第8話 討伐隊結成

 隊長の交代の儀式のようなものを終えて大会議室に戻ってきた俺だったが、他の隊長にどう思われているかが不安になっていた。


「他にじんの刀剣部隊隊長就任に文句がある奴はいるか?」


 武岩総長が目を瞑りながら面倒臭そうにそう口を開いた。


「「「「問題ありません」」」」


 総意で問題ないことがわかったので胸をなでおろす。


「あのー、俺はもういいですか?」


 手を挙げたのは生産部隊隊長の皇佐さんだった。

 皆が方眉をピクリと上げる。

 みなさんこの人の事を良く知っているようだ。

 この会議が面倒になったのだろう。


「生産部隊はもうよい。有真も、もうよいぞ」


 すると有真が手を挙げている。


「あの、刃さんが兼任することになって刀剣班の製造に我々の魔銃班から人が取られることはないですかね?」


「あぁ。今の所、それはない。刃はすでに私と同等かそれ以上。底が見えん。この討伐任務が終わったら製造しつつ部隊員と交流を深めるくらいになるだろう」


「わかりました。それならば問題ありません」


 細かいことが気になる性格の有真らしい質問だな。


 二人が退席すると今後の話になった。


「前回は刀剣部隊から一パーティで討伐へ向かったな? 今回はどうする? リーダーは刃とするが」


 武岩総長が前回の問題点を踏まえて皆の意見を取り入れようとしているようだ。

 魔銃部隊の隊長である飛田さんが手を挙げる。


「そもそも人を増やしたところで済む問題なんだろうか?」


「比重の問題かと思います」


 その疑問には俺が答える。異世界での戦闘経験を活かした意見はあった方がいいだろう。


「どこに人数をかけるかということか?」


「そうです。今回の場合、牛鬼といわれる魔物ですが、私の記憶の中に似たような魔物が居ます。そいつは、近接戦闘を得意とする魔物のはずです。なので、刀剣部隊隊員は一パーティでいいです」


「なるほど。魔物に関する知識もあるのだな?」


「はい。役立つと思います」


 コクリと頷くと先を促された。


「他の部隊ですが、魔法銃部隊、遠距離魔法部隊、治療部隊はそれぞれツーマンセルでお願いしたいです」


「なぜ二人なのだ?」


 その疑問はごもっともだった。遠征に行く場合は、人数は少ないなら少ない方がいいのだ。それは、食料が少なくて済むから。それをなぜ二人必要かというと。


「一人だと判断が遅れた際にカバーできる人員がいません。そのミスが命取りになります。しかし、カバーできる人がいれば心強いし不安も解消されやすい。それが利点です」


 そう説明すると武岩総長が口角を上げながら口を開いた。


「これは元軍人の人間であればよく知っていることだが。ジスパーダではその考えは浸透していないな。パーティが基本だからだ。これから取り入れて行こう」


 各々はコクリと頷いた。

 こういう時に軍とは違うんだなと痛感する。

 この知識は異世界の軍の人間に教わった知識だ。


 現代でも異世界でも、どちらも軍の動きを追及していくと同じような答えに行きつくのだなとその時に感心したものだ。


「俺の知識が役に立ちそうなときはどんどん言って行きます。生意気なことを言う事もあるかと思いますが、お許しください」

 

「いや、我々は魔物の知識があるにはあるが、未知のものがでてくるといつも犠牲を伴う。それが安定して狩れるようになるのならば喜ばしいことだろう」


 飛田さんは話が分かる人みたいだ。

 みんなも頷いているところをみると同じような意見のようだ。少し安心した。話が通じないのはアイツだけだったようだ。


「二人ずつの選抜は任せます。俺は鎖那の選んだ人員を見極めることにします」


「「「了解」」」


 そういうと各部隊長は部屋から出て行った。

 俺だけ残っているのは鎖那を待っているからだ。


 ────コンコンッ


「入っていいぞ」


「失礼します!」


 入ってきた人を見て俺は思わず目を見開いてしまった。


「意外ですか?」


 鎖那の問いに自分が恥ずかしくなった。

 だが、驚いたのは事実だ。まさか。


「いや、すまんな。まさか選抜メンバーに女性が入るとは思っていなかったんだ」


 素直に謝るとその女性はニコリとした。


「いいよです。そういう反応になるかと予想はしてた、ました。しかし、アタイの速さについてこれる人はいないです! 速王そくおう 早波はやなです!」


「なるほど。いや、実力を疑っているわけではない。鎖那が選んだんだ。信頼している」


 たしかにスラリとした体に見えるが足の筋肉はしなやかに発達しているようだ。ふくらはぎの盛り上がりとお尻の筋肉の付き具合がそれを物語っている。


「そんなにアタイの下半身が気になんのか、ですか?」


 目を細めて怪訝な顔で見られてしまった。悪い癖が出てしまった。筋肉を観察してしまうんだよな。


「すまん! 筋肉の付き具合を見て納得しただけだ。他意はない。あと、無理に敬語を使わなくてもいいぞ」


 そういうと「あぁ、よかったぁ」といって引き下がった。この女性も自己主張がちゃんとできる人のようだ。

 もう一人はマッチョで大柄な男性であった。少し年齢はいっているようだが。


「アッシにスピードはないですが、パワーがあります! 力仕事は任せてください! 金剛こんごう 力也りきやといいます!」


「あぁ。頼りにするさ。鎖那に任せてよかった。バランスがいいな。流石だ」


 鎖那を見据えて褒めると、鎖那は目に力を込めた。


「ボクは、天地さんに憧れてこの部隊に入りました! 討伐隊に選んで頂いて有難う御座います!」


(そうか。天地に憧れてか。いい後輩をもっているな。この目を見る限りかなり強い思いでこの任務を全うしてくれるだろう)


「あぁ。共に牛鬼を討とう! 期待している!」


「「「はっ!」」」


 こうして討伐隊が結成されたのであった。

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