信長との合流

「信長様が率いる本軍。肥田忠政率いる肥田軍を撃破しました!」


 堂洞城の合戦を勝利に収めた、可成と俺達先鋒隊は兵を休ませている際中に、本軍が合戦で勝利を収めたという報告が入った。


「さすがは、信長様」


「これで、中美濃の国人衆は長井道利のみか」


 中美濃は、ほぼ制圧したと見て間違いないだろう。


「道利は、もう中美濃にいないわよ」


「うわ!?」


 桃が突然、伝令に来た兵の隣に現れた。伝令は、驚きひっくり返る。


「下がってよいぞ」


「は、はい」


 伝令は、何度もこちらを振り向きながら、陣の中を出て行く。驚くよな、いきなり隣に人が現れたら。


「話を戻そう。道利って、長井道利で間違いないんだよな?」


「それ以外に、誰がいるのよ」


「中美濃には、本当にいないのか?」


「本当よ。あなた達が、堂洞城で戦っている間、長井道利の城を見に行ったら、城の中に誰一人もいなかったわ」


「中美濃の陥落を察知して、稲葉山城に逃げたのか」


「そうみたいね」


 てことは、中美濃は織田軍の手に落ちたってことになる。残りは、稲葉山城と周辺の支城だけか。


「確か、君は……リンの郎党にいる子か」


 俺が考えていると、可成は桃に話しかけた。


「誰? このおっさん」


「森可成だ。おっさんって呼ぶな」


 俺は、桃の発言を撤回させようとした。


「いいのだ。自分の子にも、君と同じぐらいの歳の子供がいる」


 桃は、その言葉を聞いた瞬間に肩を震わせた。


「ちなみに、その子の年齢は?」


長可ながよしって名前で、今年で九歳だ」


「わ、私は……」


 桃の顔が赤く染まっていく。


「可成、逃げてくれ!」


「え、どうしてだ?」


「今年で二十歳よ!」


 可成と俺にクナイや手裏剣しゅりけんが飛んできた。


「二十歳だと!?」


「可成、驚くところは、そこではない! 桃、なぜ、俺も巻き込む!」


「同罪に決まっているからでしょ!」


「俺は、なにもしてなーい!」


 戦終わりの織田軍の陣営で、俺の叫びが響き渡った。



「堂洞城の攻略ご苦労であった」


 数時間後、信長が織田軍の本軍を引き連れて、俺達と合流した。


「信長様、鉄砲隊を貸していただき、ありがとうございます」


 可成は、信長に礼を言った。


「よいのだ。それにしても、可成とリン」


「どうかしましたか?」


 可成と俺は、顔をあげて信長に聞く。


「主ら傷だらけではないか。そんなに激戦だったのか」


 俺と可成は、お互いに顔を合わせた。可成の姿を見ると、明らかに戦い終わりより、ボロボロになっている。なんなら、背中にクナイと手裏剣が何本か刺さっているぞ。


 決して、自分の郎党に武器を投げつけられて、ついた傷だと言えない。


「ま、まぁ、手強かった」


「ご苦労だったな。岸一族は、我も仲間に引き入れたかった。斎藤家が扱うには、惜しい人材よ」


 信長は、悔しそうな顔をしている。


「悔いていても仕方ない。残るは、稲葉山城か」


 信長は、俺達を見ながら言う。


「恐れながら、信長様、まだ稲葉山城の周りには支城がございます。それに、斎藤家を支える重臣である『美濃三人衆』の存在も」


 可成は、信長に対して言った。


「美濃三人衆か、もう少しで連絡が来るはずだ」


「美濃三人衆から連絡が?」


 信長の発言に、可成は驚く。


「可成、美濃三人衆とはなんだ?」


「あ、あぁ。美濃三人衆は、先々代の斎藤家当主、斎藤道山の時から斎藤家と美濃国を支えている重臣三人の総称だ」


「そんな、重臣がいるのか。信周だけでも、すごいと思ったが美濃国は、優秀な人材も多いのだな」


 そう考えると、さっき信長が言っていた、美濃三人衆から連絡が来るって発言が疑問に思った。なぜ、斎藤家の重臣三人から連絡が来るのだ?


「信長様、美濃三人衆から連名で文が届きました」


 俺が。疑問を考えていると、信長に仕える小姓が信長の元にやってくる。


 今、美濃三人衆からの連名って言ったか?


「来たか」


 信長は、小姓が持って来た文を開ける。


「信長様、今美濃三人衆からの文と聞きましたが、なんて書いているのですか?」


 気になった可成は、信長に文の内容を聞き出す。


「これは、美濃三人衆が主君である斎藤龍興を裏切り、我に寝返ると書かれた文だ。主君と仲が悪かった噂は、本当であったようだな」


「美濃三人衆が寝返り!?」


 可成は、驚いた声を出して言う。


 斎藤家の重臣であるはずの美濃三人衆が裏切るなんて、なにが起こっているのだ?


「龍興の没落を嘆いると密偵から情報を得たのだ。龍興は、自分のお気に入りである家臣しか言うことを聞いていなかったらしいな」


 そんなことが、斎藤龍興と家臣達の間でおこっていたのか。


「さすが、信長様です。敵を寝返らせることで、織田軍の被害を最小限に抑えることができ、戦況を有利に運ぶことができるなんて、感服致しました」


 可成は、感激した様子で信長に言う。


「これで、稲葉山城の周辺にある支城は、全て我に寝返った。残るは、稲葉山城を残すのみだ」


 情報を制す者は、戦を制す。この言葉は、魔王であった父に教えてもらった言葉だ。敵の情報を知れば、無用な血を流さないで済む場合がある。


 信長は、実戦で見事にそれを実現させてみた。俺が、まだできたことがない芸当をやってのけている。信長、なんて恐ろしい男なのだ。


「残るは、稲葉山城のみ、全軍前進!」


「おおおおお!」


 信長の激に織田軍は、地面が揺れるほどの声を出した。


 織田信長、人間の中で、恐ろしいと思えたのは、勇者と信長だけだぞ。この男が進む道を見てみたい。俺の中にある好奇心が、動いた瞬間だった。

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