オメガバースにおけるβの存在

オメガバースにおけるβの存在意義

 私、西那里奈の持つ一番古い記憶は、両親がセックスしているところである。


 私の両親はα女性とβ女性。αとΩで結婚し、βは普通に異性同士で結婚する今の世の中ではかなりレアだ。


 確かに理屈上は可能ではある。α女性は性欲によって陰茎が生じるのだから、β女性に欲情して陰茎が生じる。ありえるっちゃあり得る。


 α女性の私の親、ここでは父親と呼ぶことにしよう、父親はαとかΩ関係なしに母の、β女性のほうの親のことが好きなのかと、そういうわけではないんだと後から知ったが。



 私が4,5歳の頃の記憶だと、母は私に優しかった。父はあまり私と話すことはなかった。


 私は自分から話しかける勇気はなかった。身長が母よりも高くて、同じ屋根の下にいる何か怖いの、みたいな認識だと思う。


 だから小学校に入って以降、作り話なんかで怖いと感じたことがない。感覚が麻痺してるんだろう。


 小学校の間は、学校では何もなかった。ほどほどに友達はいた。


 父親の名前は紗江で母親の名前は由奈。二つの名前はセットで記憶にある。


 紗江「由奈っ...愛してるよ。子供もう一人作ろうって。だからさあ、出していいよな。」


 由奈「紗江、やめてよ、もうやめて。やだ。そんなことできないから。」


 

 私の小学校の家庭での記憶の半分くらいがこれだ。


 朝早く目が覚めたとき、家で知らない女性の声を聴いたことがある。私が小学二年生のときだ。もしもっと年が上のときにそんな場面に出くわしていたら、やめなよって言えたかもしれない。


 小学六年生のときに友達からそういう行為とかαΩとかのことを知らされてそういう知識が入ってきた。


 中学に入ると保健の授業で教わった。


 私は家庭環境が相まって、根暗なほうではあった。同じようなタイプの友達がいたから寂しくはなかった。一緒に図書室で雑に時間潰してた。


 中三のときに全国の中学で必ずαβΩのどれに該当するかの検査がある。


 私はβだ。正直、Ωじゃなくてよかったーと思った。けど友達はΩだって言ってきた。


 里奈「そのー、なんで私に教えてくれたの?授業で言われたじゃん。本当に親しい人にもあまり言うことじゃないって。」


 友達「え、えっとね!あ、あー、あれだ。あまり言うことじゃないの、言わないほうのパターン。」


 やけにわかりづらい理由だけど、あ、ああそうとうなむやというわけではないが流れに負けてそのまま私に教えてくれた理由はわからなかった。


 中三の夏休み、その友達の家に遊びに行った。ヒートって言うんだったか。αの人を寄せ付けるホルモンを分泌するらしいけど、私はβなんだけどどうなんだろう。


 なぜかその友達がヒートの最中に私を呼び出した。


 里奈「あの......なんで呼び出したのかな......ゲームとかできるの?」


 ヒートの特徴として、性欲の向上があるというのを忘れていた。友達の部屋で、陰キャな私たち二人が淫らな行為をしたという事実は非モテ同士の傷の舐め合いだと思われるだろう。そう思われても別にいい。


 私は興味半分でそういった関係を了承した。もう半分は断るとただでさえ少なすぎる友達が減ってしまうのが嫌だからという問題だった。


 けど浅はかな判断だった。勢いで私はいいよと答えてしまったから。興味半分でと言ったが次の日になれば考えは変わる。父と似たような女性になってしまうかもと脳裏に過った。


 α、Ωが存在する私たちの社会で、性犯罪は同性間のものが一番多い。だがそれはなんとなくの風潮であって、表沙汰に出ているわけではない。なんの統計データも根拠もない。しかしみんな内心そう思っている。知っているが見て見ぬふりをしている肝心の通報する人物がいないから表沙汰に出ない。


 黙認されているも同然だ。そもそもなぜαとΩがいる?ほかの動物を見てみろよ。そんなものないだろ。人は猿から進化したという。猿はオスとメスしか性別の概念がないし、αΩがないことなんか、もしあるなら今の時代ならとっくにわかってる。


 どこで誕生したんだ?進化論に反する。必要なのかわからないこの性別が”どこ”から来たのか知りたくなった。


 

