召喚術

「なぜ、私じゃなく、子供である汎秀を人質にとる?」


「こいつは、平手政秀の息子だろ。斎藤家から情報を貰っているからな。金を稼ぐには、ちょうどいい。利水よりも何倍以上の賞金が出る」


「まだ、相手は子供だろ。早く離せ!」


「離せと言われて、離すやつが……いて!?」


 汎秀が、暗殺者の腕を噛んで、脱出する。


「カグヤ!」


「わかってる」


 俺達は、その隙を逃さず、カグヤの能力で暗殺者を拘束した。多数のガイコツが、暗殺者に絡みつく。


「なに!?」


 暗殺者は、脱出しようとあがくが、脱出できていない。


「私の術からは、逃れられないわよ」


「くっ……」


 暗殺者は諦めたのか、抵抗しなくなった。


「ひろ、大丈夫か?」


「怖かったよー!」


 汎秀は、泣きながら俺に抱き着いた。


「利水も無事か?」


「はい、大丈夫です」


 利水も、傷を負っていないようだ。


「さてと、こいつの正体を調べないとな」


 こいつの素顔から見てみるか。


「こいつの覆面をとる」


 俺は、そう言うと、みんな頷いた。


「じゃあ、取るぞ。暗殺者、観念しろ」


「……」


 暗殺者は、黙ったままだ。逃げるのを諦めたのか? 俺は、暗殺者が被っている覆面に手を伸ばす。


「取るぞ」


「……」


 暗殺者は、黙ったままだ。


「顔を見せろ!」


 覆面を取ると、現れたのは、『危険』と書かれた一つの大きな玉だった。


「玉?」


 玉を手に取ろうとすると、玉の導火線に火が付いているのを確認できた。もうすぐで、爆発しそうな程、導火線が短くなっている。


「みんな、逃げろ! 爆弾だ!」


 この声を聞いた瞬間、みんな一目散に逃げだす。


「また、導火線かよ!」


 さっきも、導火線が付いている爆弾に出会った。愚痴をこぼしながら、俺も慌てて、その場から立ち去った。


 みんな部屋から出て、逃げているが一向に爆発する気配を感じなかった。


「爆発しない?」


「ははは! 騙されたな、馬鹿め!」


 突如、女性の声が聞こえた。


「女性の声?」


 熱田神宮内にいた巫女は避難させている。ここにいる女性は、カグヤだけだ。


「今の声、カグヤか?」


「馬鹿、言わないで、私がこんな品のない、笑い方する訳ないでしょ?」


「なら、今の声は?」


「リン殿、上だ!」


 利水の声が聞こえ、上を向く。


「ははは! まずは、お前からよ!」


 上空には、黒装束の服を着た少女が、俺に向かって短い刀を振り下ろそうとしていた。


「やられるか!」


 俺は、少女の攻撃を受け止める。


「お前は、誰だ!」


「私は、さっきの暗殺者よ」


「なにを言っている。さっきの暗殺者からは、男の声が聞こえた。体格も女性の体格ではなかったぞ」


 俺は、少女の攻撃を弾き返す。


「いいわ! せっかくだから、教えてあげる! さっき、捕まえた男の方を、よく見てみなさい!」


「よく見ろって……」


 カグヤの術で捕まった男の方を見てみると、胸が大きく裂けて抜け殻みたいになっていた。


「あ、あれは、なんだ?」


 汎秀は、驚いた声で言う。


「カラクリよ」


「カラクリ?」


「知らないの? なら、見せてあげる」


 少女は、そう言うと、巻物を取り出した。なにをするつもりだ。


「あの巻物、術式が書き込まれているわ」


 カグヤの方を見ると、再び瞳を赤くしていた。


「術式?」


「異国では、魔術書と呼ばれているわ。魔法使いが良く使っているものよ」


「魔術書は知っている。だけど、あれは本じゃないぞ」


 魔法使いが、使っている魔術書は本になっている物だ。巻物に術式を書いているのは、見たことがないぞ。


「これは私達、忍びが独自で開発した物よ。異国の魔術書と一緒にしないでほしいわね」


 少女は、そう言うと、巻物を空中で広げる。


「行くわよ!」


 巻物に書かれていた文字が光り出す。


「出て来なさい」


 巻物から、二体の木製で作られた狼が飛び出してきた。


「召喚術!?」


 召喚術は、魔法使いの中でも熟練の魔法使いしか扱えない高等魔法だぞ。それなのに、少女が木製の狼を二体召喚した。


「リン、この木製の狼に魂を感じるわ。ただのカラクリじゃないみたい」


「察しが、いいね。そうよ、この狼には魂を入れているわ。より、生き物らしく動いてもらうためにね」


「その術、面白いな」


「私を倒すことが、できるかしら」


「泣いても知らないからな」


 俺は、少女に刀を向ける。


「私も手伝うわ」


 カグヤも俺の隣に立った。


「あら、威勢がいいわね。おばさん」


「お……ば!?」


 カグヤが、動揺した声で反応する。


「私は、人間で言うと二十代前半よ! ガキは黙りなさい!」


 どうやら、カグヤにとって『おばさん』って言葉は、地雷だったようだ。いきなり、フルスロットで怒りを爆発させている。


「ガ、ガキですって!? 私、二十歳ですけど!?」


 おばさん扱いをした少女は、幼く見られることがコンプレックスだったようだ。なら、おばさんって呼ぶなよ。


「カグヤ落ち着いて……」


 俺は、どうにかしてカグヤの怒りを治めようする。


「落ち着いて、いられる訳ないでしょ! 名前を名乗りなさい! 二度と立ち直れなくなるまで、痛めつけてやるわ!」


「おばさんが、なめた口をきいて言い訳? 子供扱いした私を後悔することになるわよ」


 少女は、そう言うと短い刀をカグヤに向ける。


「伊賀国、伊賀衆が一人、百地丹波ももちたんばの娘。百地桃ももちもも。女忍者を甘く見たことを後悔させてあげる」


 桃は、そう言うと木製の狼と一緒にカグヤに向かって走り始める。


「召喚できるのは、あなただけじゃないわ」


 カグヤは、そう言うと床に手を添える。


「ガイコツ行きなさい」


 カグヤの前に、数十体のガイコツが現れる。


「私のカラクリを甘く見ないで!」


 木製の狼が、ガイコツを次々と倒していく。


「やるわね。じゃあ、こいつは、どうかしら」


 カグヤが、次に召喚したのは、骨になった熊だった。


 熊は、木製の狼に飛び込み動きを封じる。


「あなたの狼は、もう使い物にならないわよ」


 カグヤは、桃に向かって、そう言う。


「油断したわね」


 桃は、手の平サイズの小さな巻物を広げる。


「蛇」

 カグヤは、上空から突如現れた木製の蛇に丸のみされた。


「暗殺用に作った巻物よ。巻物を開いていたことすら、気づいていなかったでしょ。ま、私が言っても、なにも聞こえないわよね。天国で後悔すればいいわ」


大蛇おろち


「えっ」


 桃は、反応することが出来ずに骨の蛇に噛みつかれて、壁に叩きつけられた。


「な、なんで……」


「私は、体からも死者を出すことができるの」


 カグヤはそう言うと、背中から大きな人型のガイコツを召喚する。


「がしゃどくろ……そんな物まで召喚できたのね」


「おばさんの勝ちでいいかしら」


「私の……負けよ。早く殺しなさい」


「じゃあ、これからは、お姉さんって呼びなさい」


「は? なにを言って」


 カグヤは、そう言うと笑みをこぼした。

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