帝都~ラタキア

 帝国軍学校を無事卒業し、さっそく俺たちは帝都を出発した。

 馬車で移動すること数時間。

 最初の日没を迎える。

 ちょうどよさげな川辺があったので、そこに馬車をとめる。

 よく転生ものの小説とかだと、馬車が揺れて腰がーってのがお馴染みだが、普通にサスペンションつきで快適だった。まあ、帝都周辺の道は舗装がしっかりしているからなのかもしれないが。


「タナトス戦記」の文化レベルは基本、中世ヨーロッパをモチーフとしているが、所詮は同人ゲームの世界観だ、技術の先取りはちょくちょくある。石鹸やシャンプーが一般的なのが俺としてはとても有り難かった。


「……ロイル、持ってきた。これでいい?」

「お、サンキュー」


 俺が石をコの字に組んでかまどを作っていると、ユノが枯れ枝や枯れ葉をこんもり持ってきた。ちょっと多い気もするが、多い分には困らないので良しとする。

 さっそくマッチで火をつける。そういや、マッチも中世にはなかったような?うん、気にしてはいけない。楽だからいいよね。


「料理は私がしよう」


 クレアが喜々として野菜の下ごしらえを始めた。


「クレアは実家が料理屋だっけか」

「ああ、街で有名な人気店だった。今はどうだろうな……」

「今もきっと繁盛してるよ。落ち着いたら見に行ってみたらいい」

「そうだな。ありがとう」

「いや、別に」


 クレアがこちらにふっと笑ったので手を振って答える。

 クレアを貶めた貴族は彼女のメンタルを考えれば早いとこ潰しておきたいが、聞いてみると、かなりの大貴族。「タナトス戦記」でもネームドの貴族で、2年後の帝国動乱にも深く関わってくる。

 さすがに分が悪すぎるので、彼の貴族との直接対決は当分先になるだろう。クレアには悪いとは思うが。


 ユノを膝上にのせて焚き火をぼんやりと見る。ふと目線をやると、料理するクレアの隣でシンシアが興味深そうに覗き込んできた。


「シンシアは料理……できなさそうだな」

「あ、ロイルさん。そういう決めつけはよくないと思います」

「できるのか?」

「……できませんけど。そういうロイルさんはどうなんですか?」

「俺はできるぞ、普通に」

「……ん、ロイルのご飯、おいしい」


 前世の俺は独り身だったし、「タナトス戦記」には魔物なんておらず、生態系は地球に準拠しているから、こちらの食材にはすぐなれた。記憶の中のロイルも自炊していたみたいだしな。

 だから、シンシア、そんなに愕然とすることないだろうが。


「よくそんなんで結婚とか考えてたよな」

「いや、私の結婚先の家って普通に使用人がいるようなとこですよ?料理は使用人がやってくれるに決まってるじゃないですか」

「そう言われたらそうか。ま、コペルまで1ヶ月はかかるし、この際、シンシアも料理を覚えたらどうだ?」

「……明日からがんばります」


 それ、絶対やらないやつじゃん。


「そ、それより、コペルのことを聞かせてください。どの貴族の紹介状をもらったんですか?」

「貴族の紹介状?そんなのもらってないが?」

「え……?ロイルさん、代官として派遣されるんですよね?」

「ちょっと違うな。代官になるんだよ。コペルを攻め落として」

「攻めっ、て、はぁあああああ!?」

「うっさ」


 突然、シンシアが大声を上げたかと思ったら、駆け寄ってきて肩を掴んで揺さぶってくる。


「私にコペルの内政を任せてくれるって話だったじゃないですか!あれ、嘘だったんですか!」

「嘘じゃないぞ。コペルを攻め落として支配するつもりだからな」

「し、信じられない……っ、空手形だったなんて……っ」


 シンシアがぐらりと大げさに倒れてみせる。

 何なんだ?何が言いたいんだ、こいつは。

 俺は「信○の野望」だと島津家から始めるタイプだ。九州の最南端の薩摩から北へ前線を押し上げながら支配地を増やしていく。背後を取られる心配がないから難易度がぐっと下がるんだ。

「タナトス戦記」でもその戦法をとっていた。

 イリアス帝国の南部は皇帝の威光が届きにくく、蛮族が侵攻してくることもあって、玉石混交としている。

 最南端の「コペル」は帝国暦220年の現在、一応、帝国領に入ってはいるが、独立自治の様相をていしている。守備兵は500しかいないはずだから余裕で勝てる。なにせ、こちらには軍事の才を持つ姫ユニットがいるのだから。


 そう思ってクレアの方を見ると、彼女は困ったように眉をハの字にしていた。


「ロイル殿、攻め落とすと簡単に言うが、傭兵でも雇うつもりか?」

「傭兵?雇うつもりはないが?」

「まさかとは思うが、私たちだけで攻めるつもりか?」

「まさかも何も、そのつもりだ」


 おい、その可哀想な者を見る目をやめないか。


「何を心配しているか分からんが、クレアは姫ユニットだろ。兵士ユニットを率いて戦えば、コペル程度の兵力と練度なら、まず負けないだろ」

「兵士ユニット?とはなんだ?」

「はぁ?兵士ユニットも知らないのか?帝国軍将官なら、誰でも生成できるのに?まあ、いいや。ちょうど野営の見張り用に生成しようと思ったから、知らないなら見ておけ。んー、歩兵でいいか?」


 俺は「兵士ユニット生成」と念じる。脳裏でシステムウィンドウが展開されたので、兵種を「歩兵」、人数を「1人」と設定して「生成」ボタンをクリックした。クリックと言ってもイメージ上だから、その辺は察してほしい。


 すると、この場にお馴染みの兵士ユニット(歩兵)が表れ出た。

 手には槍を持ち、防具を身に着けているが、胸の膨らみから女性型というのが分かる。顔は狐面で隠れていて分からない。

「タナトス戦記」の立ち絵のまんまの姿でちょっと感動する。


 歩兵のステータスも俺の知識通りだ。


+――+――+――+

 兵種:歩兵

 攻撃:B、防御:B、移動:C、射程:――

 訓練度:0

+――+――+――+


「「なっ!?」」


 クレアとシンシアが驚きの声を上げて、目を丸くした。


 何を驚いている?

 帝国軍将官なら誰でもできることだぞ?

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