 進路の話題が出てくる時期だ。


 私は将来研究職に就きたいとボソっと両親の前で言ってみた。


 母は好意的なことを言ってくれて、父は興味がなさそうな反応だった。なぜα女性が存在するのかという疑問が余計に深まった。


 

 夏休みが終わった。私は勉強を頑張り始めた。この時期から受験を意識し始めるなんてがり勉だと思われてそうだから学校から帰ってから勉強するにようにした。


 友達との関係はなんと言えばいいんだろうか。帰り道、手を繋いでくるようになった。


 健全な恋愛じゃないか。私は友達の、この女の子が、自分と同じで口数が少なく会話下手なこの子が好きだと、多分そうなんだ。


 βとαまたはΩが恋愛をすることはないとは限らない。私はそれを知っている。多分誰よりも知っている。だから素直に自分の心を理解できた。


 そして両親みたいな形にはならないだろうと思った。なぜなら相手の子はΩだし、私はβだし。どこにも暴力性はない。


 

 当時はそう考えていた。あまりにも浅はかな考えだった。


 私の親がしていたことを忘れたのか。妻がいるのに別の女とやっていた女だ。αの女は複数人に手を出す。その事実を当時の私は知っているはずだった。


 

 私が通っていた中学校の同じクラスに那由多 美来(みらい)といういつも一人の女の子がいた。私らは陰キャ仲間と同盟組んでるしぼっちのその子よりはマシだって考えていた。


 

 おそらく事が起こったのは10月12日の学校終わったあとの時間帯。


 美来は私の友達を家に連れて行き、跡をつけた。


 ちょうどそのころ私と友達は席が離れてて、美来と友達は同じ班で、おそらく掃除の時間に誘われたのだろう。


 そして日付が分かるのは、その日以降二人共学校に来なくなったからだ。


 私は偶然かと思っていた。

 

 一週間経ち、まだ学校に来ない。だから直接友達の家に向かった。しかし何度も聞いた友達の母親の声で暴言を言われた。怖くなったが誤解なのだろうと思い説明しようと「いつも遊んでる里奈です。」と言い、ここ最近ずっと休んでて不安で家に来たと言った。確かにそうはっきりと少し声を張っていったはずだ。


 ドア越しに友達の母の声が聞こえた。


 「なんでうちの子が、死んじまえ、何回でも死んじまえ。そもそもΩじゃなかったら。」


 私はその母と同じ感情になったのだと思う。立てなくなった。あまりのショックで気絶する寸前まで一気に追い込まれた。あれほどの経験は人生で一番すごい。なかなかないと思う。レアな経験をしたものだ。


 

 それから数日後、やっとクラスの担任の先生から説明があった。α性の人は気を付けるように、Ω性の人も十分気を付けるように。


 気を付ける?人と二人きりになってはいけないということか。ああそういうことねわかったよ。けど私はβだし何もできないか。


 先生の言葉はどうでもよかった。


 二軍女子が小声で言っているのを私は聞いた。あいつホルモンダダ洩れでマジやばかった、淫乱なのに被害者面って、と言っていた。傑作だ。私の最初で最後の恋愛はこうして終わった。



 悲劇だ。こんなことが人生で起こるなんて。中学三年生だ。15歳でこのような失恋をする人は一体何人いるんだ。


 


 高校受験が近づいてきた。私はショックを理由に学校を休むつもりはなかった。もしショックで休むという行為を一度でもしてしまったら、二度と学校へ行けなくなると思ったからだ。


 現実に目を向けず、逃げに徹するしか方法はなかった。あのことはなかったと、なかったことだ。私はがり勉キャラで、毎日授業と授業の間の10分間の休み時間、勉強をする。それが西那里奈だ。そうだ。それでいい。


 

 まだ15のはずなのに一日一日が過ぎていくたびに胸が締め付けられる。内臓の圧迫感。だがその原因は勉強のしすぎで猫背が悪化しただけかもしれない。


 県内で一番偏差値の高い公立高校を志望した。地方なのでその高校が一番偏差値の高い高校でもあった。


 11月の下旬に、父から言われた。私立に行かせられる金はないと。公立を受けるなら確実に受かるところにしとけと言われた。


 意見の対立。一番避けたかった。私が反対すると何が起こるか。容易に想像がつく。


 いいだろう、確実に受かるところにしてやるさ。思い通りに行くと思うなと、意気込んで県内で三番目に偏差値の高い公立高校を受験した。


 だがこの判断は間違いだった。


 


