江戸の華
江戸の町には様々な人が行き交っている。売り物を
雑多な人々が行き交う中を、お
屋台といっても、普通は振り売りの天秤と同じで肩に担いで運ぶものだ。だが、小柄なお榛は屋台の下に車をつけ、引いて動かせるように工夫してある。あるいは単に小柄というのではなく、大事な
お榛は真っ直ぐに
お榛が向かったのは、そんな広小路でも
「
「
「まあな。弁当、食っちまったし」
清司郎がそう言うと、谷川は「はははっ」と笑った。
「おれもだ。この天狗娘にまんまと一杯食わされた」
「一杯食わされただなんて、ひどい言い草じゃない? どうせ、弁当を食べようが食べなかろうが話だけは聞くつもりだったんでしょ?」
「ああ、まあな」
そう言われれば、たしかにそうだ。話も聞かずに断るというのは、清司郎のやり方に反する。
「さて、三人揃ったことだし、出るとするか」
谷川が
その体格はもちろん、
「そういえば、谷川はどうして墓場の件に加わらなかったんだ?」
清司郎がたずねると、谷川はぴたり、と足を止めた。
「あのなぁ……墓場だぞ。墓場の幽霊退治。そんなの、怖くて行けるわけがないだろうが。おれは獣や器物が化けた
「相撲取りだろうが、それでもいいのかよ?」
「相撲取りだから、だ。幽霊が変じたような、形のあるようでない勿怪は相撲の技が通じないからどうにも苦手なんだ」
谷川はわかったようなわからぬような反論をすると、今度は
と、そこへ通りがかった
どこかの隠居らしい、質素ながらも上品な服装で、
「なんだい、爺さん?」
「少々おたずねしたいのだが、お前様がたはもしや、この頃評判の勿怪祓いの一団ではございませぬか?」
「ええ、そのようなことをさせていただいておりますが、評判とは?」
清司郎がたずねると、童女が「これだよ」と持っていた巾着から折りたたんだ紙を取り出した。
紙を受け取って広げると、それは半月ほど前に出た
「あの時の読売ですか。でも、実際はこんなに派手なものじゃありませんよ。読売ですから、大げさに書かれてるんです」
「そうご謙遜なされるな。商人というものは、耳が早くなければなりませぬでな。この話、たしかに大げさではあるが、大筋は誤っておらぬというところまで聞き及んでおります」
老爺の目がほんの
「まあ、勿怪で困ることがあれば、頼りにさせていただきますよ。それでは」
老爺は童女に声をかけ、悠々と歩き始めた。その姿は行き交う人々に紛れてすぐに見えなくなってしまう。
「なんだったんだ、あの爺さんは?」
「さあな。どこぞの隠居だろうし、なにかあった時のために顔を繋いでおこうってことなんだろう」
「あたしたちの評判もちょっとずつ広まってきてるんだってことだよ。さ、それじゃ頼み人のところに行こうよ」
再びお榛が先頭に立ち、三人になった清司郎たちは讃岐屋へ足を向けた。
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