人型の魔物

 三日後。

 比較的体を動かすのが楽になった、俺は初心者勇者装備を着込み森の中を歩いていた。


「……おっと」


 森の中から飛び出してきた兎を避け、首を切り裂く。


「キュイッ」

「……やっぱり、結構楽に仕留められる」


 仕留めた兎の血を抜いて、軽くした俺は持ってきた肩掛けカバンに詰めた。

 このカバンは昨日、グラハムが買ってきてくれたものだ。

 

 何でも、結構いい魔物の皮を使っているらしく、軽くて丈夫な物になっている。

 その上、ライトノベルではお馴染みの空間魔法に近い技術で容量を増やしているそうで、見た目以上に多く入る。

 重さは軽減されないけどね。


「……よいしょっと」


 カバンを肩にかけ、森の奥へ奥へと入っていく。


 少し歩いた先で、俺は湖に出た。


「……湖なんてあるんだ」 


 ゆらゆらと揺らめく水草に覆われた大きな湖だ。

 そんな湖の遠くで大きな魚が飛び跳ねているのが見える。


「魚、いるんだ……大きい、一メートルくらい?」


 そう呟いて、眺めていた目の前で一メートルの巨大魚がさらに巨大な魚に食われるのが見えた。


 その大きさは実に10メートル近かったように見える。

 いや、むしろそれ以上か……


「ゴクリ……」


 一口で丸のみだ。


 そんな巨大魚を丸呑みした……超巨大魚は泥のように鈍い鱗を光らせながら何事もなかったかのように湖の中に潜っていった。


 波紋が広がり、音一つない湖畔。

 俺は、ただただ圧倒されていた。


「……凄いの見た」

「ゴブゥ……」

「いつか、あんな魔物……倒せるように、なるのかな?」

「ゴブ、ゴブ」


……いや、倒せるようになっておきたいな。

 アレを倒せるようになっておけば、比較的心に余裕ができるだろうし。


「よし……目標は、あの巨大魚を倒す……でいいかな?」

「ゴブっ‼」


 そうして、目標を定めた俺。

 それにしても、さっきからゴブゴブ煩いな……


「……ん?」

「ゴブ?」

 

 ふと俺が隣を見ると、そこには小さな緑の人型生物が座っていた。


「……ゴブリンっ⁉」


 俺は腰のナイフを引き抜いて構える。

 緑色の人型生物……ゴブリンも俺と同様戦闘体制に移行した。


 ゴブリン。

 それは、森の中で暮らす人型の魔物である。


 子供並みの身長、子供並みの力しか持たない最弱の代名詞。

 それこそがゴブリンである。

 

……とはいえ……同じ体格で魔物。

 油断はできない。


「ギャギャ……」


 そんなゴブリンは、近くにあった木の枝を拾うと、まるで棍棒のように構えた。


「人型の魔物……やっぱり道具を使うのか」


 そう、少し感心していると、ゴブリンはその手に持った棍棒を振り下ろしてきた。


「っ……」


 ゴブリンの棍棒を、かすりながらも避けた俺。

 

「ちょっと、びっくりした……けど……」


 ゴブリンは、先ほど振り下ろした攻撃の反動でか、バランスを崩していた。

 これはチャンスだ。


「所詮魔物……ってことか」


 兎と何も変わらない。

 ただ人型っていうだけの魔物。


「これで、終わりだよ」


 そう言って、俺はゴブリンの首元めがけてナイフを振るった。


 


 

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