第34話 決着 織田信長との戦い

 ポタポタ……と規則正しく落ちる水滴の音で景虎は目を覚ます。


「はて? ここはどこでござるか?」


 足は冷たく、石の床。 寒さの原因である隙間風……というよりも風を防ぐ物がない。


「僅かな光源は、ロウソクでござるな。それに鉄の檻……どう考えても地下牢でござるが、この懐かしさは、どこから?」

 

「う~ん」と景虎は頭を捻る。


 なぜ、自分が地下牢なんかに閉じ込められているのか?


 記憶を探り始めると、織田信長との戦いに行き着く。


「あれは、確か……」


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


 轟音と閃光に包まれながらも、景虎は声をはりあげる。

 

「光秀どの、あの武器は? なぜ、こちらと同じような力を?」


「……わかりませぬ。織田信長の力、この光秀の知見を持ってもわかりませぬ」


「くっ────」と景虎も視界と聴覚を失う。


 光が消え、音が戻った頃。


「2人は? 景虎と信長はどこに消えたの?」


 青月ノアは、消えた2人の姿を探す。

 残された3人、青月ノア、光崎サクラ、そして坂本竜馬。


 彼らの目に2人は消滅したように見えた。


 事実、深く刻まれた戦いの痕跡。ダンジョンそのものが破壊されんとばかりに────


「あそこを見て! 浮いてる!」


 それを見つけたのは光崎サクラだった。彼女の言葉通り、指を向けた先には、織田信長が宙に浮かんでいた。


「か、体を浮き上がらせて、維持できるほどの魔力? どれくらいこ鍛練が……待って。それじゃ景虎は?」


すぐにノアは景虎の姿を見つけることになる。それは────


「天井に張り付いている。それも魔力なしで!」


 彼女のいう通りだった。その姿はトカゲのように、手足の四本で天井に張り付いていた。


 単純な腕力……と言うよりも未知の技。 なんらかの技術によるものと言った方が、まだ説得力があるだろう。


 互いの様子を比べると────


 織田信長は、黒い煤による汚れが目立つ。


 とは言え、元々の姿が崩した着物姿……損失はなしと言い切れるほど。


 一方の有村景虎のその姿────


 端的に言って、ボロボロであった。


 身に着けていたはずの赤い防具。当世具足は、砕け散り────なにもり、彼の代名詞であった巨大な日本刀には、損失があった。


 ノアたちの離れた位置からでも、わかるほどの亀裂。それが何本も刀に走っている。


 それを両手に構え直した景虎。


 すな、両手を天井から離した姿は、まるでコウモリのよう。二本足で逆さま姿で立っている。


 こともあろうか、天井を駆け出した。


 妖怪か、何かであろうか? おそらくは意識も朧気……代わりに、鬼の如し表情が顔に張り付いていた。

 

 もはや、人を捨てたとしか思えぬ有村景虎。


 それと対峙する織田信長の心中はいかほどか?


 ただ、彼は迫り来る悪鬼羅刹を前に────


「美しい。まるで艶姿ではないか」


 何が美しいものか! 何が艶姿か!


 織田信長は抱き締めるかのように両手を広げ、ただ無防備な姿をさらけ出す。


「この身は、すでに天意と共にあらん!

 ならば、我を打ち捨てる者は人の意思を越えた者なり! すな、それこそ真の武士道と心せよ!」


 凶刀を前に意味不明の言葉。 もはや錯乱すら疑われる織田信長であった。


 そして、景虎の太刀が信長が切り裂く。


 そう思われた次の瞬間。 彼の振る日本刀は限界を向かえ、金属が割れる音と共に霧散していった。


 サムライの象徴たる刀を失う。それと同時に、無意識に彼の肉体を突き動かしていた精神にも限界が訪れたのだ。


 高いダンジョンの天井からの落下。 意識を失い、受け身もままならない体。


 このままでは、景虎の死は免れない。 そう思われていたが――――


 次の瞬間に異変。 閃光と爆音と煙幕…… ちゅーどん!


 先ほどの火縄銃の撃ち合いとは違う衝撃がダンジョンを襲った。


 何が起きたのか? 理解できたのは、この場では織田信長だけらしい。


「これは、煙幕――――閃光弾の部類か? なるほど、奴が来たか」


 姿が見えなくなった景虎。 しかし、彼の体を地上で受け止めた影が辛うじて見えた。


 影は、そのまま景虎を担いで消えていった。


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


「う~ん」と途切れ途切れの記憶が繋がらない景虎。


 どうやら、自身の敗北。そして、何者かに命を救われた事だけは理解できた。


「しかし、あれが『尾張将軍』織田信長……まさに高みでござったな。今度、戦う時には――――あっ!」


 景虎は慌てて周囲を見渡した。 彼が――――いや、全てのサムライが、己の命と見立てるほど大切な刀。 あの戦いで破壊されたのは記憶に残ってはいるが……


「ない! 拙者の刀が! えぇい、ここから出せ。すぐに刀を!」


「――――うるさいぞ、黙れ」と声。 牢屋の外側から声と共に男が姿を現した。


 その男は――――


   

 

 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る