第45話 俊足ならぬ俊敏
私が丸太から落ちてズブ濡れになっていると、元学長の魔人が水底から浮かんできました。
『ワシの作ったアトラクションで、風邪を引いたらいけないからね。乾燥の魔法で乾かしてやろう』
魔人の手のひらで青い光が膨らむと、私の洋服から水分が抜けていきます。
なんて便利かつ親切な魔法でしょうか。
元学長の魔人は、オヤジギャグという致命的な弱点を持ちつつ、私たちみたいな若者に優しい一面もあるわけです。
「さては元学長の魔人さん、大学で勤務していた時代、学生たちに親切でしたね?」
『うむ。若者を見ると、つい手を貸したくなる性分でね。ただしそれを自分の妻に発揮できなかったんだから、きっと生前のワシは、学生に親切することも仕事の一環だと考えていたんだろうさ』
うーん、じめっとした失敗談ですねぇ。
彼の気持ちもわかるんですけど、あくまでうちの配信はお笑い体当たり路線ですから、もっと明るい話をしたいわけです。
この空気をなんとかしないと、うちの配信に集まってくれたお客さんが、他の配信に逃げちゃいますよ。
よし、決めました。彼の親切を逆手に取りましょう。
「私がアスレチック施設の実況役をやるので、元学長が解説役をやってください。あなたの作った施設なんですから、大学で生徒に教えていたみたいに解説できるはず」
『わお! おもしろそうな役割! ぜひやらせてくれ!』
というわけで、私は地の文で実況風に語っていこうと思います。
ごほん。さてSASUKEェ的なアスレチックの挑戦者ですが、二番手の登場です。
僧侶のレーニャさんですよ。
ギャンブル三昧のダメ僧侶ですが、いったいどんな方法で攻略するつもりなんでしょうか!?
彼女は、魔法の杖をくいくいっと振ってから、ふんすっと気合を入れました。
「みてなさいよ。僧侶の補助魔法を使って、丸太橋を攻略しちゃうんだから」
レーニャさんは、魔法の杖に魔力を込めると、俊敏性を高める補助魔法を詠唱しました。
ミツバチみたいな黄色い光が彼女の全身を覆って、ステータス画面にバフが入りました。
この数値ですと、そこそこ足が速くなったはずですよ。
レーニャさんは魔法の杖を地面に置くと、ふんふんっと屈伸運動して、準備完了。
「僧侶のレーニャ、いっきまーすっ!」
絶好のスタートを決めました。
おや、この勢い、もしや本当にクリアできるんじゃ?
と思わせておいて、第一障害の丸太橋で足を踏み外して、落っこちそうになりました。
しかし補助魔法で俊敏性をバフしておいたおかげで、とっさに丸太にしがみつけたので、水たまりに落下することだけは防げましたね。
それでもレーニャさんは不服そうでした。
「えー! 補助魔法を使ったのに、なんでうまくいかないのぉ!?」
まぁたしかに不思議ですね。きちんとステータスだってバフされていたのに。
その答えですが、元学長の魔人が解説してくれました。
『補助魔法というのは、持ち前の能力に倍率補正をかけるものだから、基礎ステータスの低い冒険者に適応したところで、そこまで能力が上昇しないのだよ』
おおっ、さすが魔法大学の学長を経験しただけありますねぇ。これまでのオヤジギャグが鳴りを潜めて、突然真面目な解説ですよ。
そうとなれば、私は解説役の魔人に、丸太橋のコツを聞くことにしました。
「元学長、どうやったら丸太橋をクリアできるんですか?」
『そもそも君たちはクリアタイムを競っていないんだから、ゆっくり歩けばいいんだよ』
あー、たしかに。ってことは、レーニャさんは、補助魔法で俊敏性を高めたことが、逆効果になったんですねぇ。
さて逆効果によって失敗したレーニャさんですが、丸太にしがみついたまま叫びました。
「ノンキに解説してないで助けてよ! このままじゃあたしまでズブ濡れじゃない!」
すいません、実況&解説に夢中で、すっかり忘れていました。
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