 高校に入学して、新しく友達を作ろうとまず考えた。友達、もう過ぎたことだ。心機一転。


 意外なことに初動はうまくいった。よく話しかけてくれる人がいて、私はそれなりの人数の友達に恵まれた。


 友達と一緒に外出してカラオケ行ったりショッピングモール行くなんて初めての経験だ。友達たちは慣れてるが私は全然ついてけず。しかしそんな私にも優しく接してくれてる彼女らとはうまくやっていけると感じた。


 私がなぜ勉強を頑張ったのか。それはαだとかΩだとかが存在する理由を知りたかったから、なんでこんなものがあるのかと憎しみが原動力である。そんな原動力で、到底私の精神は持たなかった。


 高校入学祝いで母からスマホを買ってもらい、インターネットを使い始めて私は真っ先にα、Ωがなぜあるのか調べた。


 当時の私の理解は、人間には三つのうちどれなのかが分かることが遺伝子からわかるらしい、程度のことだった。


 なぜ人間にだけあるのか、他の動物にαやΩがないのはなぜかと調べてもなかなか知りたいことはヒットしなかった。


 余計疑問に感じた。私のような人ですら疑問で思うことなのに、なぜ、インターネットという情報がたくさん手に入る手段を使ってもその疑問の答えが出てこないのか。


 もしかして政府ぐるみで何かを隠してるんじゃないかと本気で考えたことがある。そう考えていたときは目に入るすべての景色が怪しく見えた。


 

 一年生の最初のテスト、一学期中間テストの結果はクラス内で40人中15位だった。


 

 生物基礎の科目を担当している女性の教員がいた。私は生物基礎の授業が終わった後に先生に相談があるので放課後時間を設けてくれませんかと頼んだ。先生は一体何を相談するつもりなのだろうかと不思議そうに了承し、進路指導室にて私は先生に直接、自身の疑問と将来のことを話してみた。


 如何せんどういった選択をすればこの疑問の答えに辿り着けるのか何もわからないため、詳しい人に聞くしか方法が浮かばなかった。


 先生は少し考えてから口を開いた。確かにその疑問は現在はまだ未解決であり、研究中といった。ではなぜネットで検索してもその誰でも思いつきそうな疑問に対してそれは未解決だと教えてくれるサイトがないのかと問い詰めた。


 先生は、きっとセンシティブな話題として規制がかかっているから見れないだけなのではと答えた。さっきより口を開くまでの時間が長かった。私はさらに問い詰めた。私のスマホにそのような規制フィルターはないと。今この場で証明することもできるが。


 学校へのスマホの持ち込みは禁止だと言われた。話の腰を折るな。本当に研究されているのか、何を隠しているんだと問い詰めた。勝利を確信した。こいつらは隠している。私たち人間にαβΩの分類があるのには人々に言えない事情があると。そして目の前の大人の対応を見るにこいつは知ってやがる。問い詰めてやると調子に乗っていた。


 だが先生は分からないの一点張りだった。わからない?何を言ってるんだ。知ってるだろ。何が分からないんだよ。


 あのときもっと冷静に尋問すればよかったと後悔している。少しでも早く真実に気づいていれば違う結果になっていただろう。


 先生ですらそのとき初めて疑問に思い、困惑したのだ。なぜ今まで疑問に思わなかったのかという事実に。



 結局無駄な尋問だった。その日からなぜか私は問題児として扱われるようになった。ほうら見ろ。”真実”に気づいているから厄介だと思ってるんだろと内心考えていた。実際は全員の大人が本当に困惑していただけだった。


 私は学歴を得て、社会的地位を得ることで真実を知ろうと考えた。だから、東大に行こうと決意した。浅はかな判断だった。


 その日、家に帰って母に、父にバレないようこっそり聞いた。なぜαβΩという分類があるのか教えてくれと。母は当然困惑していた。だが私は本当に知らないのかと母を脅した。


 大学、そうだ大学だ。母は大学を出たか?そこで学んだか?


