第40話 脱獄成功と新たな刀

 二つ首のドラゴン─────その残った首は非情だった。その場で一回転する。


 そうなると、失神しているドラゴンの首が鞭のように撓り、景虎への攻撃となった。


「むむむ! なんて無慈悲な攻撃方法でござるか」


 避けながら発した景虎の言葉。それをドラゴンは「フン」と鼻で笑った。


「仲間意識と言うか、同一個体でござろう?」


 だが、ドラゴンは……魔物という存在は弱肉強食。仲間意識はあっても、利害関係以上の感情はないのだろう。


 ドラゴンの魔力が口内に集中していく。


「ブレスでござるか!」と回避に向けて駆け出す景虎。


 しかし、それは灼熱のブレスではなかった。 絶対零度のブレス。


 しかし、威力は低い。その反面、攻撃範囲は広い。


 なぜなら、その目的は景虎の命ではないからだ。 


「極寒のブレス。拙者の機動力を低下させるのが狙いでござるか!」


 急激な体温の低下は生物の運動能力を低下させる。


「拙者は、毒などの異常効果を無効する体質。……とは言え、寒さによる体の強張りまでは防げぬ」


 有村の技。その鍛錬は、人間の進化にも等しい。


 生まれた時からの鍛錬に加え、ダンジョン大名としての400年の叡智。


 通常の人間なら致死量の毒でも、景虎は無効化する。 


 しかし、生物である以上、寒さに耐えれるにも限度がある。


 極僅か……ではあるが、見てわかるほどに景虎の動きが鈍る。


 それをチャンスと捉えたドラゴンは、牙と爪を振るい。 隙を見ては飛び上がり、その巨体で圧し潰そうとしたり、足で踏み潰そうと攻撃してくる。


「これは流石に不利……やはり、竜を殺すならば狙いは喉元に限るでござろう」


 景虎はドラゴンの弱点を狙う。


 逆鱗……その名前の通り、喉元についている逆さについている鱗。  


 ドラゴンの落下攻撃。 何度と繰り出された攻撃なので、タイミングを絞る。


 ギリギリで避ける。 その衝撃波が景虎を襲うも――――


「ここは強引に行かせてもらうでござる!」


 ダメージを受けながら、景虎は目前で通過していったドラゴンの足を蹴る。


 攻撃を与えるのが目的ではない。 足を蹴り、ドラゴンの体を駆け上がるためだ。


 2歩、3歩……まるで階段を大股で進むように――――


 しかし、ここで異変が起きる。 


 最初のドラゴン。後頭部を痛打して、失神していた最初の頭部が目を覚ました。


 その瞳には怒りが滲んでいる。 そして、錯乱をしているかのように、景虎を襲い始める。


「ぬっ! 自分の体を傷つけようとも、お構いなしの様子でござるな」


 ドラゴンの牙が景虎を襲う。 景虎も目的を切り替えて、飛び掛かる。


 交差する両者。 景虎の小刀はドラゴンの喉に――――逆鱗に突き刺さった。


「GARRRRRRRRRRRRLLL!」と断末魔がドラゴンの口から発せられる。


 ドラゴンの体は神経で通じているらしい。もう1つのドラゴンの頭も膠着している。  


「その隙――――逃すはずもない!」


 絶命したドラゴンの首を蹴り、方向転換。 最後の首も景虎の小刀によって、逆鱗は貫かれた。


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・・


「ドラゴンを倒したのは良いが……すぐに気温が戻らないのは辛いでござる」


 あまりの寒さに、耐えきれなかった景虎。僅かでも体温を上げようと、自身の体を抱きしめると、その場で足踏みをする。


「この場に留まっても、寒さで体力が削られるだけ。すぐに移動を――――」


 そこで彼は気づいた。 討伐したドラゴンの体が消滅していない。


 本来、ダンジョンで討伐された魔物は、霧散する。 それが残っているのならば――――


「何か、残っている? 貴重な素材か、あるいは……」


 景虎は、ある伝説になぞらえてドラゴンの尻尾付近を観察する。


 よくある話だ。 討伐したドラゴンの体から伝説級の武器が手に入る。


 ……いや、よくよく考えてみれば、どうしてドラゴンの体に金属が、


 ――――それも通常ではあり得ないほどの名刀があるのか?――――  


「なかなか、納得できない事ではあるが……よっ!」とかけ声と共に小刀を振る。


 ここは、やはりと言うべきだろうか? 金属音と共に景虎の振った小刀が折れた。


「むっ……これは?」と唖然とした景虎だったが、すぐに尻尾部分に手を差し込んだ。


 そこにあったのは――――


「ほう、これはちょうど良い。拙者に取って必要な物と言えば、これでござろう」


 大型の刀があった。 それを手に取り、振る。


「なるほど、これは妖刀の部類。それも、相当なじゃじゃ馬と見た。これを従えには骨が折れそうでござるな」


 しかし、すぐに――――


「もしや、これは偶然ではなく……」と景虎は気づく。


 ここを進むように言ったのは兄上――――有村正宗であった。


 もしや、この刀の存在を知っていてもおかしくはない。 なんせ、ダンジョン大名の当主である正宗が、このダンジョンを調査していないはずもない。


「ふむ」と考えながら、道を戻る。 帰り道は容易……地下牢となる檻を前にたどり着いた景虎は――――


 手に入れたばかりの剣を「フン!」と走らせる。 


 堅固なはずの檻は切り裂かれた。


「さて、次は――――取り戻すか。拙者の魔剣『日向守惟任』を」 


  


  

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