薄紅葉変はらずひとを待つ神社


薄紅葉とは、緑の残る、まだ色の変わる途中の紅葉のこと。

一日、一刻ごとに赤く染まり、そして散っていく葉のことを指す。


そんな紅葉に囲まれた下鴨神社は、二千年あまりの歴史を持つ。

移りゆく時間のなかで、変わらずそこにあり、詣でるひとびとを待ち続けている場所だ。


わたしがこの神社と出会ったのは、小学生の頃だった。

京都に引越したとき、初めて京都の地を踏んですぐ、わたしは上賀茂と呼ばれる地域で生活し、上賀茂神社のすぐ近くにある小学校に通っていた。

京都三大祭りのひとつ、葵祭は、千五百年前から続く、上賀茂神社と下鴨神社を結ぶものだった。

初めて目にしたとき、言いしれぬ時間の重さに言葉を失った記憶がある。

十二歳のわたしにとって、それまで静岡の田舎で生きてきたわたしにとって、その重厚さと神聖さは初めて触れる経験だった。


縁あって京都大学に進学したわたしは、今度は下鴨神社のほど近い場所で生活することになった。

大学の休み時間や成人式•卒業式の前撮りなど、何度もこの神社に足を運んだ。

この神社のなかの橋の上で、何度もひとを待った。

上京して、京都に戻ってきたわたしは、またこの橋の上でひとを待っていた。(正確には、カメラマンさんがよい構図を撮ることができる場所に移動するのを待っていたのだけれど、ひとを待っていたことには変わりない)


時が流れ、わたしは歳を重ね、ともにここに来るひとも変わったのに、同じひと待ちの場所としてわたしはここを選んだ。

まだ薄い紅葉は、すぐに色づくだろう。あらゆるものが変わっていく。

だからこそ、そのなかに変わらず、ひとびとの心の拠り所としてあり続ける神社の荘厳さと静謐さに、わたしは惹かれてしまうのだ。










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