」
そもそも、女性の手なんて姉以外の人物で握った経験なんてなくて、男子校に通っていた僕は女性に対しての免疫が皆無と言ってもいい。
いや、そんな僕じゃなくても男子という生き物は女子の手を握るだけでもドキドキしてしまう生き物だ。
そんな生き物に女子の手が自分の手ではなく胸を触っているだけでも、本当に、頭がおかしくなりそうになる……!
「でも、肌が男の子じゃないんだよね。何食べていたらこんな肌がすべすべになるの? 野菜? 野菜か? なんで男性の唯が女性の私よりも肌がすべすべしてるの? 納得できないんだけど」
「納得してくださいよぅ……!」
「おかしい……男の人の肌って、こう、ゴワゴワー! って感じなんだけど。いやそれ偏見か。でもイメージはそう。なのに唯の肌は全くゴワゴワしてない。寧ろ、そこら辺の女子よりも女子してる肌。分けてほしい、うん」
「肌なんて、個人差があるに決まっているじゃないですかぁ……⁉」
「やっぱり唯って女の子なんじゃないの? いい加減自覚しようよ?」
「男の子ですよぉ……!」
どんなに僕の無い胸を触らせても、彼女は一向に僕を男子と認める事はなかった。
「んー。確かに乳首も普通に女性のヤツとは違うね? いや、一緒かな? 違いがよく分からないや」
「なんで乳首まで触ってるんですか⁉」
触らないで懇願しても、お嬢様の手が止まることはなかった。
余りにも頭がおかしくなりそうだったものだから、たまらずに目を開けてしまうと――眼前にいたのは、好奇心によるものなのか、はたまた嗜虐心によるものか瞳を物凄くキラキラと輝せているお嬢様がそこにいた。
そして、そんな雇用主のセクハラに対して、流石に雇用主を押しのける訳にはいかず、止めて止めてと口にする事しか出来なくて……そして目の前にいるお嬢様は止めてと言われて、止めるような人じゃなかった。
「乳首、立ってきたね?」
「そ、そんなの、生理現象ですよ……!」
「ふふっ、コリコリしてるね?」
「あ、ぅ……ぅぁ……! や、やめ、やめて……んっ……んぅ……!」
ニマニマと意地の悪い笑みを浮かべながら、柔らかい指先で僕の乳首を転がすように押してくる彼女に与えられる刺激を前に、僕はぎゅうと目を閉じるしかなくて、気づけば目端から涙が勝手に溢れ出そうになっていた。
「ちょっとそれ本当に止めてそれ以上いじわるしたくなる表情を浮かべるの本当に止めて興奮しちゃう」
「お嬢様が止めてくださいよぅ……!」
「無理。ごめんね。唯が悪いんだよ」
「も、もう……止めてください……! 本当に止めてください……! 限界なんです……! こんなの……僕、おかしくなる……! 恥ずかしさで、死んでしまいますよ……!」
「ねぇ、唯。それ男子側が言うセリフじゃないよ? それ女子側が言うセリフだよ? ……まぁ、流石に泣いているのに続けるのも流石にアレだから、この辺にしておくね」
彼女が渋々とそう告げたのと同時に、ようやく僕はお嬢様の戯れから解放された僕は急いで彼女から離れた。
「う……うぅ……うぅうううううううううううううう……!」
「な、涙目でこちらを睨まないでよ。罪悪感が凄いから止めて。というか、そういう態度が完全に女子っぽいというか、完全に女子というか、理想の女子というか……うん、唯は凄いね。女子よりも女心が分かってるよ。素直に尊敬しちゃう」
「どういう感想なんですか⁉ それよりも! どうです⁉ 僕はどうやっても男でしょう⁉ ねぇ男でしょう⁉ 男って言ってくださいよ⁉」
「んー。ねぇ、唯? 私やっぱり思うんだけどさ、下半身のソレ取ってみようよ。 才能あるよ、うん! 保証する!」
「嫌ですよッッッ⁉」
「あはは、冗談冗談。全く、唯のそういう態度を見せられちゃうと私の性癖壊れちゃうよ、もう」
男としての尊厳が、お嬢様の厭らしい手つきの所為で粉々に粉砕されてしまった僕はこうして人生初の思春期の学生同士の混浴をしたのであった。
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