第20話 壁の外は森だった

 異世界化が起こってからもう百年経っているというのは本当なんだろうなと、目の前の光景を見ると実感した。


 森林の様相を呈していた。辛うじて道路があるが、周りは草木に覆われ家だったであろう物も朽ち果てている。


「なんか、こっち凄いですね?」


 千葉に行った時より埼玉方面に出た時の方が異世界化は進んでいる。


「そうだな。魔物が多いからか?」


 調査した時に見た分布図はたしかに東京より北側の方が多かった。だが、それも変わっているかもしれない。


 なにせ、あの分布図は初期の物で、魔物が多すぎて細かく載せるのをやめていたのだ。だから、今はもっと分布が広がっていたり移動しているかもしれない。


 遠くを見ると大きい猿のような生き物が森を闊歩している。ここから先は魔境の様だな。これだから、中々他の基地と交流ができないんだ。


「あっ! なんかめっちゃ見られてます!」


 住宅だった建物の上や木の上から注目されているように感じる。


「なにか来るかもしれない。警戒しろ!」


「はい!」


 そのまま道路を真っ直ぐ運転していると突如として横から車が出てきた。


 ────キィィィィィ!


 急ブレーキをかけて止まる。


(急に出てきて何だ? 何が起きた?)


「この車、人が乗ってません!」


 目の前の車にはツルが着いていたりして運転できる感じの車ではなかった。もう故障して何年も経っているという感じ。


「敵襲! 総員外へ!」


「「「はっ!」」」


 車をおりて臨戦態勢に入る。

 車のを後ろから何者かが押したんだろう。

 近づいていき後ろを見るが誰もいない。


 上を見ると木の上から見下ろされていた。

 囲まれている状態のようだ。


「囲まれてるぞ!」


「ギギィィィ!」


 一斉に飛び降りてきた。


「迎え撃つぞ!」


 魔法銃は三秒後にしか発射できない。

 咄嗟には無理だ。

 魔法もタイムラグある。

 俺がやるしかない。


「おおぉぉ!」


 炎を纏い、横薙ぎに刀を振るう。

 何体か負傷したようだ。


「コイツらはスパイダーエイプだ!」


 蜘蛛のように森に巣を作り入り込んだ獲物を捕まえて食べるという魔物。


「群れで行動するから、一気に殲滅できる! 魔法用意!」


「はっ!」


 地雷が返事をすると魔力を溜める。


「ふっ! はっ!」


 炎の斬撃を負傷したらしきスパイダーエイプに放ち、とどめを刺す。


「ライジングボルト!」


 太い稲妻がスパイダーエイプたちを感電させる。そこに円鬼の魔法銃も追い打ちをかけた。


 最初に襲ってきた群れは片付いたが、違う群れが来た。

 正面からバラバラに襲いかかってくる。


 右から、左から、上から。

 刀で全部捌き切り刻んでいく。

 時には受け流し、時には蹴り飛ばし。


「隊長! 一旦下がって!」


 その言葉を受け下がる。


「ライジングボール!」


 何個もの雷の球が猿共に襲いかかっていく。何体か打ち漏らした。


「甘いですわ!」


 そこに更に魔法銃で攻撃していく。

 この群れも片付きそうだ。

 だが、その後ろからも別の群れが来ている。


「ここはスパイダーエイプの街だったみたいだな。これはキリがないぞ! 知友、車に乗れ!」


「はい!」


 知友は走って車に乗り込んだ。

 邪魔になっている車の前に立つ。

 魔力の出力をあげる。


「オラァァァァ!」


 ────ドガァァァァンッッ


 蹴り飛ばした車がこちらに向かっていたスパイダーエイプの方に吹き飛んでいく。

 続々と群れが迫ってくるのが見える。


 このままじゃ埒が明かないのであれをやることにした。


「地雷! 円鬼も乗るんだ!」


「「はっ!」」


 車に二人が乗り込む。その間俺は魔法で応戦する。


「ファイヤーアロー!」


 十数個でた炎の槍が飛んでいく。


「ファイヤーストーム」


 炎の渦がスパイダーエイプを焼き焦がす。


「おしまいだ。インフェルノ」


 周囲一体に青い炎が広がり焼き尽くす。

 その炎の効果があるうちに車へ乗り込む。


「よしっ! 走るぞ! キリがないからな!」


「は、はい!」


 知友は身を見開いて固まっていたが、俺の号令で意識が覚醒したのか前を向いて運転しだした。


 森のようなエリアを抜けると広い草原と道路のみのエリアになった。


(ふぅ。なんとかさっきの奴らは抜けられたみたいだな。しっかし、出てそうそうにこれだと先が思いやられるな)


「あの、隊長って遠距離魔法も使えたんですか?」


 知友がモジモジしながら聞いてくる。

 なんでこんなモジモジしているのかはかなり疑問だ。


「あぁ。魔力を消費するからあんまりやりたくないんだけどな。今はまだ魔力量はそこまで多くない」


「い、いやー……カッ……たなぁ」


「ん? なんだ?」


「なんでもないです!」


(最後の方がよく聞こえなかったが、まぁ悪いことを言っていたようではなかったな。それなら、いいか)


「そうか。前に注意して進んでくれ! 魔物がどこから出てくるか分からんからな!」


「はい!」


 後ろの二人は静かだった。

 少し気にしていると声を掛けられた。


「隊長の最後の魔法。あれって最上位魔法ですか?」


「いや、上位魔法だな」


「あれで、ですか……」


 落ち込んだような声色だったので気になった。


「どうした?」


「あははっ! いえ! 自分はあそこまでの大規模魔法をまだ行使できないんです。それでちょっとへこんじゃいました」


「そういうことか。属性ごとにできる魔法とできない魔法がある。雷は大規模な魔法には不向きなんじゃないか? 単体特化の様なイメージがあるぞ?」


 俺は自分の思ってきたことと異世界での経験を元に話した。


「そうなんです。広範囲の魔法ができなくて……」


「細かい雷を雨のように降らせるイメージはどうだ?」


「……それなら……それならいけそうです!」


 これで地雷も少し成長するだろう。


 このパーティは伸びしろが多い。化けるぞ。

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