 問い詰めた。


 母は高卒だからと言った。


 わかった。知恵がないんだな。バカなのか。α女性にレイプされてデキ婚するような女だ。α女の父に聞いてやる。


 あまりにも思春期らしい行動である。私を除いたほとんどの思春期の人はこんな疑問を持たないが。


 父の反応が予想外で私は思考が止まった。


 私の質問があまりにもありえな過ぎたのか。

 不意を突かれたかのように「はぁ?」とまぬけな返事をした。


 お互い何がなんだかわからなかった。父は暴言でも吐いて何かを隠すのではと覚悟していた。しかし父は何を言ってるんだこの子はときょとんとしていた。なんでこういうときに、こんな大事なときにだけ、いつもと違う反応をするんだよ。ずるいだろ。卑怯だろ。理不尽すぎるだろ。これじゃまるで私がおかしいみたいじゃないか。なんだよその反応は。そういう目で見るな。本気で不思議がってる目で見るな。



___________________



 誰も信用できない。友達付き合いが悪くなった。一体君はなんなんだ。どこから来たんだ。


 私はβだ。一番純粋な人間だ。αとΩの人間は何者なんだ?


 どこから生まれてきたんだ?ダーウィンがあの世で泣いてるぞ。進化論に反するだろ。なんのためにそう進化したんだよ。



 

 病院送りは嫌だからなんとか普通の人のふりをした。


 だが変な奴っていうオーラでも出ていたんだろうか。二年生に進級すると関わる同級生の数はぐっと減った。


 クラスで目立たない陰キャの人と関わることが増えた。


 独りぼっちでいるよりはマシだ。


 そういや成績、というより学年順位やクラス順位は大きく上がった。


 高二の夏休みに、関わりがなくなったと思っていた元友達の人に呼び出された。久しぶりに一緒に遊ぼうよと私含め合計三人が集まった。うち一人も交流が何度かあった人だから変に緊張することはなかったが、なぜ今になって呼ばれたのかわからなかった。


 「里奈ってα?」


 突然そう聞かれた。そんなこと気軽に言うものではないのでは。一体何を試されてるんだと躍起になりβだと答えた。友達はおーラッキーと言った。意図が分からなかった。


 駅前付近の人混みが多いところに来た。一年生の最初の頃、よく連れてこられた場所だ。そこのそこそこ高い建物に連れてかれ、エレベーターに乗り五階を押した。どこ行くのと今更尋ねたがめっちゃ楽しいとことしか返してくれない。最初に連絡が来たときも同じ返答しか来なかった。


 ホテルか?カラオケ?


 個室に入ると、知らない女性三人がいた。年上に見える。服装からして大人かと予想した。私の同級生他二人はこれから何が起こるのか知っていたのだろう。


 私は初めてこの目で女性同士がキスをするところを見て、どういう遊びなのかを理解した。同じ学校、あの受験を突破した同い年だというのに、一体なぜ、そんなに、動物みたいなことをするのか。


 元友達のそいつはこの子はβだよと嬉しそうに言った。


 血は繋がってるんだな。


 なんでこの女性はよりにもよって顔が、かっこいいのか。


 初めてなんだねと言ってきて優しく頭を撫でてきた。αの女性にレイプされるのか、私は。


 私は母親似だ。同じβである。Ωじゃないことをいいことにα女性にとってβ女性は便利な性処理道具でしかない。Ω女性なんてもんは”めんどくさい”と言っていた。


 だからα女性はよくβ女性を抱く。


 私の初体験は会ったばかりの名前も知らない女性に奪われた。中に出された。


 私の同級生二人は私と同じβだとわかった。もしΩが一人でもいたならこんなきれいに二人一組合計三組の乱交なんてならないだろう。


 私は激しくイキ狂い、何度も絶頂した。言いたくないことを何度も口にした。


 理不尽という言葉がよく似合う現実があった。


 名前を知らないα女性に抱かれていると体温を共有できて温かい。いつも寂しかった私の心の影を埋めてくれる。こんなもので埋められたくない。けど他に代わりが思いつかない。


 元友達のあいつは気持ちよかったでしょと言ってきた。私をいじめるとかそういう邪心は一切ないんだろう。本当にそいつは便器になっていたからだ。本心からα女性に屈服してる。そんなに女にめちゃくちゃにされるのが好きなのかよ。気持ち悪い。


 


 

 数日後、美容室で一気に髪を切ってもらった。少しは向こうの性欲を抑えられるだろ。どうだ、これで私はタチよりの人間だと認識するだろ。


 何がしたいんだ私は。無意味だった。しかも私は何度もあの場所に行った。連絡先まで交換した。


 その大人の女性は真紀子って名前だと知った。住んでるアパートに連れてかれて昼間からセックスしまくった。


 それが習慣化し、ある日からよく舌を入れてくるようになり、私の心までレイプされた。


 


 やっと夏休みが終わり、解放されたと勘違いしていた。三種類の性別のうちどれなのかが判明してしまいそれがビッチな同級生にバレてしまったという事実は非常に恐ろしい。学校内でこんなにも不純な同性間の行為が蔓延しているとは予想外だった。


 なぜ後輩の私にまで手を出すんだ?


