第31話 初ゴブリン

 リフレッシュした俺達は、福島を出て宮城県へと入っていた。


「千紗、ここらへんから魔物が多くなるんだよな?」


「はい。たぶん昔からあまり変わっていないと思います」


「わかった。気を引き締めて行こう」


 全体に注意するように告げて流れていく景色を眺めていた。

 たしかに流れていく家屋が損壊している家が多数ある。


「敵襲です! あれはいやらしい奴です! 小鬼です!」


 目を凝らしてみる。

 コイツが小鬼と呼ばれていたのか。


「コイツはゴブリンだ。そのまま突っ込んでひけ!」


「了解です!」


 ────ゴスッッ


 この装甲車ならその程度の衝撃には耐えられる。しかし、問題はここからだ。ゴブリンが高速に一体いたという事は……。


 目の前には道路を埋め尽くす程のゴブリンが。


「これじゃあ進めません!」


「今片付ける。止まるなよ!」


 左手を窓から出して指先に炎を出して大きくする。


「いけっ! インフェルノ!」


 素早い射出で放たれた炎は着弾すると瞬く間に辺り一面へ炎を広げていく。


 炭になったゴブリンを引きながら真っすぐに進む。


 第一弾はなんとか突破したが、あれだけのゴブリンがいたならアイツもいるはずだ。


「大きな奴がいます!」


「冬華と千紗は車で待機。絶対にドアを開けるなよ!」


「「了解!」」


 車が止まると降りて刀を構える。


「ギガガギガガガァァ」


「邪魔するなよ。それとコイツらに手出しはさせないぞ」


 道を塞いでいたのはゴブリンキングだ。

 コイツをまず殺す。


「雷斗! 素手でどれくらいいける?」


「俺の格闘術の訓練成績はDです!」


 A~Eまであり、Dはあまりよくない。というか先頭に向いていないレベル。


「必死に魔法撃て!」


「うっす!」


 どこから現れたのかワラワラとゴブリンがやってきて車に張り付いている。涎を垂らしている奴までいる。ゴブリンは色欲が強く、女性を言葉で表すのを憚られる状態にしてしまう。


「ライジングレイン」


 雷斗が手を翳した方向には細かい落雷がかなりの数落ちて行き、ゴブリンを消し炭にしていく。一個一個の稲妻の威力が上がっているように感じる。


「いいぞ。雷斗! いくぞ。クソヤロー」


 ゴブリンの上位腫など俺は胸糞が悪すぎて生かしておきたくない。


 炎を纏いかける。魔力の密度を上げて火力を上げる。


「ギギガガァァ」


 奴は持っていた斧を振り下ろしてきた。

 側面から蹴り飛ばして軌道をずらす。

 そしてもう攻める事しか考えていない。


青炎一閃ほむらいっせん!」


「ギギィ!」


 奴は腕で受けた。そして当たらなかったからだろう。こちらを嘲笑っている。


二閃にせん


 誰が一回で攻撃が終わると言ったのか。

 二回目の斬撃は奴の斧を持っていない方の手首を飛ばした。


三閃さんせん


 次の斬撃は腹を斜めに切り裂く。


四閃よんせん


 斧を持っていた腕を吹き飛ばす。


五閃ごせん六閃ろくせん七閃ななせん八閃はっせん


 バラバラ死体のできあがりである。

 その死体も燃えて消し炭になる。


「ライジングウェーブ!」


 雷斗も奮闘しているようだ。この数のゴブリン相手に良くやっている。なにせ、百は下らないだろう数いるからだ。


 俺も一気に片付けることにする。

 鞘に一旦刀を収めて魔力を溜める。

 鞘から炎が噴き出す。


「ふっ! 飛閃ひせん!」


 扇状に広がった青い炎の斬撃は目の前にいた数十体のゴブリンを真っ二つに切り裂き、そして燃やしていった。


 それでもまだ残っている。

 車にも張り付いているし。

 車のゴブリンをまず始末する。


 丁寧に一体一体切り裂いていき引きはがす。


「ライジングインパクト!」


 近距離用の魔法を開発したようだ。

 雷斗の成長が見て取れる。

 一体の腹に穴をあけていた。


「凄いじゃないか。俺も見せよう」


飛炎ひえん


 右手から炎が放たれて小さな燕のような火の粉の大群がゴブリンのいるところを通り過ぎると後には真っ黒い物しか残っていない。


 クイッと指を曲げると炎も同じように曲がり、自由自在に操っている。


「魔力コントロールが上がるとこういうことまでできるようになるぞ?」


「自分もやりたいっす!」


「魔力球の制御、ほどほどに頑張ろうな」


「うっす!」


 高速道路上にはもうゴブリンは残っていなかった。

 それを確認して車の方を確認すると千紗が半泣きであった。あれだけ近くであんな気持ち悪い物みたらそうなるか。


 雷斗と一緒に車へ乗り込み、発射してもらう。


「あんなの嫌ですぅぅぅ。生きた心地がしなかったですぅぅぅ」


「でも、出すわけにもいかんし仕方がないだろう? あれぐらいは我慢しろ」


 気持ちはわかるが、あれは仕方がない。

 外に出ていたら大変なことになっていたと思うし。

 冬華は後ろで布団にくるまっていたようだ。


 意外とあぁいうのはダメなんだなということが初めて判明した。気持ち悪いというかあぁいった率直な悪意に弱いのだろう。


 ただ、ここから先はそんなやつがゴロゴロいるような地域だ。今度は千紗も後ろで丸くならせてやろう。


 こんな時も身体に魔力を纏うのをやめない。


「自分の魔法どうだったっすか!?」


「あぁ。いいできだったな!」


 雷斗は少し照れくさそうに笑いながら、興奮した様子でこういった。


「刃さんの魔法には驚いたっすけど、わかりやすい目標ができました!」


「目標はあった方が良いと思ったからな。まだまだ魔力はあるか?」


「はい! この前訓練初めてから確実に魔力量は増えてます!」


「なら、ここからの魔物も一緒に排除するぞ!」


「うっす!」


 千紗がなんだか俺達の事を怪訝そうに見ていたが、気にしないこととした。


 (またウザいとか思ってんだろうなぁ)


 正解であった。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る