第28話 温泉行きたい!

 この日はとても順調な旅路であった。


「あっ! 福島県はいりましたよ!」


「おぉ。順調だな」


 白河という看板が見えた。

 東北に入ったな。

 もう少しだな。


「刃さんって、東北来たことあるんですか?」


「いやぁ。ないな。始めてくるよ。冬じゃなくて良かったよなぁ? 冬は雪が凄いんだろ?」


 どのくらい積もるのか知らないが、ニュースで見る東北の雪って言うのは凄いイメージがある。


「そうですねぇ。岩手はそんなでもないですよ。日本海側が凄いです」


「じゃあ、尚更よかったな? 今から行くとこ秋田だぞ?」


「そうですね。多分車だと進めなくなるところが出てくると思います」


 そんなに積もったら人も歩けないんじゃないのかと疑問に思うが、自治体で手配して除雪してくれるんだとか。


 福島まできたらもう一息だと感じていたんだが、千紗は違うらしい。


「福島だとまだかかりますねぇ」


「そうか? もう少しだと思ったが?」


「この魔物が出るご時世ですよ? しかも岩手に近付いて行っているのならなおさら、出てきますよ? ワラワラ」


 そんなに凄いのか。元々自然が豊かだから魔物が住みやすいのか?


「あっ。豊かだからとか関係ないですよ? 分布図見ました? 東北は青森、岩手、宮城が多いんです」


 分布図は俺もみた。秋田に魔物が少ないのを不思議に思っていたものだ。だから覚えている。この三県は激戦区だ。


「宮城入る前にまた一息つきません? 温泉とか……」


「千紗? 温泉に入りたいだけ────」


「────いいですわね! 温泉は是非とも入りたいですわ!」


 ここにもう一人いた。休みたい奴が。冬華もか。仕方ないな。


「あっ、はい! 自分も温泉入りたいなぁなんて思うっす」


 訂正。俺以外全員だった。


「じゃあ、温泉入ってから宮城に行くか。まぁそこからはきっとゆっくりできないだろうからな」


「やったぁ!」

「どこの宿にしましょうねぇ!」

「なるべく豪華な所に……」


「まぁ。好きな所でいいぞ。俺はどこでも」


 端末を見て後ろの二人が中心となって調べている。千紗が時々後ろを振り返るのが恐い。


「あっ! 飯坂……おん……せんなのに魔物です!」


 車を止めて降りる。

 俺達の目の前にいた魔物はデカいフレイジーベアだった。

 四つん這いで走ってくる。


「ライジングバレッド!」


 雷斗が魔法を面でばら撒いていく。

 煩わしそうにしながらも進むのを止めない。

 冬華が足を狙って魔法銃を放つ。


 片足に命中して貫通したが、唸り声をあげながら突進してくる。

 フレイジーの名前の如く狂乱状態のようだ。

 まともな状態ではない。


「しっ!」


 俺も炎の斬撃を放つ。爪でかき消された。そんなに弱い攻撃ではないと思うのだが。


 もう牽制している場合ではない距離まで来ている。


「仕方ない。フレイムボム」

 

 指先から放たれたフワリとした炎がフレイジーベアの身体に触れる。


 ────ドゴォォォオォンンッッ

 

 凄まじい爆音と爆風を発しながら爆発した。


 フレイジーベアに致命傷を与えたがまだ眼の光は収まっていなかった。


「もうくたばれ」


 首を切り離して絶命させる。


「やはり強いな。このままだと俺達の方がやられるかもしれない」


 このままだと魔王を倒した時の力を取り戻しても再び魔王が出てきたら勝てない可能性がある。


 仕方ない。やりたくないがあれを解禁しよう。 

 魔力を身体に纏わせた。


「あれ? 魔物倒したんですよね? なんで魔力収めないんですか?」


「鍛錬の一環だ。このままでは俺達は負けるかもしれない。魔力量を増やす鍛錬をすることにする。そして筋力も増やすよう鍛錬しないとな。辛いからやりたくないが、仕方がない」


「それなら! 自分もやるっす!」


 雷斗も身体に魔力を纏わせる。


「この状態を常に維持するんだ。後で教えるが、魔力球を浮遊させることで魔力コントロールも磨けるから集中できる時はそれをやるといいぞ」


「了解っす!」


 雷斗も鍛錬を一緒にすることになったのは嬉しい。やっぱりこういうのは一人でやるより何人かでやった方が、切磋琢磨して頑張れるからだ。


 先程の戦闘で気になったことがあったのを思い出した。


「そうだ。雷斗、さっきのライジングバレッドだがな、なぜあの魔法を選択したんだ?」


「さっきのっすか? あれは確実に当てて速度を落とすためっす!」


「たしかにその選択も間違いではないが、直線であの図体の魔物が来たら貫通力のあるアロー系を射出した方がダメージになると思うぞ」


 顎に手を当てて頷いている。


「なるほどっすねぇ。そうすれば、よりダメージを与えられると……勉強になるっす。刃さんのアドバイスはありがたいっす!」


「はははっ。そう言って貰えると俺も言いやすいよ。偉そうに何言ってんだ? みたいな態度とられたらおっさんはもうアドバイスしなくなっちゃうからな」


「自分はまだ未熟者っす! 教えて欲しいっす!」


 その向上心はいい事だ。俺も若い時はそうやって強くなって言ったものだ。


「その姿勢は大事だと思う。しかし、無理はしないようにな? 身体を壊しては元も子もないからな?」


「了解っす!」


「ねぇ! 早く行きますよ!? 温泉が待ってるんですから!」


 いい事言ってんだから少し自分に酔わせて欲しいものだと思いながらも、素直に車に乗り込む。

 魔力は纏ったままだ。


「えっ? 刃さんずっとそのままでいる気? 雷斗も?」


「そうだ」

「そうっす!」


「えぇ。なんか……ウザイ」


 痛烈なツッコミを受けて俺は鍛錬を止めようかと迷ってしまう。


 車は軽快に走る。

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