 最早私は自分が誰とセックスしたのか覚えられなくなった。というより、記憶がないうちに他の女子生徒のαにされていたと聞いただけである。これ以上日常化するのはなんとかしたいが、ずるずると流されてしまった。なぜか。快楽が原因だ。私は強くなかった。快楽に負けてしまい、勉強は私の目標には到底及ばない量しかできなかった。


 私の高校生活はこのようなものである。勝手に犯かされて、家に帰っては勉強して、その繰り返し。家では、父は母に何もしなくなっていた。歳のおかげで母は苦しみから逃れられた。父は何を生きがいにこれから生きるつもりなのだろう。


 

 大学は中堅の国立大学に受かりそこに進学することになった。


 当初の東大に行くだなんていう目標には到底及ばない結果。


 手遅れか。私はもう諦めかけていた。


 顔のいいα女性に無理やりされることにハマってしまい大学入学後女子限定ヤリサーに入ってされるがまま、二年間が経過した。


 私は単位が足りず留年が決定した。親元から離れて仕送りとバイトで生活をしていたがこのことをきっかけに親からの仕送りが減った。減った程度で済んでありがたいと思った。あの父親がいるのによく減らすだけで済んだものだ。


 もう一度二年生を繰り返すとはなんてことだ。私の目標はなんだ。なんでαとかΩなんてもんがあるのか知りたくて、おそらく進化の過程に関する知識や研究をすれば分かるのではと生物学科に入学した。


  それなのに学業を怠りα女性とのセックスに溺れている。バッドエンドだ。これは酷い。二十代に入り、自分の人生を振り返るとゴミみたいなものに見えて、汚い。だが異臭はしない。所詮記憶、過去に起こった事象の積み重ねでしかないからだ。


 もう終わらせたい。


 二回目の大学二年生の私はセックス依存症でうつ病だ。ただし自己診断である。


 欠席が減ることはなく、私はもう人としてダメだろうと絶望していた。辛い。生きていることがあまりのも辛すぎた。


 αとΩが性行為をしてβが異性愛をする、これが普通だと思っていたが世間一般の常識は違うそうだ。


 αは同性のβで性処理をして、特別かあるいはとりあえず籍を入れるためにΩと番になる。βの存在意義すらα、Ωと同じく謎である。


 そもそもなんで子供を作ることに特化したαとΩなんかがいるのか。β単体でも子供を作ることは可能だ。


 それなのにそれを逸脱し人類は娯楽のための性行為のためβをΩと同等に雑に扱う。

 

 人類史ってなんだ。どこかでバグが生じてる。


 死んだら全部分かるのだろうか。


 快楽なんて十分に得てる。


 さて、自殺実行だ。




 当然失敗する。思い通りにはならない。


 私のご主人様がね、突然家に押し入ってきた。偶然阻止されそして慰めてもらったんだ。


 大丈夫って優しく言ってきた。何度もよしよしされてちゅーされて、そのα女性の陰茎を舐めまわした。


 名前は知らない。他の人に比べて優しいからご主人様って勝手に心の内で呼んでる。


 α女性の体液いっぱい飲めて幸せだ。



 大学を退学した。


 また留年が確定したため、親からの仕送りがなくなったからである。


 行き場をなくした私は肉体関係がある人の家に上がり込んであっちこっちをふらふらとするしかなかった。


 なぜこんなにも性行為をして妊娠しないのか、高校生のときに知った。α女性がβ女性を妊娠させるにはそれはとにかく何度も何度も連続で出さなきゃいけないと聞いた。医学的に解明されたとかは知らない。経験則でそういう人たちの間で伝わってる話なんだろう。


