第33話 激突? 織田信長?

 

 その頃、ダンジョン庁ではパニックが起きていた。


「えぇい! ノアも配信中だという事を忘れているのか! こちらから、電波の遮断を――――」


 蒼月猛は部下に命令を下そうとする。しかし、答えは――――


「ダメです。妨害電波が弾かれます」


「こちらで配信を止めれないのか! ならば、視聴者数はどうなっている?」


「既に同時接続者数……100万人!?」


「馬鹿な! 桁を間違えてないか? 10万人でも多すぎるぞ」


「い、いえ、まだ増えています。200万が見えてきています」


「何が、起きてる? こんな時にバズりおってからに! 視聴者のコメントを寄こせ!」


 蒼月猛のサブのノートPCにコメントが流れて来る。


『あれが織田信長? やっぱり、本物か?』


『もう陰謀論じゃ誤魔化されないぞ! 本物の侍がいる』


『いやいや、それじゃダンジョンの奥は戦国時代なのか? ダンジョンはタイムマシンか?』


『坂本竜馬や沖田総司は江戸時代だよ』


『うるせぇ!お利巧さんがよ! そもそも誰も知らないだろ? ダンジョンの最奥なんてよ!』


 バターンと音を出して、ノートPCを閉じた猛だった。


「と、とても見るに耐えれないわ。通信を繋げ!」


「それがダンジョン内に通信は……」


「そうじゃない。あちら側の外交官に……だ!」


「長官、落ち着いてください。外交官は坂本竜馬です? 現場にいるのだから、連絡は取れません」


「えぇい! そうだったわ!」と机を殴りつけながら、


「外交も、密約も、向こう側の首相である信長本人が来てはどうしようもない。しかたがない。機密開示を――――総理に連絡を取ってくれ」


 蒼月猛は、疲れ果てたように椅子に座り込んだ。


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


 織田信長だ。織田信長が立っている。


 闘気? オーラ? とにかく、見えないはずのエネルギーが彼の体から湧き出ているのがわかる。


 とても500年間生き続けていた人間とは思えない若々しさ。


 まだ20代……いや、10代だろうか? 


 着崩した着物。髷は無造作に、荒縄で縛っている。


 腰に帯びた刀。 それと並べるように火縄銃を腰に刺している。


 『うつけ』と言われていた時代の恰好なのだろうか? しかし、その顔は女性のように美しい。



 その立ち振る舞い。 全てを威圧するかのようであり、自然と彼を評する言葉――――


 第六天魔王


 ――――それが思い浮かぶ。


 誰も動けない。 有村景虎も、蒼月ノアも、彼の腹心であるはずの坂本龍馬だって……


 しかし――――


「ほう、それほど憎いかよ? この俺が」


 織田信長は有村景虎に向かって言った。


「……なにを?」と言いかけて、彼自身も気づいた。 


 自分の意思とは異なり、腕が勝手に動き始めているのを――――


「こ、これは! お前の仕業か? 光秀!」


 景虎が手にしている火縄銃。 彼自身も無意識に掴んでいた。


 いや、もはや景虎の体を明智光秀が操っていると言えるのだろう。


 王殺しの魔剣――――『日向守惟任』


 それを手にしている景虎の腕には、何かが――――まるで木の根のような物が、皮膚の下に入り込んでいる。


 浸食である。 明智光秀が、彼の魂を封印されている『日向守惟任』が、持ち主である有村景虎の体を支配するかのように浸食を開始していた。


「おぉ、主人を操ろうとする姿。それは、まさに魔剣の振る舞いではないか光秀!」


「言うまでもなく――――憎い。あなたが憎い……織田信長!」


 呪いの言葉が、景虎が手にした火縄銃から飛びだす。


 景虎は、自身の肉体が浸食されていく苦痛から呻き声が漏れていく。


「光秀……お前、俺を――――」


 彼は左の手に刀を握った。 光秀に浸食された右手に刀を振り落とそうとする。


 しかし、それを止めたのは、他ならぬ彼自身の意思だった。


「……景虎どの?」


「いいぞ、光秀。 自ら選び仕えた主君を裏切ったのござろう? 余程のことがなければ裏切らぬ。ならば、拙者も――――最後まで付き合わせてもらうでござる!」


 景虎は自ら意思を持って、火縄銃を織田信長に向けた。


「ふん! 最後まで付き合ってもらうか……いい仲間を持ったな、光秀よ」


 なんとなく、本当になんとなくではあるが、景虎はその言葉に違和感を覚えた。


(あぁ、きっとこの人は、この人が望んでいたのは……信頼できる仲間。あるいは――――)


 織田信長は、腰から火縄銃を抜いた。 


 この場面に火縄銃の銃口を向ける。ならば、それはただの火縄銃であるはずもなし。


 同時――――景虎と光秀。そして織田信長は同時に引き金を引いた。


 黒い閃光が放たれる。 ダンジョンすら貫く魔力の放出。


 織田信長のそれも同等に力を有している。


 閃光の眩さがダンジョンを光に塗り潰し――――


 その轟音は、全ての音を掻き消していく。


 ぶつかり合った衝撃がダンジョンを揺らして―――― 


 

 


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