第22話 反省と冷静と

 近くが羽生インターだった為、そこを降りることにした。


 降りて東に進むとすぐ近くに大きな建物がある。

 そこならば少し休めるかもと思い車を走らせた。

 だが、そこは魔物の蠢く棲み処となっているようだった。


「この辺の地理わかるか!?」


 どこが安全なのかわからないこの状況では休むところを探すのが困難だ。そう思い問いかける。


「自分は、わからないっす。すみません」


「ワタクシもこの辺は来たことがありませんわ」

 

「そうだよな。すまん」


 ちょっと焦ってしまっていたかもしれない。

 焦ったって仕方がない。冷静に分析してこの辺りで潜めそうな所をさがすんだ。


 魔物どもは群れで住みついたりする。そうなると大きい建物の方が占拠されているのだろう。


 まっすぐ走っていると突き当りに当たった。

 右に行くか左に行くか迷ってキョロキョロしていると、正面が神社であることに気が付いた。


「神社なら……」


 中へと入っていく。

 魔物は食糧があるところに住み着いたりすることが多い。

 本堂であれば何もないだろうから、魔物はいないと思った。


 前に車を止める。


「俺は中を見てくる。当たりの警戒を頼む!」


「了解っす! 気を付けてください!」


 少し夕日の傾く中、ゆっくりと本堂を伺う。

 戸を引いて開けると中は空っぽだ。

 魔物が発生してから百年以上経っている。


(そりゃ移動する選択もあるわな。とくに何もいなさそうだな)


 車に戻ると知友ちゆうを運び入れる。そして持ってきた毛布をかけて、太陽光発電のライトを上から吊るして戸を閉めた。


「これで魔物に気付かれることはないだろう。今日の所は休憩しよう」


「はい……。あのっ! 本当にすみませんっす。自分の判断が遅かったばっかりに……」


 そう言って地雷ちらいはうな垂れた。

 俺もそんなことがあったなぁと昔のことを思い出す。


「判断が遅い失敗は俺にも経験がある。異世界にいたころ。若い時だった」


「武藤隊長にも失敗が?」


 少し顔を上げて上目遣いで見てくる。

 その顔はどこか驚いた様子だった。


「そりゃあるさ。あの時は魔物を倒すことが恐くてなぁ。迫りくる魔物相手に殺すのをためらっていたんだ。そしたら、狙われてな。一緒について来た兵士が庇って傷を負った」


「その兵士は?」


「重症だった。一命は取り留めた。その時の殺すという判断が遅かったから、ためらったから起きたことだった。後悔したんだ。そして魔物に対しては二度とためらわないと決めた」


 地雷は胸をなでおろしたようだった。


「魔法はタイミングが難しいと思う。あぁいった素早い魔物には面で当てる方が避けられない」


「なるほど」


 頷きながら俺の言葉を呑み込んでいるようだ。


「ワタクシも当たらなくてご迷惑をかけましたわ」


「いや、あの場面でよく掠らせた。あれで少しスピードが鈍ったと思う。よくやったさ」


 円鬼も落ち込んでいるようだ。少し慰めたが、下を向いたまま指をイジイジしている。

 まぁ、わかってはいる。

 そんな慰めは意味がないという事を。実績は結果が全てだ。よくやったと言われても、仕留められないなら意味がないのだ。


「暗くなってしまうな。飯を食おう。保存食だが」


 干し肉と干し芋を出して齧りながら水分も補給する。


「知友さんは大丈夫っすかね?」


 知友を見ると寝息をたてている。

 恐らく体力を回復するまでは眠り続けるだろう。


「俺もこの状態になったことがあってな」

 

「そうなんすか!?」


「あぁ。その時は半日くらい寝ていたらしい。目を覚ませば元に戻るから大丈夫だと思うがな」


「ならよかったっす」


 地雷は肉を齧りながら少し顔を綻ばせる。少し安心したようだ。


「隊長は落ち着いておりますわね?」


 円鬼は俺に実戦経験がないのにと不思議に思ったのだろう。


「話しただろう? 異世界に居た時の経験があるからな。しかし、さっきのどこか休める所がないか探しているときは焦ってしまったよ」


「ふふふっ。たしかに焦ってましたわね。誰も地理をしるわけがないですのに」


「はははっ。そうだよな。」


 知友は岩手出身、地雷は千葉、俺と円鬼は東京なので埼玉のこの辺の地理は詳しくなかったのだ。


 それでもあの時口に出してしまったのは、誰かが知っていればとダメもとでの問いだった。


「自分は近くまでは来たことあったんすけど、この辺りは知らなくて……」


「いや、いいんだ。俺が冷静じゃなかった。実戦で大事なのは冷静にいることだと思っている。冷静に物事を見極めるんだ。そうすれば必ず突破口はある。諦めたら、それは死を意味する」


 二人の目を見て、俺が今まで培っていた一人生分の人生で得た教訓をこの二人にも伝わるように心で目で訴える。


「「はい!」」


「また説教臭くなったな。すまん。そんなに歳が離れているわけではないのには」


 そう言って頭をかいていると地雷が口を開いた。


「武藤隊長、依然とやっぱり雰囲気変わったっすよ」


「そうか?」


「はい。なんか存在の重厚感が増したというか。歳を重ねた感があるっす!」


「そうか。記憶が甦ったことでじぃさんになったのかもな。体は大人、頭脳はじぃさんってな」


「はははっ! どっかのアニメキャラみたいっすね!」


 そんな冗談を話しながら、一夜を明かしたのであった。

 

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