 ちなみにだが、男性側も全く同じ事情だ。私たちα女性とβ女性の関係性がそのままα男性とβ男性の間にある。β男性は確実に妊娠しないという理由でα男性はうらやましいもんだとα女性が愚痴っていたのを聞いたことがある。責任を取る気なんてさらさらないことを意味する。妊娠せず中に出せる人がいればいい。α女性にとって身近なのはβ女性である。だからそうなる。それだけである。


 私の両親はマシなほうだったのだと気づいた。こんな変な法則が存在すると知った途端見え方が変わる。


 それほど私の父は母のことを愛して何度も抱いたということだ。私はいろんな女性のところをたらいまわしにされている。


 年月が経ち、若さで気を引けなくなり私の需要は減りつつあった。


 生活習慣やストレスのせいである。簡単な話だ。そしてそんなボロボロな私をわざわざ抱こうとするα女性がいなくなるのは必然であった。


 それは26のときだった。




 自殺をするのはこういうときにすべきなのだろうが肝心なときに勇気がでない。なんという為体。なんのためにいきているんだろう、と疑問に思い青空を眺めていると、友達のことを思い出して涙が出た。涙が出ただけで済むほど過去のことに思える。


 変わりすぎてしまった。



 私に優しくしてくれたご主人様が働く場所を教えてくれた。


 α女性向け、というより限定の水商売だ。金を払う人なんているの?と聞くと普通は君みたいな淫乱すぎる人に出会わないと言われた。


 β女性がα女性の性処理道具でしかないという認識は間違っていた。私が勝手にα女性の肉便器だと思い込んでいたのだった。数年間もだ。そしてこれから、それを仕事としてするわけだ。まぬけだ。これもまた傑作だ。一人で抱え込んで誰にも相談せず十年近くα女性の肉便器として生きていたんだ。どうだこんな経験をする人間がどのくらいいる?すごいだろ?


 確率的に問題ないからという理由でゴムなんて当然なく毎日かわるがわる訪れるα女性に抱かれる。やっと自立して生活ができるようになった。


 

 私はこれでいいのか、なんて自問自答する年頃ではなくなった。悩みがないに等しい。既にそんなことを思考する脳のしわが消えつつある。


 食欲に従い食事をし、睡眠欲に従い寝て、性欲に従いα女性の陰茎を求める。これら三つがすべて満たされた毎日を送っている。これ以上何を求める必要があるのか。理解ができない。


 仕事のために外見を必要最低限留めていた。というより、なぜか維持され続けていた。これは素質?才能というやつか?生まれつき持っていたというやつか?役に立った。きれいな便器としてまだ使われるから。


 

 

 30になったときに、客の一人が連絡先交換しようとか名前教えてとかよく言ってきた。その客が、私が今ここにいる原因、張本人である。


 西那里奈って名前だよねと四回目に指名されたときに言われた。私の反応でその人は確信してしまった。


 一応匿名でやっているはずなのに。つまりこの人は私の外見、声などの情報で特定した。それほど深く関わってる人っているか?思いつかない。誰なのか想像つかない。このα女性の客は誰か検討が付かなかった。


 君は誰なのと問うてみた。那由多美来と返された。しかし誰なのか検討もつかない。君とどこで会ったのか覚えてないんだよね、ごめんと言う。


 美来「中学のころ同じクラスだったでしょ。そんでΩの陰キャの子と付き合ってたのが君でしょ。ほら、あのときのあいつだ。」


 醜いもの、汚いもの、性格の悪いやつに囲まれて十年以上生活してて、それでも今目の前にいる女の邪悪さに勝る事例を知らない。


 美来「今は仕事中でしょ。私のちんぽ舐めな。ほら、舐めなよ。あの子と間接キスできるよ。」


 最低だ。なぜこんなことを私にしてくるのか今でもわからない。彼女の本心、意図、やりたかったことは今でもわからない。理由が見当つかぬ。α女性だからか?普通のα女性はそうではないとここに来てから知った。


 美来「舌使いすっごー。決めた。あんたを妊娠させる。絶対孕ませるからね。あの子とも子供作りたかったんだけど亡くなったからなあ。」


 

 番にしといて、一方的に解除して放置する。なぜこれが法律で禁止されてないのかわからない。それが原因で私の友達は自殺したことを知ったが動揺したり泣く余裕すら与えずセックスさせられた。


