第16話 乱入 柴田勝家

  新選組は相打ちの剣。 たとえ相手の一撃を受けても、こちらは致命傷を狙えばよい。


 だが、新選組はこうも教えている。


 『薩摩の――――示現流は初太刀は外せ』


  有村の剣は、ダンジョンの剣。 走り、飛び、斬る。


 その動きは示現流、あるいは薬丸自顕流に非常によく似ていた。


 ならば、どうする? 新選組の天才、沖田総司ならばどう動く。


「僕なら、こうだ!」を剣を下げた。 すでに景虎の剣は振り落とされている最中だ。


 まるで頭を捧げるように、無防備な状態になる。


(直前で避ける……のでは早すぎる。頭を打たれながら――――避ける!)


 沖田は抜き身の巨剣を額で受ける。 しかし、許すのは皮膚と肉が切り裂かれるまで――――致命傷は許さない。


 剣で斬られながら、避ける。 問題は避ける位置だ。


(横や後ろではダメだ。 狙い場所はソコです!)


 斜めに飛んだ沖田は、景虎の側面に移動した。


 そして、ここに来て――――「三段突き」


 至近距離の三段突きが景虎の体に吸い込まれていくように――――


「そう来ることは、わかっていたでござるよ!」


 宙を斬った景虎の巨剣。 地面を叩き割って、なおも動き続ける。


 その軌道、沖田は「――――ッ!?」と驚愕する。


 それは沖田本人が見せた三段突きの突進力を利用した逆袈裟斬り。


 景虎も、同じことをしていた。


 上段からの振り下ろし。重さが上から下に――――踏み込みに加え、重さの反発力によって体は浮き上がっていく。


 それを利用して逆袈裟蹴りに技を繋げたのだ。


 とある剣豪の必殺技を同じ動き。だから、その技には名前がついていた。


 それは――――


『秘剣 ツバメ返し』


 沖田の三段突きと景虎のツバメ返し。 


 攻撃を避けてから放った三段突きよりも、一連の動きが1つの技になっていた景虎の剣が速い。


「くっ!」と沖田は咄嗟に攻撃を捨てる。 迫り来る巨剣を防御する。


 しかし、軋む音も、叩き合う金属音がする間もなく、彼の愛刀 菊一文字は砕けた。


 景虎の刀は、沖田の腹部に叩き込まれた。


 その威力、小柄である沖田の体が浮き上がり――――吹き飛ばされた。


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


「起きろ、沖田」


「……あれ、藤堂さん? 僕は?」


「お前は負けた」


 気を失っていた沖田総司は、藤堂平助の言葉で、上半身を起こした。


「動くな」と短く藤堂は言う。


「内側に着込んでいた鎖帷子がなければ、お前は真っ二つになっていた」


 体を確かめると、鎖帷子も切り裂かれていた。 体にも大きな傷が残っていた。


「刀も砕かれていますね。これでは続きができない――――僕の負けです」


「それで、有村景虎は? どこに?」と沖田は、景虎を探す。


 景虎は、立っていた。 無言で立っている。


 まるで敗者にかける言葉はないと言わんばかりに――――


「次は――――」と沖田は、続きの言葉は出てこなかった。


 突然、ダンジョンで地震。それから、破壊音が轟いた。


 何が起きたのか? 巨大な人影がダンジョンの壁を砕いて現れた。


「魔物――――新手の強敵でござるか?」と景虎は見上げた。


 しかし、それは魔物ではなかった。 巨大な鎧武者だった。


 その姿は、まるでドワーム。 ダンジョンに稀に見かける亜人――――ただし、大きさは、その比較ではない。


 小柄であるドワーフの3倍はあるだろうか? 


 オーク……いや、トロールよりも大きい。 そんな男が鎧に身を包み、片手には――――金棒!?


「おぉ、お主が有村景虎であるか! 良い武者だ!」


 鎧武者は人間だった。――――いや、そんな人間はあり得ない。


 身長は3メートルを越えている。 ならば、何者か?


