第10話 牛鬼討伐へ出発

 いよいよ、討伐作戦決行の時がやってきた。

 大きいリュックにある程度の衣類と食料を入れて作戦に望む。


 現在の基地の位置が旧日比谷公園である。

 そこから千葉の方面へとジスパーダ専用車両で行く。

 中は運転席、助手席がありその後ろは向かい合わせになるように縦に椅子が設置されている。


 軍用車をイメージしているのではないかと思う。


 標的がいるとされているのは久留里という土地の近くの山中に潜伏しているとされている。


 前回もそこへ行き索敵したようだ。


「みんな準備はいいな?」


「「「はっ!」」」


 俺は助手席に乗り、非戦闘員である治癒部隊の女性隊員が運転を担当する。


 各主要都市の周りには城壁が設けられている。それを抜けるとどこから魔物が襲ってくるかわからない。


 城壁の中は比較的安全と言っていい。皆が雑談を始めた。


「そういやぁよぉ。武岩総長と武藤隊長は戦ったんだろう?」


 そう切り出したのは魔法銃部隊のヤンキーモドキだった。


「えぇ。凄まじい戦いでしたよ。僕はそれを見て武藤隊長に付いて行こうと決めました」


「ヒュー。見たかったぜぇ」


 幸地ゆきじがそう答えたのに対して歓声を上げるヤンキーモドキ。

 その歓声を受けて気分が良くなったのか、幸地が饒舌になった。


「武岩総長は刀を片手でもって戦っていました。流石のパワーでした。でも、武藤隊長も負けていなかった。両手ながらも素早い刀捌き、隙ができた腹に蹴りを叩きこみました」


「おぉーマジかよぉ」


「そこからが凄かったですよ。武岩総長は魔力を開放しました。そして稲妻を滾らせながら武藤隊長をいったん遠ざけたんです。しかし、武藤隊長も魔力を開放しました。なんと青い炎だったんですよ! その火力っていったら凄まじく! あの頑丈な床を破壊する踏み込み! あの炎の斬撃を放ちながら刀を叩きつけたんです!」


「あついな! まさか勝っちまったのかぁ!?」


「両者の刀が砕け散ったんです。ですが、武岩総長の頬は斬撃が掠り、血がにじんでいたんです。どうです? 熱くなりませんか!?」


「激熱だな!」


 そう言って二人が興奮気味に話しているのを微笑ましく周りの者たちは眺めていたそうだ。


 俺は顔から火が出るかと思う位、顔が熱くなって大変だった。

 隣の治癒部隊の運転手がニヤニヤしながらこちらを見ていたのもむず痒かった。


「隊長すごいですね?」


 そう言って俺をからかってくる。

 城壁の中にいる内はこのくらいの緊張感の方がいいのだろう。ずっと緊張しっぱなしでは集中力がもたないからな。


「勘弁してくれ」


 俺は外に目をやり、照れ隠しでそう言った。

 外の景色は向かいとは変わり構造ビルはほぼ壊滅していて街は昔とは大分様相が違う。過ぎ去っていく建物は倒壊していたり補強されていたりと魔物による被害の復興は未だに進んでいないことを物語っている。


 異世界化して百年だ。徐々に浸食が進んでいるとされている中、科学技術も廃れてはいない。医療分野は発達しているし、バイオテクノロジーも進化を遂げている。今の研究は人工的に魔人にすることができないかという研究がなされている。


 魔人戦闘部隊の称されている国が作った機関なのだが、生産部隊と治癒部隊にしか魔力がない人間、無人はいないのだ。


 魔人の人口は世界人口の約一割とされている。この現象は世界的に起こっていて一時異常気象やら何やらで地球の約四割が水に沈んだり更地になったりしたのだ。その後起こったのは魔物の発生であった。


「壁をでます!」


「気を引き締めろ!」


「「「はっ!」」」


 東京の城壁を通過する。この時検問がありジスパーダの車両だった為、そのまま門を開けてくれて素通りだ。


 城壁を通過するとまた一気に周りの様相は変化する。

 ボロボロの住宅は森林化していて草に覆われている。

 そして道路もひび割れ、所々から木や草が生えているので走りづらいのだ。そこをうまく走ってくれているようで振動はそこまできにならない。


 少し先に道を塞いでいる者がいる。

 黒く蠢く狼のような魔物だ。


「ストップ。敵だ! 刀剣部隊は降りるぞ! 魔法銃部隊と遠距離魔法部隊は待機。魔力を温存する。」


「「「はっ!」」」


 号令を出して車両から降りて即座に武器を構える。


 俺達を敵だと認識したようで五体ほどのブラックウルフがこちらに歩みを進めてくる。


早波はやな、自慢のスピード見せてくれ」


「あいよ! アタイのスピードを目で追えるかな!?」


 俺のオーダーに魔力を纏い一気にブラックウルフに肉薄する。

 セオリー通り足回りから攻めている。

 ブラックウルフもピョンピョン跳ねながら避けているが、それを上回る速度でもって機動力を削いでいる。


幸地ゆきじ、決めてこい」


「はっ!」


 幸地の属性は地属性だ。補助的な魔法が多いのは特徴として知られている。どうやって活用するのかは楽しみだ。


「アースバインド!」


 足を切りつけられて固まっているブラックウルフを地面に縫い付ける。

 その後は冷静に首を落としていく。


「魔石とっておけよ?」


「はい!」


 幸地が慣れた様子で胸の辺りに刀を突き立てて魔石を取り出す。ジスパーダでの実戦訓練がしっかりと身についているようだ。


 魔石を使用した魔装置なる物を開発中なのだ。異世界の魔道具的な位置づけだろう。


「アッシにも出番くださいよぉ!」


「今回はアイツらが適任だった。デカいの来たら頼むぞ」


「はい!」


 討伐作戦は順調に進んでいる。


 このままうまくいくといいのだが。

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