 なぜかその子とのセックスがあまりにも気持ちよかった。おかしいだろ?何か変だと思わないか?ここまでの話、出来すぎている。一体どうして那由多美来は私の居場所を突き止めたのか。なぜそいつと私の体の相性がめちゃくちゃいいのか。


 まだまだわからないことだらけだ、この世界は。




 私は那由多美来を自宅に招いてしまい、快楽に負けた。


 愛してるという言葉がある。この言葉はとても曖昧で、厄介で、存在してることが奇跡に近い。


 私はそいつとのセックスの最中言ってしまった。人間がおかしいのか言葉の存在がおかしいのかわからない。


 そいつは大手企業で仕事をしている。昼間は優秀な社会人として振舞っていた。α女性だから。


 私は彼女にとっての何だ?彼女の陰茎が私の性器に入れては出して、抜いてからまた入れて出す。この行為の意味はなんなんだ?なんのために人は子孫を残してきたのか?こんな未来のために命を繋いできたのか?


 命を産み出すという行為がこんな形で利用されてると神が知ったらどう思うのだろうか。


 セックスはあまりにも娯楽になりすぎてしまった。


 Ωは子供ができてしまってめんどくさいからβのほうがやりやすいという理由で私は生きてきた。人類は反省すべきだ。一度リセットしてやり直したほうがいい。



 31の頃、ついに私は妊娠してしまった。


 後のことは単純だ。あんたらと同じだ。


 出産後赤ん坊を土に埋めて那由多美来を殺害し、ここに来て今あんたにこうやって語りかけている。


 どうだい気分は。私はここに一番長くいる長だよ長。年寄りの話を聞け。



 まったく、新しくきた新入りの女は私の話を聞いてくれない。


 重罪を犯かし、刑務所行きになったやつらの中にも社会がある。私が一番上だ。


 次はあんたの番だ。何をしてここに来た。


 「ばばあのいつもの自分語りだ。無視しろ。ただのセックス依存で被害者面して夫の女と赤ん坊殺したろくでなしだ。」


 お前はいい加減黙れ。新入りに私の人生を教えることは必要なんだ。


 「いや、私はちゃんと聞いてました......」


 女子刑務所なんてもんできたのは私が原因だ。私は一番最初からここにいる。北海道女子刑務所のナンバーワンだ。


 あんたは何してここに来た。どーせα女性殺したんだろ。どんな関係だったんだ?



 「いいえ。その、私は小学校教員だったんですけど、女子生徒たちにお互い性行為をするよう強要してて、それがバレてって感じです。」



 未成年に強制わいせつか。しかも小学生と。そりゃここにくるか。しかも教員とは。それに未成年同士を強要させるとは。ただの変態だね。



 「あなたの話を聞いてて、私思ったんですよ。きっとこの世界は誰かが見たくて作ったんじゃないかなって。あなたはその物語の主人公だと思うんです。」


 どういうことだい。



 「私は単なる好奇心でαの女の子とΩの女の子を交尾させたり、αとβ、βとΩでさせてみて、それを録画して毎日見返してました。それがすごく楽しくて、生徒たちの間で恋心が生じちゃって互いに憎み合ったり愛し合ったり、好きでもない女子生徒としてて気持ちよくなって罪悪感で辛い思いをしてる生徒を見るのが好きで好きで。多分これがαとかΩが存在する理由ですよ。私みたいな人がいて、その人がこの世界を作った。だから誰もこんなにおかしい現状に疑問を抱かないし、抱けない。そのほうが見てて気楽じゃないですか。」



 「うっわ変態な上に陰謀論かよ。お前Ωだろぜってー。こんなのが教員とか今の社会どうなってんの」



 けど、あんたはその仕組みに気づいたわけだよね。それに私は四十年以上も昔から疑問に思ってる。その時点で、この世界に想像主なんていないことの証明になるんじゃないの。


 「確かに.......本当に想像主がいるなら、まずこんな疑問を抱かせるようなことはしませんし、私にこんなことを言わせませんね。


 あと、一つあなたの話で疑問点というかわからない点があるんですけど......」


 ほう。質問か。他人の話をきちんと聞いてるなんてなんて出来のいい奴なんだ。気に入った。さて、それでは質問してみな。


 「男性って、単語としては出てきましたけど話の中には出てきませんでしたよね。私、今まで男性を見たことがないんですけど、本当に男性って存在するのでしょうか。」


 盲点だった。

 


 


  



 






 

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