「ワシの名前は柴田勝家。人呼んで鬼柴田よ!」


 柴田勝家しばた かついえは、戦国時代に織田信長の家臣として活躍し、その忠誠心と武勇で知られる武将である。


 時は戦国、風雲の時代、日本列島を駆け巡る虚妄。その中で、一人の武将が名を刻むこととなった武将が1人。


 柴田勝家、その名は戦場で轟いた。


 剛毅な性格と決断力、そして知略に長け、柴田勝家は信長の信任を受け、家族や領国の守り手としてその使命に誇りを持っていた。


 信長の野望を実現するため、勝家は数多くの戦いに挑み、その腕前はその名を知らぬものは少なかった。        


 ただし、戦国時代――――400年前の話である。


 そんな人物がダンジョン配信に乱入した。 沖田総司だって本物か疑われていた。


 視聴者が大混乱だが、驚いているのは有村景虎だってそうだ。


「織田信長の500歳が特別ではないのか? まぁ新選組もいるんだ……柴田勝家だっているだろう」 


 彼だって知らなかった。 日本の統治者が織田信長である事は常識だったが、他の者たち――――歴史に名を刻んだ強者たちも、ダンジョンからの力で生きながらえていていた。


 その事実に景虎だって衝撃を受けている。


「うむ、決闘の終わりに悪いが……次は、このワシ――――柴田勝家と技を試し合って見ぬか?」


 勝家は手にした武器――――金棒を景虎に向けた。 しかし、それに待ったをかける者もいた。


「待ってください!」と声を張り上げたのは蒼月ノア。その横に光崎サクラも大槌ハンマーを構えている。(光崎サクラは治癒師ヒーラーではなかったのか?)


「ん? そなたたち、何の顕現があってワシの合戦を止める」


「私たちは、先ほどの戦いPvPの立ち合いとして来ています。あなたが、戦うを強要するなら、私たちが立ちはだかるのは当然の行為だと思ってください」


「むむむ、それは正論であるが……」


「あなたも、そのためにいるのですよ。助太刀を頼みますよ」とノアは沖田総司側の立会人――――藤堂平助に声をかけた。


「俺か……断るわけにはいかないか」と立ち上がり、刀を抜こうとする。


 しかし、それを止めたのは沖田総司だった。


「大丈夫ですよ、藤堂さん。彼、やる気みたいです」


「む?」と藤堂は、沖田の視線の先――――景虎を見た。


「くくくっ……」と景虎は笑っていた。


「ノアどの、サクラどの、拙者のために申し訳わけないが、ここは引いて下さらぬか?」


「景虎さん、あなた……」とノアは自然と後ろに下がっている自分に気づく。 


「御覧の通り、拙者は決闘終わりでござる。こう見えて、激しい消耗で立っているのがやっと――――つまり、今が一番強い状態でござる」


「おぉ! さすがは、もののふ! では――――」


「では――――いざ、尋常に――――」


「「勝負!」」


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・・


 有村景虎の配信が巨大なモニターに照らされている。


 ここは――――『ダンジョン管理省』


 そこに勉める職員たち30人ほどが、景虎と沖田の決闘を見届けていたが


「話がまるで違うではないか!」


 そう叫んだのは、ダンジョン管理省長官 蒼月猛だった。


「何が正々堂々の決闘で、本人を納得させて連れ戻すだ! 条約違反だ……すぐに

向こう側、坂本竜馬に連絡を取れ」


「既に緊急回線が入っています」


「何、本人か?」


「はい」


「……よし、回せ」


『申し訳ありません』と電話から流れてきた音声は、間違いなく坂本竜馬のものだった。


「どういうおつもりなのですか? そちら側の存在は、今でも極秘扱いです。有村景虎の件は、あくまで例外的な処置として許可を――――」


『はい、わかっています。ただ……』


「ただ?」


『あの柴田勝家は、少し特別な存在でして……ね?』


 次に坂本竜馬から告げられた柴田勝家の正体。 


 蒼月猛は「――――」と絶句することしかできなかった。 

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